小学校3年生になった隊長を止めることが出来る者はもう誰もいなかった。
それは、アツ〜い、アツ〜い夏休みのある日だった。
隊長の子どもの頃はクーラーなんてものはなく、畳の部屋でゴロゴロしながら氷を舐めていた。
一個なくなれば、また冷蔵庫に行って一個持ってきて舐める。
角張った氷が、口の中で丸みを得ながら解けていくのが気持ちよかった。
その時、ふと考えたことがあった。
もし、この氷をそのまま飲み込んだらどうなるんだろう?
少しでも疑問に思ったらもう誰にも止められない。
よし、実験してみよう!
隊長は、回りに人がいないのを確認すると、いそいそと氷を冷蔵庫に取りに行った。
さすがに、数々の実験を重ねてきたので、氷選びにも慎重だ。
あまりにも大きな氷は止めたが、小さな氷を選ぶような卑怯な真似もしたくなかった。
そして、中くらいの形の良い氷を選んでニコニコしながら畳の部屋に帰ってきた。
いざ口に含むと、やはり飲み込むにはあまりに大きすぎた。
もし、ノドにつかえたら窒息して死んでしまうのではないか?
ふと、心配が頭をよぎった。
しかし、 ここで、数々の武勇伝が思い出された。
コンセント、ホッチキス、カミソリ・・・・。
どんな困難にも逃げることなく真っ正面から挑戦してきたではないか!
そして、数々の経験は隊長を大人にしていた。
隊長は、考えに考えた。そしてある結論を導き出した。
氷は溶ける。
もし、ノドに詰まってもすぐに解けてしまうだろう!
水泳が得意な隊長なら1分くらいなら楽勝で息を止めることができる。もう何も心配はいらなかった。
考えている間に角も解けてしまった。
もう時間がない!小さくなった氷を飲み込んだところでむなしさだけが残るだけだ。
そうとは言ってもまだ大きな固まりだったが、思い切ってゴクンと飲み込んだ。
やっぱり大きな氷はノドにつかえた。
グオオオオオオオオオオオオ・・・・!!!!!
隊長は、あまりの苦しさにのたうち回った。
気が遠くなりながらも、氷が少しづつノドを通っていく感触があった。
ものすごく痛くて苦しく、冷たい氷がゆっくりとノドを超え、ゆっくりと胃の方に落ちていくのが分かった。
胃の中でさえ、その冷たさで位置が分かるくらいだった。
あ〜くるしかった!どぐるしいじゃん!!死ぬとこだった!!!
そして、また隊長は、ひとつ大人になった。
確かに氷は溶けるが、解けるまでには結構時間が掛かると言うことが分かったのだった。
今でも氷の固まりを見るとあの時の苦しさが蘇る隊長だったのだ。