・『いかしたバンドのいる街で』スティーヴン・キング(文藝春秋社刊)
〜「いかしたバンドのいる街で」(You Know They Got a Hell of a Band)
・『虫けら艦隊』アイカワタケシ(河出書房新社刊)
共に文中にジミヘンが登場してくるが、実に対称的な2冊だ。
キングの作品は、タイトルの"ナイトメアズ&ドリームスケープス"が示すように、大人の寓話的な要素が強い。
壮大なホラ話と呼んでも差し支えないだろう。 ロック好きなら誰でも一度は夢想するような、"夢オチ"の物語だ。
これまでの作品の中でも、例えば『クージョ』の冒頭に登場するJ.J.ケールのように、スティーヴン・キングの
作中に出てくる音楽はどれも見事な背景になっている。FMの番組表から無闇に引っ張ってこられたものではなく、
筆者のテーブルの隣から流れてくる音楽を、的確に引用している。
そのキングが書くロックなら、信用出来ないわけがない。どのデティールも子細にわたって正確だ。がしかし、
この「いかしたバンドのいる街で」の"ネタ"は、一度きりしか使えない。使い回しの出来ない大ネタが、これだけの
物語で終わってしまうのは、あまりにも勿体ないのだ。特にラスト部分の大盤振る舞いは、物語を、いやロックを、
実にみみっちい物にしてしまっている。コンサートの最後の最後になって、とつぜんPAの電源が落ちてしまったような、そん
な行き場のない空しさを感じてしまうのだ。
たかがだホラ話じゃないか。いやたった一度のホラ話だからこそ、もっと壮大に馬鹿馬鹿しく終焉を迎えたかった。
たとえそれが夢であろうと。キング君、ほんとにこれで悔いは無いのかい。 |
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