パソコン通信による情報ネットワーク
ETS−NET試験運用と今後の利用について

私立同朋高等学校 河邊 憲二

1994.8.8-9 第26回学習工学セミナー 学習工学研究会
創立30周年記念大会 高校部会発表
パソコン通信を利用した情報交換のネットワーク作りとその利用について、最近のマルチメディア情報通信の動きをもとに考察し、あわせてこの1年間試験運用を続けてきた愛知県私学教育工学研究会(以下愛私ETS)のETS−NETについて報告する。 

目次
  1. ニューメディアとしての情報通信
  2. 学校における情報通信の利用
  3. ETS−NETの試験運用
  4. 資料
1 ニューメディアとしての情報通信
 最近、パソコンの高性能・高速化にともないマルチメディア情報通信が脚光をあびている。4月25日には電気通信技術審議会による「将来のマルチメディア情報通信技術の展望」の答申が郵政省に提出され、「マルチメディア情報通信」について「音声、画像、文字、データ等の種々の表現メディアをデジタル化により統合された情報として一体的に扱い、対話的機能(インタラクティブな機能)や知的機能(インテリジェントな機能)を利用して、必要な情報を、必要な時に、必要な表現形式で、ネットワークを介して受発信することを可能とするコミュニケーション手段」と定義し、主に技術的な点についての展望と施策が答申されている。(資料1)この新しいメディアは、各方面からその利用が期待されており、またそれにともなう問題点も指摘されるようになった。(資料2)

2 学校における情報通信の利用
(1)情報通信の利用による効果
  学校教育の中でも新指導要領の導入により、いままで以上に情報活用能力の育成が求められるようになった。またその中で新しい教具としてのマルチメディア情報通信を利用した授業実践などが、実験的に各教科でも試みられるようになってきている。
 ・テレビ電話やパソコン通信、FAXなどを利用した情報交換
 ・データベースを利用した資料収集
 ・文字放送やキャプテンの利用
 ・CATVや有線放送のサービス利用
 こうした試みは、「自ら学ぶ意欲と、社会の変化に主体的に対応する能力」の育成に、積極的に新しいメディアを導入しようというものである。情報化社会の中に張り巡らされたメディアを通じて、学習に必要な情報を外部から収集交換することは、単に情報収集能力を高めるだけでなく、情報の価値を理解させ、情報の発信者としての責任を教える意味でも重要な学習活動である。さらに、その活動が学校の外と直接行われることにより、より広い視点で最新の情報社会に関わることができるのである。
(2)情報通信利用の問題点
  授業などで情報通信を利用しようとする 場合、まず第一にハードウェアがそろっていることが前提となる。しかしながら、学校の外と直接接続できるメディアが教室に導入されることは、ほとんどないのが実状である。これは、一部を除いて情報通信サービスが有料であり、特別なハードと契約が必要であることが原因である。マルチメディア情報通信は、パソコンを利用したデジタル情報交換を軸に、光ファイバーケーブルによる大規模なネットワーク構築が検討されている。将来はそうした大規模ネットワークとの接続も可能になると考えるが、そうなると単に学校だけの問題ではなく、地域全体としての環境整備も必要になる。第二に利用管理者の問題がある。生徒に自由に利用させることのできる環境が望ましいが、学校の設備を利用する以上、管理のための教員を配置する必要がある。また、生徒に利用を指導するためには、情報通信について教員のメディアリテラシーが不可欠である。そのため、教員の研修等が必要になる。しかし、メディアに注目した教員の研修はまだあまり行われていない。現状では、いわゆるコンピュータリテラシーというか、教材ソフトの利用研修や情報教育のための研修が中心である。

