豊橋市から参りました、明照保育園の大木です。3歳児の星1組の担任をしています。

よろしくお願いいたします。

平成7年度に当園で放送教育全国大会を引き受けてから、はや数年がたちました。

視聴の環境も保育全体の中に自然にとけこみ定着してきました。
また保育所保育指針の要旨である「伸び伸びとした環境の中で、子どもの自発性を大切にする」
という意味を私たちなりに探ってみました。
それは、単に個人が思い思いに好き勝手に活動するのだけの保育ではなく、
時には友だち同士で同じ体験をしながら、
一人ひとりがそのときに感じたいろいろな同じ思いや違う思いも安心して出し合い、気づき合い、
刺激を受け合うことでさらに遊びへの意欲が高まっていくような保育ではないかと思いました。
それは、砂場遊びでも散歩にしても、また給食を食べながらでも、
どの場所でも同じで、放送視聴においてもいえることだと思います。
つまり、遊びなどの“活動”それ自体の楽しさに、
共に遊ぶ友だちとのかかわりがプラスされることで心情や意欲が高まり、生活や遊びが充実していくのだと思います。
保育者は、日々の保育の中で、遊びの環境を整えることと共に、
保育者や友だちとの関わり合いの場も大切にしていきたいと思います。

そこで、資料の5ページにもあげましたが、0才〜5歳児までの新保育所保育指針を柱として人とのかかわりの育ちを見つめてみました。

人は生まれたときからでさえも、側にいる大人から大きな影響を受けています。
そして、成長する過程で保育者や大人の適切な仲介により、まわりの子どもからも大きな影響を受けたり、
反応を返したりすることで、より深く豊かに人ととのかかわりが育つ道のりが理解できました。

その中で提案する3歳児のところを見ていただきたいと思います。

3歳児は言語を含め、基本的な生活習慣は、ほぼ確立でき、
より豊かな世界を求める時期であり、他の子どもへの興味関心がさらに高まることが分かります。
しかし、実際に毎日の保育の中で様子を見ているとみんなで一緒に遊んでいてもひとつひとつは平行遊びが多く、
友だち同士でかかわっていても、まだまだ自分の思いが言葉では出し切れないので、行き違いも少なくありません。
だからこそ、ここで保育者がいかに一人ひとりの子どもの内面を理解し、
より適切な仲介ができるかどうかで活動が生き生きとしたものになるかどうかが決定されるのです。

 

放送視聴は、紙芝居や絵本と同じようにイメージを膨らませるものではありますが、
ひとつ違うのは保育者自身も子どもと同じ立場で、つまり見る側として経験できることです。
視聴中、楽しい歌やリズムを聴いて踊り出したり、ハラハラするところでジッとのめり込むよう見入ったり、
こそこそっとつぶやいたり。
「あっ、あの子はここでこんなふうに思うんだな」
「あの子とあの子、今、同じこと考えたんだ!」

子どもたちと一緒に視聴していると、ほんの15分間なのに、
子どもたちのむき出しの、裸の心がずいぶん近くにあるような気がします。

子ども同士でもつぶやきを言ったり、聞き合いたいのでしょう。
見る前は、まわりの子と空いていた間隔が、どんどんなくなり、
ほっぺたとほっぺたがくっつきそうになるほど、体を寄せ合ってしまうこともあります。

3ページにも書きましたように、私のクラスは全員継続児ということで、このような集団での視聴は経験していました。
4月当初、クラスが再編成され、部屋や友だち、保育者が変わって新しい環境にとまどいを見せる子もいて、
情緒面での不安はありましたが、テレビ視聴はすんなりと受け入れ、楽しく見ることができました。
確かに園生活が全く初めてで、戸惑い、不安がる新入園児でさえ、
テレビをつけたとたん、たいていの子がくぎ付けとなり、
それまで見せたことのないうちとけた表情を見せるのだから、
現代の子どもたちにとって映像という環境はずっと近いところにあるようです。
私自身、一人ひとりの子とのかかわりが浅いこともあり、なかなか内面まで知ることのできない時期でした。
子どもたちにとって新しく担任になった私は、全く新しい環境の一つだったことでしょう。

子どもも私も最初はお互いの様子を見たり、確かめ合ったりという状況でした。
そんな中で、視聴中の子どもたちの様子は、それまで見たこともないような表情が次々と見られました。
今までは、おとなしくて内気な子だなと思っていた子が、気持ちが高ぶっていたためか、
隣の子と大きな声を出し合って自分の思いを通そうとしたことがありましす。
そこで私は「この子はおとなしくて気の小さいところのある子だと思っていたけれど、なかなか心が強い子だな」
と考え直す機会になったのです。
また人一倍、感受性が強い子がいて、その子のつぶやきや表情、動きに他の友だちも刺激を受け、
子どもたちの気持ちがどんどん高まっていくこともありました。
その子は、お話の内容にかかわらず、登場人物に自分の思いを寄せ、
まるで自分が登場人物になりきってしまったかのようにお話の中の出来事を感じ、とらえて、
そして思いを素直に表現するのです。
それは、最初の視聴の頃は一人でそっとつぶやくことが多かったのですが、
視聴を重ねるにつれ、日に日にまわりにいる友だちや保育者に対して思いをぶつけるようになりました。
視聴した「ききみみずきん」の白ヘビが米俵に閉じこめられてつぶされそうになってしまった場面では
「かわいそう」とつぶやいていたのが、だんだん思いがこみ上げてきて、
「早く誰か助けてあげて」と言いながらまわりを見回し
「もう!誰か、誰でもいいから何とかして!」という表情で助けを求める姿がみられました。
その表情に他の子どもたちの緊張感も一気に高まり、
みんなのドキドキハラハラが私のところにも手に取るように伝わってきました。
そういった友だちから受ける刺激は、一人で見ていたならば絶対に得られない高まりであり、
子どもたちの心の成長にはなくてはならないものだと思いました。
そして、視聴後も興奮気味に黙っていられないという風に私に思いをぶつけてきて、受けとめきれないほどでした。
普段は、こちらから誘いかけても硬い表情で尻込みするような子までが、
まわりの雰囲気に後押しされて「私も私も、先生きいて!」という様子で私のところに来てくれたぐらいです。

