『アマチュア・アカデミー』ムーン・ライダース
ムーン・ライダーズ全アルバム総レビューが始まる前に僕は思った。きっと初期のアルバム(クラウン/パナム時代)の方がだんぜん思い入れが深いだろう。「やっぱ、初期のライダース聞かなくっちゃさぁ〜」なんてしたり顔をする自分を思い浮かべていた。

この考えは41%しか当たってなかった。思い出のいっぱい刷り込まれた初期のアルバム。その、音による条件反射で浮かび上がってくる酸っぱいような懐古も決して悪くない。


しかし、まだ僕のなぞった指跡はついていない『マニア・マニエラ』以降のアルバムには、まるでヌーベルバーグの《発見》のような、新鮮さがあった(実はアナログからCDに買い替えてからまだあまり聞いてなかったアルバムが多かったせいもあるが)。

たとえば、この『アマチュア・アカデミー』も、記号化されたタイトル、ベトつかない事務機のようにモノクロームな歌詞、鍛錬された肉体を思わせるソリッドなサウンド。最初に出逢った当時は、そのどれをも表層的にコンセプシャルのみで捉えていただけだったかもしれない。

構造化された肉体。溢れない感情の極限。音楽性は異なるけれど、どこかこのアルバムにゴスペルのストイックさを感じてしまう。整然と屈折した秩序。まるで、別れを決意した恋人に恋をしてしまうような長方形の苦悩。

分度器で書いたような線、だけど動悸まではっきりと感じてしまう。何度聞き返しても、こちらの思惑を一言で否定してくれるような、そんな真正直に不思議なアルバム。

『マニア・マニエラ』以降のライダーズのアルバムは、毎回ラスト・アルバムをこしらえているような感がある。何かを出発させる為の音楽ではなく、肉体を科してまでモニュメントを建てていくような。

91/05/17 *久田 頼


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