3 ETS−NETの試験運用
 ここで、ETS−NETについて紹介する。愛知県私学教育工学研究会のパソコン通信ネットとして、主に同研究会パソコン研究委員会が運用しているのがETS−NETである。昨年8月16日にホストを立ち上げ、試験運用を行ってきた。(資料3)ネットワーク作りのノウハウやハード面での研究と、パソコン研究委員会の研究報告や自作ソフトの提供、そして何よりも自由に利用できる無料の情報交換の場所を提供することが目的である。現状ではパソコン通信の利用経験がある教員はまだ少数派であるが、ETS−NETを通じてパソコン通信というメディアを知ってもらうことで、もう一歩メディアリテラシーを高めようというものである。
(1)独自の情報ネットワークを持つ利点
  パソコン通信のネットワークには、営利目的の大規模ネットから地方の草の根BBSと呼ばれる小規模なものまで、様々なものがある。それぞれ利用目的に応じて使い分ければよいが、それとは別に独自のネットワークを運用するには、次のような利点がある。
  ア 無料で情報交換ができる
   ETS−NETは愛私ETSの事業として運用されているので、電話代だけで利用できる。
  イ 必要に応じて内容を構築できる
   利用内容を自由に追加変更できるので、将来の新しい要求にも対応しやすい。
  ウ 自由な使用方法が可能
   個人的な情報交換だけでなく、教員の研修や授業、部活動での利用なども可能である。
(2)ETS−NETのシステム構成
  ETS−NETのシステム構成は次のようになっている。(8月現在)
  ア ハードウェア
  ・ホストコンピュータ PC−286V CPU PK−X486/87SL
  ・ハードディスク 外付け120MB 内蔵40MB
  ・拡張メモリ 4MB×2枚
  ・拡張RS−232CMC16550U PIO9032A
  ・モデム MC14400FX MD144XT10V×2台
  ・回線切り換え EPX−102 ※電話回線はFAXと共用で1回線のみ
  イ ソフトウェア
  ・ホストプログラム mmm4.1
  ・シリアルポートデバイスドライバ MCD98&MCD98HU
  ・バッファ拡張ソフトMCDBUF
  ※いずれもフリーウェア
 システムの構築にはモデム設定に関する知識が必要だが、それほど難しいものではない。mmmには導入マニュアルが付属しているので、容易にホストは構築できる。
(3)ETS−NETの現状での問題点
  1年間試験運用をしてきた中で、今後解決して行かなければならない問題点を整理すると次のようである。
  ア 利用規約の整備
   現在は試験運用中ということで、特別な利用規約はない。しかし、今後本格的に運用して行くためには、利用規約が必要である。
  イ 回線の確保
   試験運用中は、同朋高校のFAX回線にホストを接続して、回線切り換えで利用してきた。しかし、マルチ回線に対応するためにも専用回線の確保が必要である。そのための設置場所も必要。
  ウ 提供情報不足
   現在、定期的に提供している情報は、パソコン研究委員会の研究発表要旨とその研究会で発表された自作ソフトである。情報交換の場として、より積極的に利用を進めるため、入門講座やソフトの活用などの情報をできるだけ収集して提供していく必要がある。
  今年度中には、規約を整備し回線を確保したいと考えているので、その上で情報提供についても工夫し、研究会の成果が共有できるような形にしていきたい。
(4)ETS−NETの今後の利用
  この間の試験運用中、14400bpsへの移行、ホストのマルチ回線対応、24時間運用などが可能となり、ハード面ではほぼ満足のできる環境となった。今後は、このハードを活かすソフト面での研究と利用の普及が課題である。現在進行中のものも含め、次のような計画がある。
  ア ホストのバージョンアップ
   夏休み中にホストプログラムmmmを最新バージョンへ変更する。
  イ 利用メニューの改訂
   ホストの変更にともない一部メニューを改訂する予定である。
  ウ 利用対象の拡大
   授業や部活動での利用に対応できるよう学校IDの発行などを考えている。教員だけでなく、生徒にも利用できる環境を提供したい。ID管理により、教員と生徒とメニュー画面等を違うものに設定が可能で、利用制限を付けることも可能。
  エ マニュアルの改訂版発行
   利用規約が決定した段階でマニュアルを全面改訂する。
  オ 利用研修と会員拡大
   機会を設けて、ETS−NET利用研修を行い、会員を県下の全私学へ拡大していきたい。(資料4)
  カ 他の研究会との提携
   愛私AVLのライブラリ情報を、ネットを通じて検索利用できるようにする案があり、現在その方法を研究中である。また、将来的には他の研究会などとも提携できればよいと考えている。
  キ ホストのマルチメディア化
   現状ではオンラインマルチメディアに対応するには、ホストを全面的に変更する必要がある。疑似的にオンラインで画像を扱うことは可能だが、通信ソフトごとにマクロを作成しなければならない。将来的には対応できるように、画像通信などについても研究していきたい。

 ETS−NETの運用も8月で2年目にはいる。大手のネットでは今、インターネットが注目されている。マルチメディア化とともに、教育現場でもパソコン通信が新しい形で利用されるようになってくる。その中でこのETS−NETも、役立つ情報交換のネットワークとして利用できるようにしていきたい。

[資料1]「将来のマルチメディア情報通信技術の展望」の答申
--情報通信基盤とその利用技術の開発は車の両輪--  郵政省は、本日、電気通信技術審議会(会長 西澤 潤一)から、「将来のマルチメディア情報通信技術の展望」(平成5年3月22日諮問第65号)について、マルチメディア情報通信にかかわる技術及び標準化の展望、必要な技術的施策等をまとめた答申を受けました(概要(別紙は省略))。  なお、答申の要点は以下のとおりです。

