結婚写真?(2005/5) 

 何年か前のことです。
年長さんのお部屋の前を通った時に、ただならぬ雰囲気を感じました。
そこにはすごい顔をして怒っているサキちゃんに、今にも泣き出しそうなシホちゃん、
そして、その間でボーとしているユキくんが見えました。
回りのお友達も心配そうに囲んでいます。 もう、絵に描いたようなただならぬ雰囲気です。
いつもなら少し様子を見てから声をかけるのですが、思わず「どうしたの?」と聞いてしまいました。
サキちゃんがいかにも怒っているぞという顔で訴えます。
「ユキくんたらね、シホちゃんと結婚写真を撮っちゃったんだよ」
回りの女の子がうなずきます。
確かに、シホちゃんの手にはユキくんと楽しそうに写っている写真が握られています。
しかし僕には「???」。 話が見えません。
まだ、この頃の子は話の要点を順序立てて伝えられるわけではないので当たり前です。
「どうして、シホちゃんとユキくんが写真を撮っちゃいけないの?」とサキちゃんに聞いてみると、

この世にこんな不条理はないという顔で
「だって、だって、ユキくんと私は結婚する約束をしたんだよ、もう出来ない!」
最後の言葉を言ったとき、サキちゃんの大きな目から一粒の涙がこぼれました。
もうほとんどドラマの名場面です。
どうやらこの写真、シホちゃんがユキくんの家に遊びに行ったときにお母さんが残っていたフィルムで撮ってくれたようです。

それを保育園に持ってきたところを誰かが「あ、結婚写真みたいだ!」と言ってしまったからさあ大変。

それを聞いたサキちゃんは、大好きなユキくんと結婚の約束までしていたのにと怒りを爆発させたのでした。
優柔不断なユキくんですから、サキちゃんに結婚を迫られてついつい「うん」と言ってしまったのでしょう。

しかし、しっかり者で通っているシホちゃんも

どうやらユキゆきくんのことを密かに想っているらしいことがよけいに話をややこしくしています。
この女の戦いを聞きつけたともこ先生がやってきました。

さすが担任です。
手際よく子どもたちの言い分を聞き、だいたいのことは把握したようです。
「いい、サキちゃん、好きな人と必ず結婚できるわけじゃないのよ、女はね、つらいときもあるの」
二人は手を取り合って見つめ合っています。
二人の心がひとつになったのでしょうか「私、がんばる!」とサキちゃんは言うと

さっと髪をなびかせながら振り返るとスタスタと廊下を歩いていきました。
「何をがんばるんだ?」男の僕には理解できない女の世界があるようですよ。