オジーとの対決は、隊長が成長するに従って激しさを増していった。
そして、ついに隊長が小学校4年生の時にある事件が起きた。
隊長が、オジーの自転車を借りたまま“畑の家”(改めてまた書きます)に置いてきてしまったのだ。
朝になってそれに気づいたオジーは暴れた。
学校に行こうとしている隊長を捕まえて「すぐに取ってこい!」と怒鳴っている。
“畑の家”までは、せいぜい700m。
「そのくらいオジーが取りに行け!」の一言が火に油を注いでしまった。
どんなことをしても捕まえられないと思い知らされているオジーはとんでもないことを言い出した。
「お前がそんな人間になってしまったのは、学校が悪いせいだ、校長に怒鳴り込んでやる!」
普通の人間なら単なる脅しや腹いせに言ったことでも、このオジーは違う。
何をやるのか分からない、並はずれた極道ジジイなのだ。
「バカ野郎!」と叫ぶと隊長は、すぐに学校に向かい仲間を集めた。
「もうすぐうちのいかれたジジイがやってくる、絶対に小学校に入れてはいけない!」
「オー!」(なぜかこういう時に燃えるのが当時の友だちだった)
そう言うと正門の両横にある松の木にそれぞれ友だちを配置した。
みんなそれぞれに石だとか棒きれを持ち、中にはどこで拾ってきたのか穴の空いた鍋まで被っているヤツもいる。
ホント、頼もしい連中だ。松の木に登り枝をユサユサ揺らして戦闘態勢だ。
ウッキキー!ヒョーヒョー!叫び声がこだました。
「あきちゃん、何でおじいちゃんを追っ払うの?」この期に及んで初めてのぶちゃんが質問した。
「オレがオジーの自転車を畑の家に忘れてきたからだ」
「それじゃ、あきちゃんが悪いんじゃない?」常識派ののぶちゃんは、訝しげに答えた。
「バカ野郎、もうそんなことはどうでも良いんだ、これはオレとオジーの戦いなんだー!」隊長は手に持った枝を振り回し怒鳴った。
「オー!ヒャー!キー!」とても人間とは思えないような雄叫びがあちこちから上がっていた。
「あきちゃん見て!」あっちゃんの声がうわずっていた。
隊長の家の方からオジーが手に木刀を持ってゆっくりと歩いてきているのが見えた。
目が据わっている。さすがは、極道オジーと言われているだけはある。あの目で睨まれて村で刃向かえるものは、この隊長だけだろう。
この孫が「なんにもせずにいるわけがない」と見抜いておるな。
敵ながらあっぱれじゃ、褒めてやろう。
一歩一歩と近づいてくるオジー。
枝を揺らして待ちかまえる隊長と仲間たち。
「帰れー、くそジジー!」隊長はそう叫ぶと、枝をオジーに投げつけた。
カキン!
それをオジーは簡単に払いのけるとズンズンと突進してきた。
「やれー!」隊長の合図でみんなが一斉に石や枝を投げつけた。
さすがのオジーもこの攻撃には後退せざるおえなかった。
どのくらいの戦いだっただろう。隊長には、ずいぶんと長く感じられたが・・・。
帰って行くオジーの後ろ姿見て隊長と仲間たちは勝利の雄叫びを上げた。
「ウヒョヒョヒョー!ヒーヒー!キーキー!!」
雄叫びを上げながら枝を揺らして喜んでいる一団はとても人間には見えなかっただろう。
その時に、授業が始まるチャイムが鳴った。
1時間目の授業中、ふと外を見やるとオジーが一人トボトボと自転車を押している姿が見えた。
極道オジーはドンドンと年をとり、自分はドンドンと逞しくなっているという事実に隊長はまだ気づいていなかったのだ。
オジーが死んだのは、その2年後だった。