平成11年度夏期特研提案資料

部会研究A 幼児 人とのかかわりを育てる部会

豊橋市:社会福祉法人 明照保育園

大木祐

 

テーマ

「みんなでいろいろな経験をすることの楽しさを通して、豊かな人間関係の基礎を育む。」

        〜3歳児 「こどもにんぎょう劇場」の継続視聴を通して〜

 

〜はじめに〜

 保育者や友だちとひとつの経験を一緒にする。みんな同じ目の高さで同じものを見て、聞いても、思いは人数分あります。

「そうだね」とうなずいてくれる安心感を感じたり、時には自分と違う思いがあることに気づいたりしながら、喜びや悲しみやときめく心の揺れを一緒にいる保育者や友だちと伝え合うことから、人とかかわる気持ちが育っていってほしいと思います。

子どもたちが大好きなお話の世界を味わいながら、心のままにイメージを膨らませ、夢や空想を広げて、共に感動しあえる信頼関係を築いていきたいと思います。

 

 

〜実践内容〜

3歳児  22名(全員継続児)

  テレビ視聴を特別なものととらえずに、日常の保育の中で紙芝居や絵本をみたり、お話を聞いたりするのと同じ感覚で、自然体で取り組んでいる。こども人形劇場は、内容的に3歳児には難しいものもあるが、言葉でのイメージが豊かになり始めた今の時期、お話の世界にたっぷりひたる経験がもてることを願い、また、見られているという意識を持ち始める前に、登場人物になりきって、思いのままに身体表現をする楽しさを味わう場を作りたく、3歳児で継続視聴番組として取り上げている。

  番組は、保育園で数年前より録画してあるものの中から、季節や内容を考慮して、3歳児にあったものを選択している。

 

 

〜実践経過〜

 

 

番組名

子どもの様子(反応・つぶやき)

保育者の思い・内面の考察

4/19

おおかみと七ひきのこやぎ

〇視聴が始まることへの期待感が高まり、スイッチを入れたときには、全員が画面に集中していた。

☆おおかみの言葉や動作ひとつひとつに大笑いしたり、心配したり、びっくりしたりする。

〇新しいクラスになって初めて見るテレビなので、期待感と共に緊張感も感じられる。

☆子どもたちにとって一番関心があるのはおおかみで、自分もお話の中にいる感覚でお話の世界を味わっている。

 

番組名

子どもの様子(反応・つぶやき)

保育者の思い・内面の考察

5/21

赤ずきん

〇「おおかみ食べちゃうかねー?」

「おおかみ来るかねー?」「あのね先生、おおかみが来てね、ぱくって食べちゃうじゃん。おばあさんも食べちゃうじゃん。それでね…」

☆(おばあさんに化けたおおかみと赤ずきんのやりとり)全員が画面に集中し、話の成り行きを見守っている。

〇話の筋はわかっていても、クラスのみんなと見ることでの新鮮な気持ちから、画面の話の展開にわくわくしている様子がうかがえる。

☆赤ずきんがおおかみに食べられてしまうことがわかっていても、ドキドキハラハラする子どもたちの気持ちが伝わってくる。

 

6/2

さるとかに

〇(さるがかにに柿をぶつけている)

不安そうにさるのやることを見ている。中には善悪関係なく笑いながら見ている子もいる。「痛そう」「かわいそう」「痛い!」「さるっていじわるだね」「うん。嫌いになっちゃった!」

☆くりの登場する曲に合わせて手をたたく。「くり!」「どんぐり!」「くり くり くり♪…」と歌う。

〇かにに思いを寄せて「かわいそう」とつぶやく子、不安そうに見つめる子など、子どもたちの思いやりが伝わってくる。友だち同士で思いを伝え、認め合っている姿も見られる。

☆調子が変わって、くりが登場する明るい雰囲気の曲に、子どもたちも心を踊らせている。

7/1

おさるとホタル

〇さるの怖い雰囲気、声に全体が静かになり、画面に見入る。

 

      画面を見つめる子と保育者の顔を見る子がいる。

 

 

▽最後の、さるが崖の下に落ちた後、多くの子が保育者の顔を見る。黙ったままうなずく子もいる。

〇ホタルの仲間がいじめられているのを心配そうに見ている様子がうかがえる。

☆つかまったホタルが「かわいそう」という気持ちと「さるはひどい、悪いやつだ」という気持ちが感じられる。

▽「あーよかったね」「さるをやっつけたね」という思いが視線に乗って伝わってきた。

7/14

てんぐのうちわ

〇(嵐が来て父てんぐがとばされる) 

・「てんぐさんかわいそうに」

・みんなしーんとして画面を見たり、保育者や友だちの顔を見る。

      (お花ちゃんが鳥にさらわれる)

