フリーマーケット

6月9〜12日は、フリーマーケットでした。

9日は、2時から5時頃までで、 それ以降は売れ残ったものを廊下やテラスで事務所の先生が売っています。

今年で7回目のフリーマーケット、当園でもちょっと変わった行事です。

「参加したい人だけが参加し、買いたい人だけが買っていく」そんな行事なのです。

他の行事と違い、これといった目的もありません。

そして、毎年、売り上げの1割を場所代として、 園に寄付してもらい子どもたちの保育に使っています。

最初は、単なる思い付きでした。

交通安全集合訓練というのが、年4回あります。 親子で交通ルールを確認し、園庭の信号をわたって帰ります。

この6月の時以外は、他の行事といっしょだったり、 チャイルドビジョン(幼児体験視界メガネ) =これを掛けると、幼児の視界になってしまう=

を親子で作ったりするのですが、このときだけは何にもありませんでした。

交通安全集合訓練自体は、30分ぐらいで済んでしまうので 「せっかく集まるのだから、みんなで喜んで参加できるものはないか?」

と考え、フリーマーケットを思い浮かべたのです。

しかし、当時はフリーマーケットという言葉自体知らない方が多かったのです。

ですから、1回目は、あまり品物も集まらず、 先生たちの持ってきた品物の方が多いくらいでした。

いざやってみると、参加する(売ったり買っていく)お母さんは、 まだ半分ほどでしたが、その楽しそうな姿に希望がもてました。

ただ、当園には、だいぶ昔からやっている父母の会主催のバザーがあります。

(各家庭2品供出してもらい、売り上げは子どもたちのために使われます)

ですから、似たような行事をもう一つやらなくても良いのではないかという意見もありました。

でも、交通安全集合訓練だけより、少しでも楽しくなればと思い続けてきました。

それに同じように品物を売るいうことですが、 バザーとフリーマーケットでは、意味合いがだいぶ違うと思ったのです。

フリーマーケットの参加の仕方には2つあります。

まず、5月半ばに出される手紙に、 参加したい親御さんが「自分で売りたい」か「先生に委託する」に◯を付けてもらいます。

「自分で売りたい」に◯を付けた人には、僕が直接、どのくらいのスペースがいるか、 机はいくつほしいかなどを聞きいています。

「先生に委託する」に◯を付けた人は、手紙の下半分にある表に品物の名前、 個数、値段を書いてもらい、品物と一緒に提出してもらいます。

しかし、ここで問題が出るのです。

どのくらいの値段を付ければ売れるのかが分からないのです。

売れ残った品物は、バザーと違い親御さんが持って帰ります。

よくお母さんたちに「これ、いくらだったら、売れる?」と聞かれます。

しかし、「ミスターフリーマーケット」と呼ばれる僕でも 「これはいくら!」とは言えないのです。

安くすれば売れるとお思いの方もいるかもしれませんが、 フリーマーケットはそんな生やさしいものではありません。

買いたいものに出会えば、多少高くても買ってくれますが、 いくら安くてもいらないものは買ってはくれません。

(毎年、ほとんど新品のような古着もたくさん出ますが、 いくら安くしても、みんな持っているのかなかなか売れません、

この辺の土地柄もあるとおもうのですが・・)

そんなときは、いつもこう答えています。 「お母さんが納得できる値段を付けるしかありませんよ」

「でも、みんな売れ残ると恥ずかしいじゃん」 お母さんも真剣に悩んでいます。

そんなお母さんに追い打ちをかけるように僕は囁きます。

「奥さん、これが、今はやりの自己責任ってやつですよ!」

そうなのです、フリーマーケットは数々の悲喜劇をもたらしてきたのです。

(どこそこの銀行の役員のように、自分たちの失敗を公的資金で穴埋めしてもらっていながら、 高給をもらって平気な奴らとは違うのです。

あげくにすごい退職金ときている、 この国ってちょっと変!)

みほ先生は、最初の頃、自分の古着を山と持ってきましたが、1枚も売れませんでした。

気落ちしているみほ先生に「生写真を付けて、(みほ使用済み)ってしておけば お父さんが買ってくれたかもしれんよ」と慰めたものです。

(今、考えると立派なセクハラか?)

