いつも戦っていたくせに何故か隊長とオジーは一緒にいることが多かった。
隊長は、次男なのだが、聞いたところによるとオジーにとっての初めての孫(やっちゃん)が生まれた時には、たいそう喜び大事にしたそうだ。
しかし、この長男のやっちゃんが、オジーに抱かれると凄い勢いで泣いたそうだ。
まぁ、大人が見たってとても素人衆には見えない怖い顔をしていたのだから、普通の赤ちゃんが見たら失神するであろう。
あまりの怯えようにさすがのオジ−も諦め掛けている時に生まれたのが、この隊長だったようだ。
生まれた時から根性が座っていて怖いもの知らずだったためか、極道オジーに初めて抱かれた時からニコニコ笑っていたという話だ。
家族を始め親戚中でさえ、オジーの顔を見るとこわばっていたのに、唯一隊長だけがニコニコと笑いかけていたというからたいしたものだ。
そんな隊長をオジーは舐めるように大切に育てていたという話だった。
だから小さな頃はいつもオジーと一緒にいることが多かった。
小学校2年生の頃のある日のことだ。
学校から帰ってきた隊長は、すぐに異変に気がついた。
家の中から何やら不気味な声が聞こえた気がしたのだ。
「ウ〜、ウ〜〜、ウ〜!」
確かに何かが呻いている。それも家の中だ。
土間に入り耳を澄ませば仏壇の部屋から聞こえてくる。
「ウ〜、ウ〜〜、ウ〜!」
「おじいちゃん、おじいちゃん!」
まだ、この頃はオジーのことを「おじいちゃん」と呼ぶ可愛い孫であった。
しかし、オジーの返事はなかった。
恐る恐る、しかし怯むこともなく、仏壇の部屋のふすまを少し開けて覗いてみた。
「ウ〜、ウ〜〜、ウ〜!」
そこには、どでかいウシガエル(隊長の地方では、食用蛙、通称ショックーと呼ばれている)が仏壇の前の座布団の上で、仏壇を拝むように座っていた。
「ウ〜、ウ〜〜、ウ〜!」
でかいショックーは、目を潤ませながら一身を捧げるようにノドを鳴らしていた。
その神々しい姿は、まるでご先祖様がカエルに姿を変えて帰ってきているようだった。
思わずその後ろ姿に向かって「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と唱えてしまったぞ。
毎朝仏壇に手を合わせていた隊長には、とても他人には思えなかったのだ。
「おじいちゃん!おじいちゃん!!」
このことを知らせたくて一生懸命にオジーを探した。
「おう!」
井戸小屋の方からオジーの声が聞こえた。
「大変だ、ご先祖様がカエルになって帰ってきた、カエルになって仏壇を拝んどる!」
オジーは不審な顔をしながら隊長の後を追い掛けてきた。
「こりゃ〜、りっぱなショックーだ」
オジーは、そう一言言うとひょいとショックーを両手で捕まえていそいそと台所の方に歩いていった。
その不気味な後ろ姿を見ていると子ども心にもこれ以上見てはいけないと思ったのを覚えている。
次にこのショックーに会ったのは、お皿の上だった。
「おー、アキも食べろや、上手いぞ」
何という罰当たりなオジーとは思ったが、あまりに上手そうに食べていたものだから一口食べてみた。
その味は、水っぽい鶏肉と言った感じだったが結構いけた。
しかし、この年になって考えてみてもあのショックーは、ご先祖様の生まれ変わりだった気がするな〜。