中学生がやってきた

12月15,16,17日と3日間に分かれて中学3年生(222人)が 保育園にやってきました。

1日目に73人、2日目に74人、3日目に74人が8時45分から10時30分まで

子どもたちと遊んだり園長先生の話を聞いたりしました。

こんなことは今年が初めてです。

発端は、6月でした。 中学2年生の一日体験学習で、6人の子を受け入れたのです。

この時、一人一人のプロフィール(自分で書いたもの)が事前にきたのですが、 これがおもしろかったのです。

「子どもは好きなのですが、引っ込み思案なのでうまく遊べるかどうか心配です」 とか

「体を動かすことが好きです。でも頭はあまり動きません」とか書いてあるのです。

そして、実際に本人をみれば、まさにその通りで、 子どもを前に、地蔵様になっていたり、

本当に体だけはよく動くが、何も考えてないなど爆笑ものでした。

これが、大学(保育科)の子たちの実習になると、 自己紹介をもみんな似たり寄ったりになってしまいます。

6人のうち2人はうちの卒園児でした。

卒園後もいろいろなことで関わった子ばかりだったので、 すぐにうちとけて一緒に子どもたちの面倒をみていました。

年中児の真智子先生のクラスに来たのは、チハルでした。

「じゃんけんに負けたで、先生のクラスの来た」いきなりチハルがジャブを出します。

「先生、ちっともこの子たちいうこと聞かん」

「なに言ってんの、チハルの年中さんの頃に比べればメチャいい子よ」。

この二人、一日中漫才を繰り広げていました。

他の子たちも、仲良く子どもたちと遊んでいましたが (お地蔵さんになった子も、だんだんと動き出しました) 一人、気になる女の子がいました。

最初は、仲良く遊んでいるように見えたのですが、 時間がたつにつれて、子どもたちとの関わりを持たなくなっていました。

子どもたちは親しみを込めてそばに寄るのですが、手で押しのけたりしていました。

ただ、コッチ(年長の女の子)は、 このお姉ちゃんが気に入っていたようで帰るときまでひっついていました。

そして、7月に手芸部の先生が突然、園にやって来ました。

6月にこちらに来た子から「とっても楽しかった」 ということを聞いた手芸部員20名が夏休みに一度来たいと言うことでした。

そして、手芸部員たちは、手作りのぬいぐるみや遊び道具を いっぱい携えてやってきました。

手芸部なので、もちろん女の子ばかりでしたが、 子どもとの関わり方をみていると、きっといいお母さんになるなと思わせてくれました。

保母さんたちとも仲良くなって帰っていきました。

そして、11月に学校側から、 中学3年生の体験学習として全員がお邪魔していいかと言う話になったのです。

一日目、わいわいと中学生がやってきました。

でかいです。 僕よりでかいヤツが多いです。 そして無愛想です。こちらが挨拶をしても半分も返ってきません。

園児の70人なんて大したことはないのですが、 中学生が70人くらいになると遊戯室も小さく見えます。

まずは、園長先生が話をしました。反応は今一歩です。

続いて、美奈子先生が子どもたちとやると盛り上がる手遊びをやりました。 ほんの一部の女の子がやっているだけです。

男の子たちはニヤニヤしているだけです。 何とか盛り上げようとしている美奈子先生ですが、苦戦をしていました。

やはり、70人は多すぎたかなと不安がよぎりました。 大学生の実習でも、少ない人数の方が実りがあります。

多くなるとお互いを頼ったり、 一人で子どもたちの中に飛び込むということが少なくなります。

フ・フ・フ! しかし中学生ペースもここまでです。世の中そんなに甘くはありません。

70名ぐらいでも、各クラスに分かれれば一クラス10人くらいです。

まずは自己紹介です。 ぼそぼそと言っている子には「聞こえーん」と容赦なく子どもたちの声があがります。

「今度は大きな声で言ってくれるよ」保母さんが追い打ちを書けます。

「さあ、お兄さん、お姉さんがみんなに手遊びをしてくれるって」 お兄さん、お姉さん、笑顔が引きつっています。

♪たまごたまごがパチンと割れて♪ 恥ずかしそうにモゾモゾやっています。

♪かわいいひよこがピヨピヨピヨ♪ 「さあーかわいくねー」保母さんの合いの手が入ります。

♪ま〜かわいい、ピヨピヨピヨ♪ 2番です。♪こわ〜いヘビがニョーロニョロ♪ 「こわくね」保母さんが怖く言います。

