モラトリアム?

子どもたちと関わっているとその成長には、日々驚かされます。

昨日は出来なかったことが今日は簡単に出来てしまったり。

その成長スピードを目の当たりにしていると、 うらやましいやら「もっともっと」と欲が湧いてくるやら。

そんな中で親御さんが「子どもはいつも成長しているものだ、すべきなのだ」 と考えてしまうのも無理はありません。

以前、当園でこんな事がありました。

年少さんから園に来たマミちゃんは、3人兄弟の末っ子で、 誰にでもやさしい、とっても良い子でした。

しかし、年長さんになった5月頃から、「友だちがいじめる」と言うようになり 園に来たがらなくなりました。

お母さんから「行きたくないと泣くので休ませます」と電話があるようになり、 1週間の半分近くを休むようになりました。

しかし、園に来てしまえば、友だちとも仲良く遊んでいますし、 園生活自体も楽しんでいるようです。

担任も心配してお母さんやマミちゃんと話し合いましたが進展はありませんでした。

集団生活に慣れる間とか、うまく友達と関われなくて園に来たくないというのはあり ますが、

集団生活自体も楽しめるし、友達ともうまく遊べるのに 急に園に来たくないということは珍しいことです。

そんな中で、ひとつ分かってきたことがありました。

お母さんがマミちゃんに振り回されているということです。

園に来れば優しくて友だち付き合いも出来るのですが、 お母さんといるとわがままを言ったり、メソメソしたりと落ち着かないみたいです。

実はマミちゃんのお兄ちゃんとお姉ちゃんは体に障害(成長が止まってしまう)を 持っています。

以前、お母さんが「お兄ちゃんやお姉ちゃんに付きっきりで、

いつも優しくて手のかからないマミをほっておいたという負い目がある」と 言ってくれたことがあります。

そのせいか、急にお母さんを困らせるマミちゃんに どう接して良いのか分からなくなっているようでした。

こんな時こそ、マミちゃんの言うとおりにしてやりたいとも思っているようでした が、

僕にはマミちゃんもお母さんも苦しんでいるようにしか見えませんでした。

わがままを言うマミちゃんに何でも言うことを聞くお母さん。

お母さんに言うことを聞いてもらってもちっとも嬉しそうではなく、 むしろそんなお母さんに困惑しているマミちゃん。

そんな時、担任と主任先生、お母さんでもう一度話し合う機会がありました。

ただただ、狼狽えているばかりのお母さんに主任先生が言いました。

「お母さんは、マミちゃんにどうなって欲しいのですか、今のままで良いのですか ?」

「前のように、ニコニコ登園する子に戻って欲しいです」とお母さん。

「でしたら、まずそのことをマミちゃんにちゃんと伝えて下さい。 園に来れば、変わっていないのですから…。

朝起きたら、誰だって会社に行きたくないときとか、学校に行きたくないときとかあ ります。

でも、そんなときに、いいよ、いいよ、行かなくても好きにすれば・・ と言うだけでいいのですか?」

主任先生、いつもより口調が厳しいかったです。

自分も子どもを3人育てていますので、似たようなことを経験しているかもしれませ ん。

ちょうどお遊戯会の練習が始まる時期だったので、 マミちゃんを自分が教えるお遊戯に入れて欲しいと担任にも頼んでいました。

その後も休みがちだったのですが、だんだんと休む日が少なくなり、 しばらくすると以前のように元気に登園するようになりました。

もちろん、お遊戯会も笑顔で踊っていました。

マミちゃんは、優しくてがんばり屋さんです。

お兄ちゃんやお姉ちゃんの事で、お母さんが大変なことも小さいときから分かってい ました。

そんな中で、いつもがんばってお母さんを手伝い、お兄ちゃんお姉ちゃんを助けてき ました。

年長さんの七夕祭りの時には、たどたどしい字で短冊にこう書いてありました。

「おにいちゃん おねえちゃんが おおきく なりますように まみ」

がんばることは大切です。 進歩すること、成長することも大切です。

でも、「いつもいつもがんばって進歩し、成長し続けなくてはいけない」わけではあ りません。

時には休んだり、悩んだり、立ち止まったりすることも必要なことだと思います。

そんなモラトリアム(猶予期間)が人生には何回か必要なのではないでしょうか。

そんなときは、回りで見守っているのが良いのか、 「がんばれー」と励ますのが良いのか、

共感すべきか厳しく接するべきか、一概には言えないと思います。

しかし、心のどこかには「そんな時も必要なのだ」と思ってあげた方がいいのではな いでしょうか。

小学校に上がったマミちゃんは、お兄ちゃんとお姉ちゃんの手を引いて笑顔で登校し ています。

そんな姿を見ると、マミちゃんにとっては、 年長さんのあの時が最初のモラトリアムだったような気がします。

そういえば、好きな昔話に「三年ねたろう」という話があります。

(うちの次男も「ねたろう」と家族の間では呼ばれています)

いつもいつも寝てばかりいて疎まれている「ねたろう」が、 村人が窮地に追い込まれたときに力を出して助けるという話です。

細かな違いはあれ日本中に似たような話があるそうです。

昔の人たちは、言ってみればそんな「怠け者」にも暖かいまなざしを注いでいたので しょうか?

生きていくことが大変だった時代にも関わらず、 そんなおおらかな子育てを「お話」にして伝えていたなんてすごいですね。