子ども人形劇場は、内容的には難しいものもありますが、
お話の世界にどこまでも浸りきってしまう3歳児の様子を見て、
内容さえ子どもたちの年齢に合えば、とても良い番組だと思います。
園では、ライブラリー的に録画保管して、子どもたちの興味や季節に合わせて選ぶようにしています。

私自身は昨年度までは4歳児クラス、5歳児クラスと続けて担任しましたが、
4,5歳児になると、こども人形劇場を見ると、言葉のやりとりが理解でき、
言葉を中心により深い内容に浸ったり、中には人形の作り方、動き方に興味を持っている子も多かったのですが、
3歳児は言葉は深く理解できなくても4,5歳児よりも人物の声、間、音楽などから場面の情景を敏感に感じ取って、
その思いを4,5歳児では照れてしまって、ともすると出せない身体表現をしたりして、素直に反応しているようです。
第1回目に見た「おおかみと7ひきのこやぎ」では、
お話の内容は知っていても「おおかみだよ!」「開けちゃだめ!」とまるで自分もお話の世界にいるかの様な反応、
特におおかみに対しては自分のすぐ目の前に怖いおおかみがあたかも存在しているかのような反応に、
私は3歳児の素直さ、純粋さを感じ感動せずにはいられませんでした。

ここで7/ 「てんぐのうちわ」の視聴の様子をごらんください。
資料の1〜2ページに今までの視聴の様子をかいつまんで書き記したものと
7月1日に見ました「おさるとホタル」の視聴記録を3ページに載せましたので合わせてごらんください。

 

ビデオ・・・

 

このようにして、視聴を重ねるにつれて、子どもたちもだんだんリラックスしてくる様子が見られ、
それにつれて近くの子と体をふれ合ったり、目で思いを確かめ合ったりしながら安心感や満足感、
そして一体感を求めるようになってきました。
中には言葉でお互いの思いを、共感し合う子の姿もみられるようになり、
3歳児なりに友だちとのかかわりを楽しみながらの視聴となってきました。

そして「こども人形劇場」を視聴していく中で、
お話の世界での登場人物のやりとりを通して人とのかかわりを味わっている子どもたちを感じました。

現実では友だちとテレビを見ることで、友だちに対する意識、信頼関係が育っています。
また、子どもたちが入り込んでいるお話の世界では、
人形劇に浸りながらお話の中での登場人物のやりとりを自分のもののように感じ、相手を思いやったりしています。
その現実とお話の世界を行き来しながら、豊かな人とのかかわりが育っていくのではと思うのです。

お話の中の登場人物がお互いに喜び合ったり、思いやったり、時にはけんかしたり、悲しんだりする姿を見て、
たとえば「さるとかに」の子ガニが親ガニを思う気持ちとか
「ききみみずきん」でたろ作が懸命に白ヘビの子を助けようとする姿を見て、
自分自身の中にも同じ気持ちが芽生えているのではないでしょうか。
3歳児はもちろん、子どもにとってこういったお話の世界に浸るという経験は、心に成長につながると信じています。
そして、日々の保育の中で紙芝居や絵本を見たり、お昼寝の時、布団の中で「お話でてこい」を聞いたり、
時には私の素話を聞いたり、ごっこ遊びで何かになりきったりという活動の中で
子ども独自の想像の世界を大切にしてあげたいと思っています。

そして、テレビ視聴をすることは私にとって子どもたちと同じ立場で同じ視点で一つの体験をすることです。
紙芝居を読むときのように、私は読み手、子どもは聞き手と立場が別れているのではありません。
同じ立場だからこそできる発見、感動の共感が深い信頼関係を作ってくれると思います。
また、保育者にとって、今まで見ることのできなかった子どもたちの姿、感じ方など新しい発見ができ、
それが自分と子どもたちをより強く結びつけてくれるような気がしてなりません。

子どもたちは日々成長していきます。
今、この時期に仲間と一緒に同じ体験をして、感動を分かち合えることは社会性の発達にとっても
重要な意味を持っていると思います。
大人と子どもではなく、保育者も一人の人間として同じ視点に立って同じ体験をしてこそ、
人間関係の基礎が芽生え、育っていくのではないでしょうか。

今後も、いろいろな遊びや生活の場で、それぞれのあそびの楽しさを味わったり、
時には集団のルールの大切さを知らせながら、
同時に友だちとのかかわりが豊かに深まっていくよう保育者である私自身が、感性豊かに子ども一人ひとりとかかわり、
内面を理解していきたいと思います。

 

以上で提案を終わらせて頂きたいと思います。ありがとうございました。