♪まーこわーいニョーロニョロ♪ この頃になると、だいぶ声が出てきます、 ヤケになっているヤツもいます。

子どもたちも一緒になってやり出しました。 保母さんたちや子どもたちの笑い声がお部屋を包んでいました。

この後は分かれて好きな遊びをしたり、中学生が作ってきたおみやげで楽しみました。

最初の10分ぐらいは、どう関わっていいか分からない子もいましたが、 だんだんとうち解けていっているようです。

やはり、最初の♪たまごたまご♪で一皮むけたようです。

卒園児の美佳ちゃんが、ボーとしていました。 「なんだん、美佳ちゃん、一緒に遊んだら?」 僕が声をかけたら

「だって、ちっちゃくて壊れそうなんだもん」と言っていました。

今まで、小さい子と遊んだことがなかったそうです。

「先生、いつもこんなことやってんの、大変だねー」 ちょっと生意気な奴らも楽しそうに子どもと遊びながら感心していました。

(中には子どもたちに面倒をみてもらっているようなヤツもいましたが)

その関わり方は、保母さんとは全然違っていますが、 子どもたちはとっても楽しそうでした。

メロディオンを引っぱり出して聞かせてあげている子どもには 「お!今度は音楽の時間か?」とワクワクしながら拍手をしていました。

手をたたいてもらっている年長さんもとっても誇らしげでした。

「ヘーすごいな、そんなことが出来るのか、すごいな」 あやとりを一緒にやっている男の子が言っています。

その素直の感動の仕方に保母さんたちも感心していました。

「私たちでも、なかなかあんなに素直に感動を表せないよね。」

男の子がクッションを作ってきて、子どもたちと一緒に座りながら笑っています。

真ん中に大きなボンボンが付いていて、その横に何か汚れのようなものが。 よく見ると、「祝・贈呈」って刺繍してありました。

女の子が作ってきたお人形さんで遊んでいた2歳児は 「このお人形さんってすごい、わたがしが入っている」とビックリしていました。

中の綿が飛び出してきただけなのですが。 空き箱で車を作ってきてくれた子もいました。

子どもたちは嬉しくて、糸を引きながら走り回っていましたが、壊してしまいました。

「大丈夫、大丈夫、すぐ直るから」 すまなそうにしている子にすぐに声をかけていました。

最初は多すぎると思った人数も、いざやってみると お兄さん、お姉さんの取り合いにならなくてちょうどいい人数だったと思いました。

あっという間に時間が過ぎて帰る時間になってしまいました。

「サイコー」大きな男の子が叫んでいました。

きっと、こんな意見ばかりではないと思いますが、 僕たちも子どもたちも中学生のすばらしさが体験できた半日でした。

保母さんたちは、男の子の意外な面に感心していました。

そうなんです。 僕よりもでかいようなヤツらが一生懸命に子どもたちと遊んでくれたのでした。

その遊び方が女の子より真剣に感じられるのです。

何か、子どもたちに寄り添っているという感じなのです。

「いいじゃん、中学生、特に男の子がかわいかった、ドキドキしちゃった!」 「タッキーがよかったね!」

勝手にあだ名を付けて、盛り上がっている先生もいました。

園長先生が最後のお話で言いました。 「また、いつ来てくれてもいいですよ」

美奈子先生が続けます。 「今日で終わりではなく、今日が始まりだと思っています」 「本当!冗談じゃない?」誰かが言いました。

笑い声の中、来たときとは違う顔がそこにはありました。

「今日は午後もいたいなー」帰り際に男の子が言いました。 午後には、三者懇談があって、進路を決めなければならないそうです。

「あの子たちは、もう受験一色なんで、今しかありません」

そういえば、体験学習の日にちを話し合うときに中学校の先生が 言っていたのを思い出しました。

何か心が温かくなっている僕たちに比べて、 お礼を言いに来た先生の表情は少し曇っているように見えました。

「今日は本当にありがとうございました。 あの子たちもきっと得るものがあったと思います」 ここでため息が漏れました。

「実は明日来る子に問題がある子が3人います、頭が黄色いんです、 他の子からも浮いてしまっていて」

これを聞いていた弘子先生、すかさず 「ちょうど冬だし、紅葉みたいでいいじゃない!」と年季が入ったお答えを。

さすが、娘がコスプレです。 だてに家の中でセーラームーンの格好をしているわけではありません。

(そういえば、セーラームーンも金髪だったな。)

