ある乳児クラスの出来事

先生たちの中には、自分の関わり方が、 子どものためになっているか不安になる時もあるのではないでしょうか。

でも、それは健全な証拠だと思います。

悩んで悔やんで、そして子どもの笑顔に勇気づけられながら、

何とかこの子たちのためになりたいと、日々頑張っているのではないでしょうか。


以前、当園でこんな事がありました。

乳児さん(2歳児)のあるクラスで気になるクラスがありました。 そのクラスの担任の先生は、はじめてクラスのチーフになった先生でした。

(乳児クラスなので何人かで受け持ちます。その時は3人)

4月当初は、まだ園自体に慣れない子が多く泣いてしまうのも無理ありませんが 5月になっても、まだ泣いてくる子が何人かいました。

たまにそのクラスの前を通ると、 子どもたちも例年と比べるとおとなしいし他の先生達の表情も硬く感じられました。

二人とも1年目の先生と臨時の先生なので慣れないせいかと思っていたのですが、 ある時、そのクラスに用事があって行くことがありました。

ちょうどチーフの先生が休みだったのですが、

僕が見たものは、いつもよりのびのび動いている先生達とほのぼのとした表情の子どもたちでした。


そのころお母さん方の間でこんな事が噂になっているのを聞きました。

「**組のチーフの先生が怖くて子どもが園に行きたがらない、 びどい叱り方をしているようだ」

何人かの仲の良いお母さんに聞いてみたら、 確かにそういう話は出ていると言うことでした。

常々チーフの先生が「私が叱り役にならねば」と言っていたことが頭に浮かびました。

はじめてのチーフという役に気負いすぎたのか、 とにかく一度話をしようと決心しました。


5時過ぎになってチーフの先生が一人になったところで部屋を訪ねました。

そこには、チーちゃんを膝に乗せて耳元で一生懸命にお話を読んでいる先生がいました。

チーちゃんは難聴で、まだはっきり言葉が言えません。 お母さんも仕事が忙しくお迎えも遅れがちです。

夕日が射し込む部屋の中をお話の声だけが響いていました。

その姿を見たとき、僕は何も言うことが出来ませんでした。


ザリガニ・ミミズ・メダカなどいろいろな生き物が入ったカゴがありました。

カゴには、その先生の子どもの名前が書いてあります。

子どもたちと散歩に行った時など、 子どもたちが興味を持った物をチーフの先生が捕まえてきては、みんなで育てています。

僕は、お話を読む声を聞きながら部屋の前を通り過ぎてしまいました。

その後は、だんだんとクラスの雰囲気も良くなってきましたが、

今でもその先生に子どもやお母さん達がどのように感じていたのかを ちゃんと話しておいた方が良かったのかと思うことがあります。