マルチメディア情報通信の展望
本答申では、「マルチメディア情報通信」について「音声、画像、文字、データ等の種々の表現メディアをデジタル化により統合された情報として一体的に扱い、対話的機能(インタラクティブな機能)や知的機能(インテリジェントな機能)を利用して、必要な情報を、必要な時に、必要な表現形式で、ネットワークを介して受発信することを可能とするコミュニケーション手段」という観点から検討した。今後、サービス面では、通信と放送の融合が進展するものと予測されることから、マルチメディア情報通信を実現するネットワークは、将来の情報通信基盤として一層重要な役割を担うことが期待される。

マルチメディア情報通信にかかわる技術の展望
 マルチメディア情報通信に必要な要素技術は、ネットワーク技術、放送技術、デジタル化技術、画像処理技術、ヒューマンインタフェース技術、コンピュータ技術など、多岐にわたる。マルチメディア情報通信のネットワークは将来の情報通信基盤として期待されることから、大容量で高信頼、かつ、経済的で発展性のあるネットワークを構築するための技術開発が重要である。また、その普及、発展のためには、利用者がそのネットワークを活用するための利用技術の開発も同じく重要である。

マルチメディア情報通信にかかわる標準化の展望
 マルチメディア情報通信の普及、発展のためには、ネットワークや端末の接続性の確保等が必要となることから、標準化の推進は重要である。デファクトスタンダードを無視することができない現実においては、利用者の利便性を考慮しながら、国際標準との整合性を確保しつつ、適切なものについては国際、国内両面での標準化を進めていく方策を検討する必要がある。このような中で、我が国としては、標準化の推進により世界に貢献していくことが重要である。特に、今後、アジア諸国との交流が増大していくものと予測されることから、アジア地域における標準化推進のために我が国が積極的に貢献していくことが重要である。

マルチメディア情報通信の発展へ向けた技術的施策
 マルチメディア情報通信の発展のために、次のような技術的施策を進める必要がある

1.利用技術開発の促進についての施策
 マルチメディア情報通信の普及、発展のためには、ネットワークをうまく活用していくことが不可欠となることから、利用技術の開発は重要である。
(1)利用技術開発の支援
(2)基礎的、先端的研究開発の推進
(3)ユニバーサルサービスに対応する技術開発の推進
(4)セキュリティ等のための技術開発の推進

2.ネットワーク技術開発の促進についての施策
 マルチメディア情報通信では取り扱われる情報が画像等大量であることから、その発展のためには、かかる情報を自在にかつ適正な費用でハンドリングできるネットワークの整備を促進するための技術開発が不可欠となる。
(1)ネットワークの大容量化、高信頼化、経済化技術開発の推進
(2)ネットワークのアーキテクチャ確立のための研究開発の推進
(3)ネットワーク間インタフェース技術開発の推進
(4)周波数資源の開発と有効利用のための技術開発の推進
(5)放送のデジタル化の技術開発の推進
 今後は、この答申を受け、民間機関等における技術開発へのインセンティブも含めた具体的な技術開発の推進施策を検討し、マルチメディア情報通信の普及、発展を図ることとしています。
※詳細は省略し、項目のみとした。

[資料2]「電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会」の報告書
 郵政省では、「電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会」(座長 堀部政男(ほりべ まさお)一橋大学法学部教授)を開催してきましたが、本日、報告書が取りまとめられました。
報告書概要
 電気通信サービスの発展は、その通信形態の多様化を伴っている。従来の電気通信の形態は音声を中心とした、1対1の情報の送受信であったが、昨今のデジタル技術の急速な進展を背景に、様々なメディア間の通信が可能となり、さらに音声だけではなく、プログラム・画像・文字情報等の複合化した情報を、多数の人へ伝達することが可能になる等、通信形態の多様化が進展している。このような状況を踏まえ、情報の電子化及びネットワーク利用の円滑化の観点から、次のような課題について検討を行った。

1 新しい通信形態に起因する社会的・制度的課題への対応
  パソコン通信の中でも、電子掲示板及びフォーラム・SIGのように、1対1で情報の送受信を行う電話と異なり、公然性を有する情報が送受信されるサービスにおいて発生している課題の検討
 (1) パソコン通信の電子掲示板及びフォーラム・SIGにおける課題
 (2) パソコン通信と著作権

2 ニーズが顕在化している新たな利活用分野
  従来、想定されなかった分野におけるネットワークの利用について、現状の整理と今後の取組について検討
 (1) パソコン通信と選挙運動
 (2) 官公庁の手続の電子化
 (3) 商取引の電子化--税の申告と帳簿書類の保存--
 (4) ネットワークの医療分野での利用
※詳細は省略し、項目のみとした。