次の年は、爺ちゃんが朝、捕ってきたアサリをひとかご持ってきました。

「本当は持って来たくなかったんだけど、 爺ちゃんが持ってけ、持ってけってうるさいから、一袋50円じゃ高いかな?」

とぶつぶつ言いながら並べていました。

やはり最初は一つも売れませんでした。 お母さんたちの委託された品物を売りながらも、気になっているようでした。

そして、30分ぐらい過ぎたときにやっと一つ売れました。

「一つ売れたよ、売れたよ」 みほ先生は、はち切れんばかりの笑顔で言っていました。

「また売れた、売れた!」 自分の仕事も忘れて喜んでいるみほ先生でした。

結局、30袋は全部売り切れました。 (10袋ぐらいは、先生たちが買ったのですけど)

ゆみちゃんのお母さんは、もう5年、自分でいろいろなものを売っています。

最初は、子どもの古着でした。売れませんでした。

2年目は、旦那のCDです。全然売れませんでした。

3年目はお茶碗などのせとものでした。 あまりの重さに運ぶだけで疲れ果てていました。

まあまあ売れましたが、「持って帰るのはもうイヤ」と最後はタダ同然に売っていました。

そして、4年目は手作りエプロンでした。 これは売れました。売れすぎて予約注文まで受けていました。

5年目も手作りエプロンでしたが、今度は思ったほど売れませんでした。

フリーマーケットには、魔物が住んでいる!(ちょっと大げさか)

このパターンは、バルーンアート(風船で、動物などを作る)のあやちゃんにも言えました。

1年目は、子どもたちが列を作るぐらいに売れましたが、 2年目はそれほど売れませんでした。

参加義務はないのですが、なぜか父母の会役員さんたちは毎年燃えています。

最初の役員会では、一年間の行事予定と役員さんたちの仕事を話し合います。

「みなさん働いているので、無理はしないでください」ということとともに、

「フリーマーケットは、参加したい人が参加する行事なので、 役員としてやらなければならないものではありません」と確認しています。

しかし、燃えています。

今年の役員さん(15人)も前日から品物を遊戯室に運び始めました。

当日は、9時に集合して値札をワイワイ言いながら付けていました。

「10円のスーパーボールを買うと、空くじなしの豪華賞品が当たるじゃんね」 と(スーパーボールくじ引き)という看板を見せてくれました。

ポットに冷たいお茶まで用意して、とっても楽しそうでした。

11過ぎになると「これから作戦会議、作戦会議」と言いながら ランチを食べに出かけていきました。

10時過ぎには、もう一つの集団が現れました。 そうです、前年度の役員さんたちです。

「モーニングをみんなで食べてから来た」とこちらも準備万端です。

「この前、第2回ボーリング大会をやってね」と話してくれる元副会長さん。

思わず、この役員さんたちとやった一年間のいろいろな思い出がよみがえってきました。

卒園式後のお別れ会の時など、役員さん全員で歌ったユーミンの「卒業写真」では、 みんな泣き出してしまい歌えなくなってしまいました。

見ていた先生たちも、知らないうちに目頭が…。

真っ赤な顔をして野菜を運んでいるお母さんがいます。 なみちゃんのお母さんです。

すぐに事務所の先生が飛んでいって手伝っていました。 いつもはクールなお母さんですが、また違った面を見た思いがしました。

毎年、リカちゃん人形の手作りの服を出してくれるお母さんもいます。

ウエディングドレス、パーティードレスから普段着まで、すごいの一言です。

(今年は、子どもが卒園したのに出してくれました)

目玉商品(明らかに買い手が殺到しそうなもの)は、抽選になります。

先着10名が、好きな番号に名前を書いておいて、4時15分から抽選します。 これがまた、盛り上がります。

今年は、千円のS−VHSビデオデッキが2台、 350円のランチボックス(お皿スプーン付き)、

千円のドームテントなど10品が抽選品になりました。

フリーマーケットは、水曜日の午後2時からなのですが、

毎年品物が増えてきたので、今年は月曜日から事務所組の先生で 遊戯室に並べ始めました。

先生たちが出してくれる品物は廊下・階段が中心です。

(やはり、遊戯室の方が売れるので、まずはお母さんたちの品物を遊戯室に置きます)

