『アニマル・インデックス』ムーン・ライダース
アンモナイトの記憶。アナログ盤だけだったけど、まるでファイルのようなハイテックな歌詞カード。ブルーグレーのグラデーション。アニマル・インデックスのロゴ。

このアルバムの質感ってどこもかしこも大好き。べとつかないデリケートな距離感がいいのかもしんない。行間がくっきりとしている。

屈折の塊のようなライダーズのアルバムの中にあって、さらに孤高の位置をキープしているようにも思われる。すがすがしい孤独感。個人主義の団結。

・悲しいしらせ//聴く度に違う風景が浮かび上がってくる。矢作俊彦の横浜小説のような、ビル・フォーサイスのイングランド映画のような。サビのあとで一瞬ジャージーなリズムが挿入される部分が天国のように心地いい。

・犬にインタビュー//イントロに流れる「ハッハッハッ」という犬の荒い息(?)のようなサンプリング音が好き。サビに入る前のクレイジーなフレーズが良明らしくお茶目。コーラスの掛合部分はかなりファンキー。

・ウルフはウルフ//満月の夜に変身するウルフ・ガイ。まさしくルナティックなアクシデント。鼻にかかったシオカラ声が実に切ない。

・羊のトライアングル//珍しく岡田/佐伯コンビの曲。9to5の恋愛日常のテーマ。イントロのスコティッシュ・トラッドのような雰囲気から本メロに入るアレンジが秀作。このリアルさは「クラゲの海」そして『最後の晩餐』への布石のだったような気もする。

・さなぎ//ふとクラウン時代のライダーズを彷彿とさせるメロディー・ライン。砂塵のような退廃、よれったパナマ帽をかぶりなおしてドアを閉めるヘカテ。かしぶち哲郎のボーカルでも聴いてみたい。

・Acid Moonlight//唯一のインスト曲。「さなぎ」〜「Acid・・・」の流れがこのアルバムでは一番ウェットなミッドナイト・サイド。初期のアントニオーニの映画にでも使えそうな旋律。

・HEAVY FLIGHT//中川五郎の唄に「飛行機事故で死ぬのはいやだ」というのがあるけど、ヘビィなフライトをしたミュージシャンも少なくはない。せわしく入るドラムのフィルと、ルーズなスライド・ギターが印象的。

・夢が見れる機械がが欲しい//初めてこの曲を聴いたときに「あぁ、ライダーズもここまで来たのか」と妙に感動した。不気味なほど神経症的な歌詞。メロディーを拒絶したような旋律。しかし何処か逞しい。

・Frou Frou//数多いライダーズのHソングの中でも飛び抜けてエロチックな曲。先日のNHKホールの「晩餐」ライブでも、見事なほどロックン・ロール・ナンバーに仕上がっていた。さしげなく”MONKEY”の暗号を仕組んであるあたりも、さすが。

・駅は今、朝の中に//”くれない”の埠頭とこの”駅”は何処かで通底しているかもしれない。とてつもなくハードな訣れを毅然と唄い込んでいる博文のソング・ライティングに脱帽。

・僕は走って灰になる//ひしゃげたドラム、錆ついたようなトランペット。唄と云うよりも、歌詞パートのあるインスト曲のような展開。きりっと足を揃えたようなコーラスが凛々しい。

・歩いて、車で、スプートニクで//これだけの混沌をクールに唄われると、歌詞に出てくる疑問符に答えるどころか、ただただアンモナイトのように永遠の沈黙を誓うしかない。

このアルバムから、ライダーズは今までと違った方法でアドレナリンを噴出させる魔法を身につけたに違いない。

91/06/12  *久田 頼


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