いたずら (3)03/6

隊長のいたずらは止まるどころか、益々エスカレートしていった。

蚊取り線香の時限爆弾・お寺のろうそく爆弾とすべて上手くいき?もうだれ求めることが出来ないって感じだった。

そして、4年生の頃ついに一線を越えたいたずらへと進化していったのだ。

(今までが一線を越えていなかったというと、いまいち分からないのだが・・)

隊長の家には、オジーというとんでもないヤツがいた。

当時、農協の組合長をしていて外での評判は良かったのだが、家では大酒飲みの暴れん坊将軍だった。

いつも威張っていて、誰も口答えさえ出来ない有様だった。

そんな極道ジジイに唯一対抗していたのが隊長だったのだ。

向こうが暴れん坊将軍ならこっちは、クレヨンしんちゃんか?

小学校の時には、良く近所の店にタバコを買いに行かされていた。

もちろん、隊長のことなのでタダでは買いには行かなかった。

ちゃっかりとお小遣いをせしめていたのだ。

隊長が買ってきたタバコをオジーはいつも気持ちよさそうに吸っていた。

そのあげくに小学生の隊長にもタバコや酒を勧めていたのだから、困ったジジイだった。

よく火鉢を囲んでジイと孫が酒やタバコを嗜んでいたのだ。

しかし、不思議なもので隊長は、その後いっさい酒もタバコもやっていないのだ。

まぁ、そんな金があればバイクにつぎ込んでしまうのだが・・。

その日もいつものようにオジーは火鉢に肘をついて上手そうにタバコを吸っていた。

斜め下から(それだけ小さかったんだと思う)段々と短くなっていくタバコを眺めていてハッと凄いことを思いついた。

「あのタバコが爆発したらオジーはビックリするだろうなぁ〜。」

そう思ったらもうじっとしていられなかった。

タバコに爆竹を仕掛けるなんて事は、当時の隊長にとっては、屁でもないことだった。

オジーが農協に行っている隙に早速作ってみた。

まずは爆竹の大きさが問題だった。

一番デカイ、デンコウでも無理をすれば入ったが、あんなものが鼻先で爆発すれば

間違いなくオジーはあの世に逝くだろうと子ども心にも感じた。

お情けで中デンを選んだのだが、今度は入れる場所でまたまた悩んでしまった。

あんまり先では面白くないし、かといってあんまり根本だとひょっとしてあの世に逝ってしまうかもしれない。

隊長は、技術的なことより、こんな事で悩んでしまうロマンチストな面もあるのだ。

悩みに悩んだ末、タバコの真ん中へんにニチビを短く切って綺麗に入れた。

ニチビを短くしたのは、ニチビが燃える音にオジーがビックリしてタバコを放り出す危険性があったからだ。

些細なミスでも見逃さないこの性格を生かす道はなかったのか?と今になっては思うぞ。

タバコを改造して回りに落ちたゴミも怪しまれないように綺麗に片づけた。

隊長には、こういう繊細な面もあるのだ。

しかし、こんなにロマンチストで、ミスもしなくて繊細な隊長なんだが、人生では生かす道はなかったな〜。

そして、火鉢の上のタバコの箱の上に1本だけ爆弾タバコを置き、オジーが帰ってくるのを今か今かと待った。

いつもはじっとしていることなどないのだが、こういう時は、

「どんな顔をするかな?ひっくり返るかな?」などと思いめぐらす夢見る少年になってしまうのだ。

そして、オジーが帰って来て、いつものように火鉢に肘をつき、いつものようにタバコに火を付けた。

違うことと言えば、普段はオジーの汚い顔など見ていない隊長が、

この時ばかりは期待に胸ふくらませる輝く瞳になっていたことぐらいだった。

隊長は、斜め上のオジーのタバコの煙を見ながら、ワクワクしていた。

上手そうに吐き出す煙は、ゴリラの火炎放射のようだった。

そして、その時が来た!

シュッっと音がしたと同時に、スゴイ爆発音がして一瞬にしてタバコが吹っ飛んだ。

あまりのデカイ音(いくら中デンと言えどもやはりこんな近距離では凄かった)に

隊長の方がビックリして後ろにのけぞってしまった。

気付くとオジーはフィルターだけのタバコをくわえて微動だにしていなかった。

硝煙が漂い、オジーの顔や回りにはタバコの破片が散らばっていた。

まるでゴジラが自衛隊の一斉射撃をあびた後のようだった。

「ひょっとして逝ってしまったか?」と思った瞬間、オジーのでかい目がギョロリと動きこちらを見た。

その目はゴジラがギョロリと見下して自衛隊の戦車に火炎放射する時と一緒だった。

世の中に怖いものなどない隊長だったが、この時の目は怖かった。

「ワー!」と隊長は、走って逃げた。

まるで巨大化した極道ジジイがゴジラになって追いかけてきているようだった。

とにかく力の限り走って逃げた。

その後のことは何にも覚えていないのだが、今でもあの目だけは鮮明に覚えている隊長だったのだ。