「なんでお花ちゃんさらわれた?」「(鳥が)悪いね」「悪いね!」

「なんでお花ちゃんさらわれたの?」

「こわいねKちゃん」

「お花ちゃんも誰もいない」

「お花ちゃんがかわいそう、Nちゃん」

〇てんぐを思いやる気持ちがうかがえる。

父てんぐがとばされた「不安」から周りの子や保育者に「安心」を求める様子が見られる。

☆お花ちゃんが鳥にさらわれる時は、誰ひとり声もなくただ事の成り行きを見つめていた。画面の曲も会話も止まり、間があいたとたんに思いを口々に言い始める。登場人物に思いを寄せる子どもたちの純粋な優しさが伝わってくる。

7/29

ききみみずきん

〇全体にリラックスして見ている。

近くの子と目線を合わせたり、体を触れ合ったりしながら、楽な姿勢で見ている子もいる。

      「はとが飛んできたよ」

「はとじゃないよ」「はとだよ」

「あれ、はとだよ」「はと!」

「はとじゃない!」

「おおかみのね、カラスだよ!」

▽(白ヘビの子が米俵に閉じこめられる)

「エーン、エーンって泣いとるねー」「早く助けてあげて」と言いながら       周りを見る。

「かわいそう」「白ヘビの子かわいそう」

〇肩の力が抜けてきて、保育の中での視聴がなじめてきた様子。

 

 

      信頼関係のある中で、一歩踏み込んで言い合う楽しさを感じている様子。

 

 

▽友だちの言葉を聞いて「早く誰か助けて!」と周りを見回し、助けを求めようとしている。ひとりの子がつぶやいた言葉に刺激を受け、自分の思いを表出し始める子もいる。

 

 

〜ここまでの保育の中で〜

 

 《4月の様子》

    継続児ということもあり、ひとつ大きなクラスになったという自覚がうかがえる子どもたち。これからの生活に期待を膨らませ、星1組がスタートしました。

    始業式では、話を聞いたり歌をうたう姿にお兄さん、お姉さんとしての自信が感じられました。しかし、新しい環境にすぐにはなじめずにとまどいを見せる子もいます。まだまだ自分が中心で、保育者に一対一のかかわりを求め、甘えたり、時にはぐずって見せたりすることもあります。また、興味津々で部屋中を探索する子もいます。保育者はひとりひとりとのかかわりを大切にしながら、個々の状況に応じた援助を心がけていきました。

 

《今の様子》

   新しい生活のリズムにも慣れ、「大きくなった」「こんなことができるようになった」と、成長の喜びをひとつずつ自信に変えている。プール遊びやどろんこ遊び、シャボン玉遊びなどの夏ならではのあそびを思いっきり楽しんでいます。仲の良い友だちが登園したことを喜び、「○○ちゃん、こっちおいで!」と同じあそびに誘ったり、「○○ちゃん、手をつないで行こうね。」と友だちとふれあう姿も見られます。時には自己主張のぶつかり合いから衝突したり、玩具を取り合うこともありますが、徐々に「順番」などの簡単なルールを守ることも、日々の保育の中で経験しています。一人あそびや平行あそびが中心ですが、友だちと一緒にいる楽しさを味わったり、友だちから刺激を受けて、やってみようとチャレンジする気持ちが芽生えたりもしています。子どもたちの興味が高まるような環境づくりを工夫し、意欲を育てていきたいと思います。

 

 

〜終わりに〜

    クラスのみんなでテレビを見ることで、子どもたちの普段では見られなかった表情や言葉等の反応を見つけることができました。そしてそれは、保育者がその子の内面に触れることのできる機会となり、信頼関係を深めることにもつながっていきました。保育者と子どもがテレビ視聴という同一体験を通して、同じ心の揺れ動きを感じ、一体感を味わってこそ、安心して素直に自分を表出できるのではないでしょうか。

    また、子どもたちはお話の世界にすっと入り込み、まるで自分がその場面にいるかのような反応を見せてくれます。その純粋な心、優しい気持ちに保育者は、毎回感動せずにはいられません。3歳児ならではの素直で素朴な表現を温かく受けとめ、時には仲立ちとなり、クラス全体に知らせたりして、思いを共感していきたいと思っています。

   『ひとりでテレビを見て「わぁ!すごい」って言っても、誰も「うん、そうだね!」って言ってくれない。でもみんなでテレビを見れば、すぐ横に同じ瞳の輝きで答えてくれる仲間がいる。なんだか心が温かくなるよね。』

    こんな思いを出発点として、心と心が通う人とのかかわりが育っていってくれることを願います。