第3回 研究発表会


名理会 会長
小林泰雄先生

 第3回名理会研究発表会は,平成23年2月12日(土)に,名古屋市教育館で,午後1時30分より行われました。
 名理会会長の小林泰雄先生(大手小学校長)のあいさつのあと,「全国中学校理科研究大会 京都大会報告」,「全国小学校理科研究大会 石川大会報告」,「全小理準備委員会」の発表が行われました。そして,文部科学省教育課程教科調査官 村山哲哉氏から貴重な講演をいただきました。
 名古屋の非常に多くの理科の先生方の参加があり,盛況のうちに会を終えることができました。

全国中学校理科研究大会報告 平成22年8月4日〜8月6日

大会主題「自然から学び,豊かな未来を創造する理科教育」
研究主題「自然とのかかわりを重視し,新しい発見のある理科授業の創造」

 現在,われわれを取り巻く世界は,物質的にはとても豊かで便利になってきたことは間違いがないが,逆にその代償として大切なものを失ってきたことも事実である。元来私たちは,自然は偉大なもの,恐れすら感じる存在であり,自然環境に合わせた生き方をしてきた。しかし,いつの間にか自分たちの生活に合わすように自然環境を変え始めた。特に,経済発展と共に,便利で快適な暮らしを追究してきた結果,豊かな自然を犠牲にしてきたことは認めざるを得ない。
 そうした背景を踏まえ,私たちは今こそ,理科教育の原点に目を向け,自然からいろいろなことを学ぶという姿勢を持ち続けなければならない。そして,生徒たちが自然に対して興味・関心を持ち,自然とかかわる中で,学び続ける力をはぐくむことが,生徒たちが豊かな未来を創造するためには必要であると考える。
 また,この大会主題に迫るための研究課題として,原点に戻ることの大切さを再度確認しようという思いを込めて「自然とのかかわりを重視し,新しい発見のある理科授業の創造」という研究課題を設定した。私たちが目指す理科授業は,生徒一人一人が自然の事物や事象について興味や関心を高め,一時間一時間の授業に対して目的意識を持って主体的に実験や観察に取り組み,その中で新しい発見をすることによって,さらに探究し続けようとする力を身につける授業である。そうした授業を行うことにより,生徒の豊かな感性や知性を引き出し,豊かな未来を創造することができ
る生徒の育成につながると確信し,本大会の主題を設定した。

内 容
 1 文科省講演 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 清原 洋一 氏
            「これからの理科の指導と評価」
 2 分 科 会
  (1)『新しい学習指導要領の特徴をとらえ,バランスと発達段階を重視した教育課程』
  (2)『自然に対する知的好奇心を高め,科学的に探究する力をはぐくむ学習指導』
  (3)『目的意識を持って行い,得た結果を分析・解釈する力をはぐくむ観察・実験』
  (4)『生命を尊重し,自然環境の保全に寄与する態度を培う環境教育』
  (5)『自然に関する興味・関心を高め,自ら学び続けようとする意欲を育てる学習評価』
 3 ブース型体験発表会
    全国の先生方や教育関係機関,理科関係企業,実験機器教材会社,書籍関係企業等がブースを担当し,
   参加者の方々と様々な交流をもつ「ブース体験型発表会」(86ブース)。
 4 記念講演 前京都府立植物園園長/京都府立大学客員教授 松谷 茂 氏
           「意外とおもしろいぞ,京都府立植物園」

