Rockin' Book Review 『音楽ジャンルって何だろう』みつとみ俊一
『音楽ジャンルって何だろう』みつとみ俊一
・『音楽ジャンルって何だろう』みつとみ俊一(新潮選書)

 帯には「この曲のアドレスはどこですか?」
 このコピーにグラっときた。新潮選書の地味な装丁と、この今っぽい惹句とのバランスが面白い。
 ともあれ、この手の本、やはり意地悪な視線で取りかかってしまう。ジャンルを語る、まるで容易い事ではない。レコード屋の仕切板ひとつで、急に購買意欲が萎えてしまう事がある。ジャンルには得も言われぬ魔境が潜んでいる。例えば、ニュー・ミュージックとフォークの、ソウルとR&Bの、演歌と歌謡曲の、それぞれの分水嶺を明解に語るのは至難の技だ。
 さて、この本はいかなる技量を披露してくれるのだろうか。筆者のみつとみ俊一氏は、米国の大学で音楽を専攻し帰国後、スタジオ・ミュージシャン、作曲家として活躍している。フルーティストとしてアルバムも出しており、他に著書には『オーケストラとは何か』(新潮選書)などがある。
 結論を先に書こう。意外なほど、と言っても失礼なのだが、実に簡潔に大きな誤解も無く様々なジャンルを見事に書き記している。ある意味では、音楽評論家にありがちな自説を強引に推し進めるが故の偏向もなく、なんともフラットな視線でそれぞれのジャンルを語っているのだ。それでいて筆者の視座もさりげなく織り込まれている
 細かな部分で食い足りないところはあるが、それはやはり我が儘になってしまうだろう。音楽におけるジャンルに興味があるのなら、手を出しても惜しくない本だといえる。残念なのは、写真が一枚も使われていない事、そして最も惜しいのはアーティスト名、事項などのインデックスが無い事だ。目次のレイアウトなどで補えるが、やはりインデックスは欲しかった。

 小姑のような目で読んだのだが、あまり欠点を見つけられなかった。
残念(笑)。もっと人(本)を信じられるような素直な人間になりたい、と思った。春の足音が遠くに聞こえる夕べに。
tetxt by Shinichi Ogawa

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