『カメラ=万年筆』ムーン・ライダーズ

「カメラ=万年筆(CAMERA egal STYLO)」とは、1948年にフランスの映画監督アレクサンドル・アストリュックが提唱した思想で、"映画は旅行記でも史実を記録する為だけのものでは無く、一つの言語になりつつある、カメラを万年筆のように自由に操り映像という文章を綴る" といったもの。同時期にロベール・ブレッソンも同じ様な意見をのべている。

この語法はもう少し若い世代、つまりヌーベル・バーグを生み出した世代に大きな影響を与えた。

別の見方をすれば、ルネ・クレール(『幕間』1924)頃からの[フォトジェニー]な視点を発展させ、ロベルト・ロッセリーニ(『無防備都市ローマ』1945)等のネオ・リアリズム派と、ヌーベル・バーグとの橋渡しをしたのが「カメラ=万年筆(CAMERA egal STYLO)」ともいえる。

ジャン・リュック・ゴダール(『彼女について知っている二、三の事柄』1963、『アルファビル』1965)や、フランソワ・トリフォー(『大人は判ってくれない』1959)、そしてゴダール、トリフォー、クロード・シャブロル(『いとこ同志』1958)等のカイエ派とは少し異なるが、アラン・レネ(『24時間の情事』1959)などは、ヌーベル・バーグの代表的な騎手達だ。

アーサー・ランクのアメリカに対抗するような大作主義によって生み出されたデビッド・リーン、パウェル=プレスバーガー、キャロル・リード(『第三の男』1949)も50年代に入り力を失ってくる。これに変わってブリティッシュ・フィルム界に登場したのが[怒れる若者]達の映画、トニー・リチャードソン、カレル・ライス等の作品だ。ミケランジェロ・アントニオーニがイギリスで撮った『欲望』(1966)も、この系列に入れてもいいだろう。

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このアルバムまでも、映画のタイトルを引用した曲はあったが(『砂丘』=アントニーニ、『鬼火』=ルイ・マル、『地下水道』=アンジェイ・ワイダ)、ライダーズの映画愛を一挙に爆発させたのがこのアルバム。

ジャケットの、さもヌーベル・バーグにありそうなカット(トリフォー+ゴダールって雰囲気)。見事なばかりのトータル・コンセプト・アルバム。

これを最後にクラウンとは訣れ、新たなレーベル漂流の旅に出発するのだった。

91/06/2019:01 *久田 頼


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