[資料3]ETS−NET試験運用の経緯
1993年度
05/24 愛私ETSパソコン研究委員会にて計画提案
05/31 愛私ETS事務局会にて承認される
07/31 ホストの基本仕様完成、同朋高校にホストを設置ローカルアクセスのみでテストを開始
08/03 内線電話による接続テスト
08/07 FAX回線へ接続、SMD-50モデムをテストする
08/07 外線経由でFAXと自動切換のテストをする
08/15 自動切換が不可、夜間ホスト運用とする
08/16 夜間限定で試験運用を開始しテストを依頼
08/19 一般ユーザー用マニュアル初版完成
08/30 愛私ETS事務局会で報告、マニュアル配布
09/06 愛私ETSパソコン研究委員会で報告ID発行
10/18 愛私ETSパソコン研究委員会で運用報告
10/26 EPX-102を導入24時間運用が可能となる
10/26 ホスト用モデムをPV-A24VM5に交換する
10/27 24時間運用に入る
10/29 CNG信号出力のないFAXの切換にも対応
10/30 ID発行計12名(愛知県下私学10校)
11/18 ETS-NETシミュレータ完成
11/19 第25回愛知県公・私立高等学校視聴覚教育研究大会パソコン部会でETS-NET紹介
12/06 第44号愛私ETSだよりに活動紹介
01/04 LOTUSワンポイントレッスンのメニュー追加
02/14 愛私ETSパソコン研究委員会でシミュレータ配布
02/19 愛私ETSニューメディア研修会で入会案内配布
03/15 利用時間制限を30分から60分に変更
03/22 春休み中システムを停止しシステム変更とテスト
1994年度
04/09 システム変更にともなう内線接続テスト
04/11 愛私ETSパソコン研究委員会で変更報告
04/14 システム変更完了
     ・9600bpsV.42bisに対応 ・モデムをMD144XT10Vに変更 ・MCDBUF送受信バッファ拡張
     ・PIO-9032Aを増設し3回線+ローカル1回線に対応(電話回線は現在1回線のみ)
     ・ハードディスク40MBから120MBに拡張 ・MS-DOSを5.00Aに変更 ・拡張メモリを8MBに拡張
     ・ゲストアクセスを廃止 ・メニューを更新、チャット等が使用可能(現在はローカル接続とのチャットしかできない)
04/16 新システムで運用を再開し外線接続テスト
04/16 切換がうまく動作せず夜間運用に限定
04/18 愛私ETS事務局会でシステム変更報告
04/18 ID発行計14名(愛知県下私学10校)
04/18 9600bpsで接続成功
05/04 回線が話し中になるトラブル(モデムの欠陥)
05/07 手動回線切換器を取付
05/08 14400bpsで接続成功
05/11 ホスト-モデム間を9600bpsに落とす
05/16 愛私ETS総会にて経過報告
05/25 ID発行計15名(愛知県下私学11校)
05/26 モデムを2400bpsのPV-A24VM5に交換
05/26 2400bpsで24時間運用にする
06/13 モデムをMC14400FXに交換
06/13 14400bpsで24時間運用
07/23 システムを停止しホストのバージョンアップに入る
07/25 MD144XT10Vを2台修理に出す
07/30 MD144XT10V修理完了
08/02 拡張ボードをMC16550Uに変更
08/02 デバイスドライバMCD98HUを追加設定
※現在、ホストのバージョンアップにつきシステム停止中、再開は9月からの予定
[資料4]ETS−NET試験運用協力会員数
愛知淑徳(1名)同朋(3名)一宮女子(1名)名古屋学院(1名)市邨(1名)名短大附(1名)岡崎城西(1名)瑞穂(1名)星城(2名)名城大附(2名)誠信(1名) 私学11校 15名

[資料5]愛私ETS事務局等
愛知県私学教育工学研究会(愛私ETS) 事務局:椙山女学園高等学校内 事務局長 谷口 和雄
愛私ETSパソコン研究委員会 事務局:愛知淑徳高等学校内 運営委員長 近藤 直門
ETS−NET SYSOP連絡先:同朋高等学校内 河邊 憲二

※なお、ETS−NET試験運用の一部は研究題目「多回線によるパソコン間のデータ通信とその活用」として、愛知県私学協会の平成6年度特別研究費助成を受けている。
※資料1、2はNIFTYのデータベースよりダウンロードしたものを編集一部省略した。




K.KAWABE <kawabe@doho.ac.jp>
Created: Jan.1,1996, Updated: Jan.1,1996