全校小学校理科研究大会 平成22年10月21日・22日

大会主題  『知識基盤社会の時代を切り拓く人間を育てる理科教育』
研究主題  知を創造・更新していくための科学的思考力・表現力の育成

 自分なりの「わかり」を大切にして,意欲的に知識を創り出す問題解決に取り組んできた私たちは,知識基盤社会の到来にあたり,科学的思考力と表現力の育成が,今最も重要であると考えている。
 それは,人がわかるのは,自分の認知構造が対象を合理的に説明できるように変わったことを自覚できた時であるという,思考の認知科学面からのとらえと,理科の基本となる「人が創り出す科学」という科学観による考え方からである。
 学習指導要領の趣旨につながるこの2つのとらえから,最終的に子どもが創り出す「きまりや法則」は,一人一人の見方や考え方を実証性・再現性・客観性に基づいた科学的思考力・表現力により交流し,共有しながら変容させていく,つまり,新しい見方や考え方に創り直していくことで明らかになるものと考える。
 今大会では,「見えるもの」「見えないもの」を研究のキーワードとして,きまりや法則を創り出し,それを表現する個々の子どもの「わかり」を追究していく。
 折りしも平成22年3月の中教審「児童生徒の学習評価の在り方について」の報告で,「科学的な思考・表現」の観点が示されたが,私たちの研究の方向と合致するものととらえている。学習評価の在り方も含めて,今大会において提案していきたい。

内 容
 1 基調提案  知を創造・更新していくための科学的思考力・表現力の育成
            〜「見えるもの」を「見えないきまりや法則」に創り上げる理科学習〜
           全国小学校理科研究大会石川大会 研究部長   新保  修先生
             同             研究統括   高田 智生先生
   指導講話  文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官  村山 哲哉氏
   講  演  国立天文台 准教授・天文情報公開センター長  渡部 潤一氏
          「新しい太陽系の姿−冥王星を超えて−」 
 
 2 公開授業・授業分科会等
  (1)金沢市立明成小学校
      研究主題 「自力解決力のある子どもたちの育成」
           〜 「理科」「生活科」におけるPISA型読解力を育成する授業づくり〜
  (2)金沢市立中央小学校
      研究主題 「かかわり合いながら追究する子の育成」
           〜 確かな学びを創る理科・生活科学習〜
  (3)金沢市立杜の里小学校
      研究主題 「自ら考え、創意工夫する子の育成をめざした理科・生活科学習」
          〜 「書くこと」を通して〜 

理 論 部 発 表
 平成25年度に予定されている,全国小学校理科研究大会 愛知大会に向けての今年度の活動の成果が発表されました。

 平成25年全国小学校理科研究大会の愛知大会に向けて,平成20年度より理論推進部,実践推進部からなる準備委員会を組織して準備を進めてきた。今年度はさらに,会場校をサポートするチームを組織し,準備を進めている。
 理論推進部では,プロジェクトチームを立ち上げ,そこで基本理論の原案を作り,全体会で検討した。
 実践推進部では,理論部推進部が検討した基本理論を受け,昨年度までに作成した単元構想を,3〜6学年までの全単元について授業実践を通して修正・改善した。
 会場校サポートチームは,これからの理科学習の進め方や各会場校の理論構築などについて,該当校の先生方と連携を密にして研究を進めた。
 また,名古屋の強みを生かす試みなどについても検討している。

講  演
   演題 「これからの理科教育の動向」
   講師 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 村山哲哉氏


講師 村山 哲哉氏
1 理科における言語活動の充実
 <何のための言語活動の充実か?>
  思考力・判断力・表現力等の育成を効果的に図るため
  ○ 体験から感じ取ったことを表現する。(感受・表現)
  ○ 事実を正確に理解し伝達する。(理解・伝達)
  ○ 概念・法則・意図などを解釈し,説明したり活用したりする。(解釈・説明)
  ○ 情報を分析・評価し,論述する。(評価・論述)
  ○ 課題について,構想を立て実践し,評価・改善する。(構想・改善)
  ○ 互いの考えを伝え合い,自らの考えや集団の考えを発展させる。(討論・協同)
 <言語活動の充実>
  ○ 問題解決の過程において,科学的な言葉や概念を使用して考えることを充実させる。
  ○ 予想や仮説を立てる場面では,問題に対する考えを記述したり,児童相互の話し合いを適宜行うことにより,
   条件に着目したり視点を明確にしたりして自らの考えを顕在化させる。
  ○ 結果を整理し,考察し,結論をまとめる場面では,観察・実験の結果を表やグラフに整理し,予想や仮説と
   関係づけながら考察を言語化し,表現させる。