乳児さんのテラスには、前年度のバザーの売れ残り、

お祭りごっこの小さなおもちゃやさんの売れ残ったぬいぐるみや おもちゃが所狭しと並びます。

バザーとフリーマーケットがあると以外に助かるのです。

バザーは、各家庭2品供出してもらい、お祭りごっこのワンコーナーで 父母の会の役員さんたちが売ります。

しかし、例年かなり余ってしまい、最後はタダ同然で無理やり買ってもらっていました。

フリーマーケットが始まってからは、この売れ残り分を園の品物として売っています。

そしてフリーマーケットで売れ残った分(テラス分)や 売れ残ったら園に寄付しますというもの(意外と多いのです)はバザーに持っていきます。

これを繰り返していると、以外にさばけていきます。

中には、何年間も出ているものもありますが、いつしか売れていってしまいます。

しかし、ぬいぐるみは、10円20円で売っても売っても、集まってしまいます。

これらは、お祭りごっこでの輪投げやゲームの景品になっていきます。

そして、子どもたちはとっても嬉しそうに持っていってくれるのです。

フリーマーケットとバザーの間に品物を保管するのは、うちの納屋です。 いつしかサティアンと呼ばれています。(誰がつけたんだ!)

「サティアンへ」と書かれた段ボールが、僕の机の裏に積み上げられます。

実は、フリーマーケットには、当日だけでなく、その前にもドラマがあるのです。

「1週間前から、あれ出そうか、これ出そうかと家族で盛り上がっちゃって!」

「ゆうがが使わなくなったおもちゃを、知らないうちに出してやるじゃんね」

「お兄ちゃんが(4年生)自分のおもちゃを売って新しいのを買うって張り切ってね」

「売上が、私のへそくりになるんだよ」

それぞれの家庭で、すでにドラマが始まっているのです。

今年は、始まる前に一波乱ありました。

年毎に参加人数が膨れ上がってきたので、 今年は、例年より早めの月曜から事務所組で品物を並べ始めました。

ですから、当日は「余裕のよっちゃん」でした。 (どんなことが起こっても、悠然と構えていたよっちゃんて子がいたんです)

しかし、自分で売るという現役員さん(15人)、 旧役員さん(15人)その他のお母さん6人が、

事前に聞いていたよりだいぶ品物が多くなってしまったのです。

すでに並べてあった品物(親御さん49人分+先生25人分)も 例年より多かったので、場所が無くなってしまいました。

急遽、机を追加したり、品物を移動したりと、事務所の先生は大忙しでした。

給食も、そこそこに最終チェックに飛び回っていました。

値段の分かりにくいものを直したり、 売れそうにないものを目立ちやすい場所に移したり、

「朝、積み立ての無農薬びわ!」

「ホッとしたときにどうですか?ティーセット」

「大切なお子さんのために、チャイルドシート」などと次々に書いて貼っていきます。

1時半頃から、近所の方を始めお母さん方が集まりだします。

その時、削り節屋のまーくんのお母さんが、箱を抱えてやってきました。

「今まで、削っとったじゃん」。 このまーくんの各種削り節、先生を始め根強いファンがいるのです。

薬局のあっちゃんのお母さんは、いつもハブラシセットや、 化粧品セットに各種試供品を詰めて持ってきます。 (ちょーお買い得品です)

あやちゃんのお母さんは、旦那が働いている靴屋から、 たくさん持ってきました。(だいぶ売れ残りました)

いよいよ2時から始まりです。

場所は2階の遊戯室と廊下、そして2階テラスです。

1階の子どもたちは、まだ、それぞれの保育室で、おやつの準備が始まるころです。

2階の乳児さんたちは、少しずつお昼寝から起きるころです。

最初は、お母さんたちだけの買い物となります。 (これが意外と評判良いのです)

