いたずら 1

隊長は、いたずらが好きだった。

ただ、当時は、いたずらをしようとしていたのではなく、 楽しいこと、おもしろいことをやっていただけだと思う。

小学校3年の時、みんなと花火をやっていて、とんでもないことを思いついた。

花火は火をつければすぐに爆発する。 特にそのころはやっていた「デンコウ」

(爆竹の一番でかいやつで、あまりの爆発力のため、現在は販売中止になっている) も火をつければ2,3秒で爆発する。

友達と戦争ごっこをやっていても、そのへんが何とかならないかといつも考えてい た。

時限爆弾みたいなものにならないかといつも悩んでいた。

そして、にちび(導火線)をほどいて火薬を出せば、 火をつけてから爆発するまでに時間がかかることを発見した。

そのようにして作ったデンコーを相手の基地の回りに何本も埋めておくと、

相手が攻撃を仕掛けようとして基地からでてきた頃いきなり爆発する。

当時の子どもたちの間ではセンセーショナルを巻き起こした発見であった。

しかし、隊長はこれでは満足できなかった。

どんなに「にちび」をきれいにほどいても、せいぜい3,4分だ、 何とか1,2時間後に爆発するような時限爆弾を作れないだろうか

これが出来れば、友達の家に仕掛けておいて、 すっかり気を抜いた頃にびっくりさせられるのではないか。

そしてついに蚊取り線香を使うことを思いついた。 蚊取り線香は一晩中つけておくものだ。

その根本にデンコーをつければ、何時間後にでも爆発させられるではないか。 これこそ、時限爆弾ではないか!

このナイスなアイデアを思いついたときは 何ともいえない幸福な気持ちになったことを覚えている。

もう隊長は、じっとしていることが出来なかった

(そういえば、隊長の通信簿には、1年から6年まで 落ち着きがないと書かれていた気がする)

家中を引っかき回して蚊取り線香を見つけだし、早速作ってみた。 美しかった

蚊取り線香の根本にデンコーの束。 あるだけのデンコーをつなげた。

あまりに熱心に作ったために、すっかり暗くなっていた。

この名誉ある大発明の第一の標的は、 兄ちゃんやオットー、オッカーにしてやろう。 「きっとびっくりするぞ」

早速、蚊取り線香に火をつけ、床下に隠した。 ワクワクした。

ご飯を食べているときも、 この幸せな団らんの中に訪れる混乱を考えるだけで、 いつもよりおかわりをしてしまった。

テレビを見ていても兄ちゃんがびっくりする顔を思い描いてはにこにこしていた。

お風呂に入った。兄ちゃんと妹と水鉄砲で遊んで楽しかった。

さあ、寝る時間だ。 隊長の一家はいつもオトーとオカーを両端に川の字に寝ていた。

オトーとオカーの間をごろごろしながら寝るのが気持ちよかった。

今日も楽しい一日だったと思いながら寝た。

そうなのだ、隊長はすっかり時限爆弾のことは忘れていたのだった

隊長は今でもそうなのだが、「わすれんぼー」なのだった。

その幸せな一家を悲劇がおそったのは夜中の2時頃だったと思う。

いきなりすごい爆発音がした。 ババババーン!あまりの音にみんな飛び起きた。

「何だ!」オトーが叫んだ。

「おかあちゃーん」妹が泣いていた。

「やっちゃん、あきちゃんこっちにおいで」オカーが呼んでいた。

オトーは暗闇の中を走って何かにぶつかりのたうちまわっていた。

バババーン!最後の音が終わった頃、電気がついた。

「誰かがデンコーを投げやがった」 兄ちゃんが外を指さしながら言った。

「ひどいことをする人もいるもんだね」 オカーも怒っていた。

「とっつかまえてやる」 オトーは外に走っていった。

「バカヤロー」 隊長は外に向かった叫んだ。

そして「やっちゃん、俺たちも捕まえにいこう」と ビビッている兄ちゃんを連れて庭に飛び出した。

「もうおらん」オトーが帰ってきたところだった。

「俺に挑戦しにきやがったな」 隊長には、怒りとともに何者かの挑戦を受けてたつという誇りがみなぎっていた。

そして、また親子五人で川の字になって電気を消した。

隊長はオカーやオトーの足を触りながら、 こういうスリリングな夜もいいもんだと思いながら、 幸せな気分で眠りについた。