2 実感を伴った理解を図る,理科学習
 <実感を伴った理解>
  ○ 具体的な体験を通して形づくられる理解
    ・諸感覚の駆動  ・観察・実験などの具体的な体験
  ○ 主体的な問題解決を通して得られる理解
    ・一人一人の児童が自ら問題解決を行ったという実感
    ・知識や技能の確実な習得
  ○ 実際の自然や生活との関係への認識を含む理解
    ・理科を学ぶことの意義や有用性の実感
    ・理科を学ぶ意欲や科学への関心
 <理科の授業のポイント>
  ○ 自然事象との出合いの場を工夫する
   ・ 自然事象に親しみ,これまで気付かなかったことに気付いたり,発見をしたりしたとき,子どもの心は
    揺り動かされる。
   ・ 視覚だけでなく,聴覚や嗅覚など諸感覚を働かせて新たに出会うと,強度が増す。
   ・ 授業の最初でもある自然事象との出合いの場を工夫する。
  ○ 予想と考察の時間を設定する
   ・ 思考力,表現力を育てるには。子どもの考えを顕在化させることが大事である。
   ・ 顕在化させた後,自然からのメッセージをキャッチし,これからの変化やそうなる原因について予想を
    立てる。
   ・ 観察・実験の結果から何が言えるのかを考察させていく。自分の考えを軸とした思考活動に時間を
    かけることで,子どもの思考力・表現力が鍛えられる。
  ○ 観察・実験を充実する
   ・ 観察・実験は,子どもが自ら目的・問題意識をもって意図的に自然の事物・現象に働きかけていく
    活動である。
   ・ 自らの予想や仮説に基づいて,観察・実験などの計画や方法を工夫して考えさせる。
   ・ 観察・実験の計画・方法は,予想や仮説を自然の事物・現象で検討するための手続き・手段である
  ○ 記録と話し合いを効果的に実施する
   ・ 自分の考えは,他の考えと交流することによって,深化・拡張・更新される。
   ・ 話し合いの際には,これまでの学習履歴が残っている記録がとても大切である。記録に基づく話し合いが,
    子どもたちの思考力・表現力を高める。
  ○ 結果から結論の出し方を指導する
   ・ 自分の予想や仮説と照らし合わせて考察することにより,結論が導き出される。
   ・ 結果からいったい何が言えるのかを吟味することにより,子どもたちに論理的に考えたり,説明したりする
    論理力を育てる。

3 理科における新しい学習評価
 <学習評価の考え方>
 ○ 学習評価は,学習指導要領の目標の実現状況を把握し,指導の改善に生かすもの。
 ○ 観点別評価,目標準拠の評価の実施。
 ○ 学習評価を通じて
  ・教師が授業の中で児童生徒の反応を見ながら学習指導のあり方を見直す。
  ・一連の授業の中で個に応じた指導を図る時間を設ける。
  ・学校における教育活動を組織として改善していくこと等が求められる。
 <科学的な思考・表現>
   「自然の事物・現象から問題を見いだし,見通しをもって事象を比較したり,関係付けたり,条件に着目したり,
   推論したりして調べることによって得られた結果を考察し表現して,問題を解決している。」
   ・ 思考・判断したことを,その内容を表現する活動と一体的に評価する観点を設定する。
   ・ 本観点については大きく見直しが図られ,「科学的な思考」に「表現」という文言を追加する。
  ○ 小学校では,問題を見いだし予想や仮説をもって観察・実験を行う学習活動を重視する。
  ○ 観察・実験の前  
   ・ 観察・実験の結果を表やグラフに整理し,予想と照らし合わせながら考察を言語化する。
  ○ 観察・実験の後
   ・ 自らの考えを表現させる際に,文字や記号だけでなく,モデル図や立体的なモデルを用いる。
     ・ 体感を通して得られた認識を表現する。
     ・ 目に見えない自然の事物・現象について説明する。
 <観察・実験の技能>
    「自然の事物・現象を観察し,実験を計画的に実施し,器具や機器などを目的に応じて工夫して扱うとともに,
    それらの過程や結果を的確に記録している。」
   ○ 自然の事物・現象を観察し,実験を計画的に実施する。
   ○ 器具や機器などを目的に応じて工夫して扱う。
   ○ 観察・実験の過程や結果を的確に記録し整理する。  

<文責 林本 勝徳(名古屋市立藤森中学校)>