景気のいい音楽にのって、美奈子先生が盛り上げます。

自分で売るお母さんたちのボルテージも上がります。 マイクを向けると、最高潮です。

そんな遊戯室や廊下の熱気から、隔離されたように静かな場所があります。

乳児さんのテラスです。

ここは、普段は、乳児さんたちが遊べるように、 ぞうさんの滑り台があったりするところですが、

この時だけは、バザーの売れ残りの品物、 ぬいぐるみ、フリーマーケットで売れ残った後に園に寄付された古着など、

はっきり言って「ワケアリ商品」です。

入って2年目のエツコ先生 (通称ワカエツ、若いエツコ先生って意味、もう一人は、ババエツ!ウソで〜す)は、 手持ち無沙汰です。

3時半から4時の間は、交通安全集合訓練のために一時中断します。

4時からは、子どもと一緒に買い物を楽しみます。 この頃からは、威勢良く外にも放送を流し始めます。

その放送に誘われるように、強力な助っ人がやってきます。

卒園児を中心とした小学生軍団です。 この軍団は、お母さんたちとはまた違うものを買ってくれるから助かります。

この頃になると、テラスにも人が集まりだします。

ワカエツ先生が小学校の女の子と話しています。 女の子は、いろんな服を持ってきては、悩んでいます。

それに、アドバイスをしているようです。

もう一人のハリキリ娘、マヤ先生(3年目)も、 近所のおばあさんに、「お孫さんにどうです?」と売り込んでいます。

女の子が、4,5着の服を袋に詰めてもらい、嬉しそうに帰っていきました。

「あの子にコーディネイトしてあげたんですよ」ワカエツ先生も満足げです。

テラスは、チョー安いんですよ。 子どもたちもぬいぐるみや漫画本、 壊れかけたようなおもちゃをたくさん買っていきますが、

100円とかかりません。なんてたって「ワケアリ!」ですから。

今年は、ちょうど短大の保育科の子たちが3人、 実習に来ていて、そこの先生が来ることになっていました。

この先生の教え子が、当園には7人います。

来るなり、教え子たちの姿を見たいと各お部屋を回っていました。

「あんたらはみんな私の子どもみたいなものだから」と巨体を揺らして豪快に笑っていました。

その後の、フリーマーケットでは、 教え子の先生たちを娘のようにこき使って山と買った品物を運ばせていました。

お調子者のまーくんとたっちゃん(卒園児)が、 美奈子先生からマイクを向けられて呼び込み始めました。

「いらっしゃい!いらっしゃい!」。

4時半過ぎから、手の空いた先生たちも交代で買い物にやってきます。

うちは、職員が理事長を含めて37人いるので、なかなか強力な買い手です。

しかも、慈悲深い女神軍団ですから、 あまり売れていないお母さんの品物や残り物をどんどん買っていってくれます。 ありがたいことです。

例年ですと、5時過ぎから片づけが始まるのですが、今年は6時過ぎになってしまいました。 買う人が、そのころまで結構いたんです。

初めは、先生たちの負担にならないようにやってきましたが、

ここまで規模が大きくなってくると、みんなに手伝ってもらわなくてはとても出来ません。

6時半頃には、先生たちも解散できたのですが、 その後各クラスごとに明日からの縦割り保育について話し合っていたそうで、

結局帰るのは7時過ぎになってしまいました。

帰り際、園長先生が僕に言いました。 「今日は、先生たち、みんな疲れ切ったんじゃない?」

その言葉に、いろいろな意味を感じ取り、カチンときて言いました。

「そんなこと無いんじゃない、みんな楽しそうにやっていたよ」 そう言いながらも足は棒のようでした。

事務所の先生は、僕以上に疲れたと思います。 他の先生たちも、休憩もとらずに手伝ってくれました。

気軽に始めたフリーマーケットですが、 今は地域の方を巻き込んだ一大行事に成長しました。

嬉しい反面、先生たちの負担が重くなってきたのでも事実です。

夜道を帰りながら、 「場所を提供するだけの行事を、わざわざ園でやる必要があるのか?」 という理事長先生の以前の言葉が浮かびました。

駐車場に、近づいたとき、みきちゃんのお母さんが声をかけてくれました。

「今年もよかったじゃん、フリーマーケット! 1年に2回ぐらいやって欲しいってみんな言ってたわよ」

車に乗ると、長女が走ってきました。 ぬいぐるみとカバンのようなものを大切そうに抱きしめています。

「なほちゃんね、このぬいぐるみ、買ったじゃんね。すごいらー。

ジャーン、このウルトラマンスーツケースは、こうやって開けるだに、 ジャジャーン!すごいらー、バッチと拳銃が入っとるだに」

12日の土曜日まで、フリーマーケットは、廊下やテラスで続きます。

お迎えの後に、買ってくれる方も多くいます。 (特に、今年は、土曜日まで、たくさんのお母さんや子どもたちが来てくれました)

その間に園長先生が、老人クラブや更生保護婦人会の方を連れてきてくれます。

理事長先生が、毎年残り物を山のように買ってくれます。

今年は、園への寄付金が6万8千円ありました。 去年が5万7千円だったので、忙しかったはずです。

古着がたくさん売れたのも初めてでした。

そして、月曜日あたりから、売れ残った品物と売上金をお母さんたちに渡していきます。

万単位の人から80円の人までいます。 喜んでいるお母さんと共にがっかりしているお母さんもいます。

でも、これがフリーマーケットなのです。 こうやって7年間続いてきたのです。

そして、これからも悲喜劇をまき散らしながら続いていくでしょう。

そうなのです。 「奥さん、これが、今はやりの自己責任ってやつですぜ!」なのです。