で、二日目にやってきました3人の黄色い子たちが。 なぜか、その子たちの回りはあいています。

続々と入ってくる中学生、やはり今日も挨拶はあまり返ってきません。

僕と美奈子先生は、笑顔で3人の黄色い女の子にも挨拶をしました。

一人は、ちょっと会釈して、二人は少し恥ずかしそうにしていました。

「大丈夫だよ、あの子たち」美奈子先生が言いました。

「もっと、ひねているかと思ったら、いけるよ」僕も、感じるものがありました。

二日目も、園長先生のあとに美奈子先生が手遊びをやりました。 一日目よりひどいです。 みんな黙っています。

美奈子先生と典子先生、完全に浮いています。

「みなさんがやるんですよ、私たちは前座じゃないんだから」 美奈子先生がたまらずツッコミを入れます。 笑い声が聞こえ出しました。

「今日の主役はみなさんですよ」 段々とやる子が増えてきました。

美奈子先生、昨日より進歩があります。 だいぶ中学生の扱い方が分かってきたようです。

黄色い3人娘は、雪組(2歳児)のお部屋に入りました。 みんなとは離れたところで3人であぐらをかいています。

子どもたちは、二日目ということもあり、 だいぶお兄さんお姉さんと遊ぶのになれてきました。

1日目の最初は、お互いにお地蔵さんのようになっていたのとは大違いです。

ここで、みんなと離れてあぐらをかいている3人娘に、 アイちゃんとユウくんが遊びに行きました。おそれを知らない奴らです。

少しお互いにぎこちなく関わっていた後、一人が怪獣ごっこを始めました。 見ていた二人も段々と遊びだしました。

特攻隊のアイちゃんとユウくんに続いて、2,3,人の子も遊びだしました。 いつしか、黄色い3人娘も自然に笑顔がこぼれていました。

最後まで、他の中学生とは離れたところで遊んでいましたが、いい感じでした。

実を言うとアイちゃんとユウくんは、おそれを知らない無鉄砲な子ではないのです。

最初にあった瞬間に、本能で、このお姉ちゃんたちは自分と遊んでくれる、 見守ってくれると感じていたと思うのです。

犬だって、犬好きのひとと嫌いな人を瞬間的に見分けると言いますよね。

人間も、乳幼児期(まだ自分が守れない)には、

自分をどのように見ているのかを感じる能力みたいなものが 残っているように思えて仕方ありません。

外見とかに惑わされない分、 その人間性みたいなものをより感じられるのではないでしょうか?

「親は騙せても子どもは騙せない!」私が勝手に作った格言です。

体験学習が終わり、中学生が帰っていきます。

その時に、黄色い3人娘が雪組(2歳児)のお部屋を覗いていました。

それに気づいた美奈子先生が声をかけました。 「どうだった?」

「楽しかった」ひとりの子が照れくさそうに言いました。 「また来ていい?」隣の子が聞きます。

「もちろん、いいですよ」美奈子先生が笑顔で答えていました。

そして3日間の体験学習が無事に終わりました。 お礼を言いにきた中学の先生に園長先生が聞きました。

「マサトくんとアキノリくん(卒園児)の姿が見えませんでしたけど、 お休みしていたのですか?」

そういえば、最初にもらった企画書に書かれていた人数よりは 来た子が少なかったようには感じていました。

「何人かは、休んでいるのです。マサトくんは、もうずっと学校に来ていなくて・・ 就職するそうです、アキノリくんもこの頃休みがちなんです」。

この先生の言葉を聞いたとき、二人の保育園時代がよみがえりました。

マサトは、長男なので少しお母さんが神経質になっていました。

年中さんの頃には補助輪なしの自転車をニコニコしながらいつも乗り回していました。

アキノリは足が速くて、運動会のかけっこで一番を走るきれいな走り方が甦りました。

二人ともいい子だったのにどうしたのだろうと考えていました。

「休みたいときは誰でもあるしね、休みたいときは休めばいいじゃん」 脳天気なことを僕が言いました。

「本当に休みたかったらね、でも行きたくても行けないこともあるんじゃない?」 美奈子先生が鋭いツッコミを入れます。

それからしばらく、中学の先生とお話をしました。

帰り際に「28日の餅つき大会の時に来たいって言う子がいるのですけど、 いいでしょうか?」と中学の先生が聞きました。

「いいですよ」美奈子先生も嬉しそうです。

「トミタユウコって子、覚えています?最初に6人来たときの一人なんですけど」 中学の先生の問いかけに

「あ、ひょっとして、コッチと仲良くなっていた子?」 美奈子先生はすぐに分かった様子です。

「あの子、この頃学校でずっとふさぎ込んでいて元気がないんです」

先生の説明では、 「今までずっといい子できたのですが、 どこかに無理をしているところがあるらしくて…、

心配性のお母さんともうまくいってないようだ」とのことでした。

でも、保育園の話になると「楽しかった」と明るい顔になるそうです。 その子も、「来たいと言っている」という話でした。

最初は、うまく遊んでいたように見えましたが、

帰り際は子どもたちとの関わりを嫌がっていたように見えた子なので、 何か不思議な気がしましたが・・。

今年最後の行事が28日の餅つき大会です。 美奈子先生も「いつもより餅米を多くしようかしら」とウキウキしています。

今年は、餅をつくのを中学生に任せてゆっくりビデオでも撮ろうかな。

子どもたちも大喜びしそうです。 楽しい餅つき大会になりそうです。