「ゆかいな仲間たち」のその後

以前、「ゆかいな仲間たち」という文を書いたことがあります。

新入児の中でなかなか集団生活になじめないような 「気になる子」と言われている子たちのことです。

その文章を読んだ方から 「うちの子もゆーくんそっくりなんです。その後はどうなったんですか? 親や先生はどのように対応したのですか?」

というメールを戴きました。

長くなってしまいますが、 「ゆかいな仲間たち」のひーくんとゆーくんの部分を抜粋しながら その後の彼らたちを報告しますね。

ひーくんは2歳児で、ゆーくんは3歳児で入園した子たちです。

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…でも、去年は運動会が終わった頃でも二人が 「ゆかいな仲間たち」から脱却できない子たちがいました。

ひーくんとゆーくんです。

例年なら、この運動会をきっかけにして「ゆかいな仲間たち」は解散することが多い のです。

ひーくんは、まず、登園するときにひとあばれします。

「せんせい、おはようございます」と言っているお友達の横で 鞄を投げ捨て逃げ回っています。

お母さんは今にも泣き出しそうです。

先生はいつも 「お母さん心配しないで、ちゃんと分かってやっているんですから」 と慰めています。

そうなんです。ひーくんは分かってやっているのです。

ひーくんが2歳の頃、お母さんは何回も家を出ていってしまいました。

その間、ずっとおばあちゃんの所に預けられていました。

おばあちゃんとの登園の時、特にひどいのも甘えているからなんです。

「わしは、孫を3人見たがこの子だけはわからん」と嘆くおばあちゃんですが、 これがこの子なりのおばあちゃんへの愛情表現なのです。

先生は、ひーくんに対しては、悪いことをしたときにはしっかり叱っていました。

ある日、お母さんと手をつないで登園したひーくんは ついに小さな声で「おはよう」と言ったのです。

いつも叱り役の先生も体中で喜びを表現しています。

お部屋に行くまでに何人の先生に誉められたか分かりません。

そして、お昼になってひーくんは熱を出しました。 体調が悪かったようです。

次の日から、また元気に逃げ回っていました。


ゆーくんは、いつもひとりぼっちでいます。

すぐにお友達を叩くので、だんだんとみんなも近くに来なくなってしまいました。

何に対しても自信がもてなくて、どうして良いのか分からないようです。

お友達と喧嘩をしては、廊下の隅で泣いているゆーくんを見ると、 僕にはゆーくんが苦しんでいるように思えて仕方がありません。

「どうして僕はみんなと遊べないんだ、お友達を叩いてしまうんだろう。」

先生も、何とか自信をつけてもらうために、 ちょっとしたことが出来ても大げさなぐらいに誉めて誉めて誉め殺していますが、

なかなか上手くいきません。

… 今年、年中さんに上がった二人の「ゆかいな仲間たち」。

今では、ひーくんはクラスの人気者です。

もともと、行動力があり、なにもかも分かってやっていただけなのですから、

そんなことをしなくても先生もお母さんも、 みんなもちゃんと自分を見ていてくれる、 認めていてくれると言うことが分かったようです。

「ばーちゃんを大切にしろよ」と僕が言うと 「分かってらい」と笑いながら友達の輪に入っていきました。


ゆー君は、昨日もお部屋の隅で泣いていました。

担任は持ち上がりなのですが、 お部屋が変わったので精神的に不安定になっているようです。

みんなでいつも応援しているぞ!

「がんばれゆーくん!年少さんのお遊戯会は、 練習の時はちっともやらなかったくせに、 本番になったらしっかり出来ていたんじゃないか。

かあちゃん泣いてたぞ。ちゃんとみんなの練習を見ていたんだな。

さっきまでは、お友達とも上手く遊べていたんじゃないか。 あと少しだよ、みんなゆーくんの笑顔を待っているんだから!」 …

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…ここで、「ゆかいなな仲間たち」の報告をさせていただきます。

○○年度の「ゆかいなな仲間たち」が、ついに解散となりました。

最後のゆーくんがもう一月ぐらい生き生きと友達と関わることが出来ています。

お部屋の隅で泣いていることもほとんど見かけません。

最初の頃、ビデオを撮りにいくと先生が、「見て!見て!」という感じで、 友達と遊んでいるところを目配せしてくれましたが、

今ではもう当たり前の光景です。

集団生活のルールみたいなものが分かってきたようです。

どんなことをすれば友達が嫌がり、 どんなときには我慢しなければいけないかが分かってきたようです。

一人でいるよりみんなでいることの楽しさに気がついたようです。

他の子どもたちもそうですが、4歳児は自分を表現する楽しさを満喫する時期です。

3歳児に比べると明らかにいろいろなことが出来るようになります。 いろんな事に挑戦してみようと思うようになります。

この時期に思いっきり暴れてほしいと思います。

そうすると不思議に年長さんになると落ち着いてきます。

先生と話している内容を聞くと、もう大人の会話をしていることもあります。

きっと、自分に自信がもてるようになるのですね。…

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ひーくんには、年長さんのお遊戯会で、「サスケ」というお遊戯を教えました。

5人で踊るのですが、なんてたって年長の暴れん坊たちです。

まずは、定石どおりヌンチャクや鎖がま、剣などの武器で釣りました。

特に、ひーくんには自信を持ってもらいたいので ヌンチャクでの見せ場も用意して振り付けを考えました。

ヌンチャクを操るには練習が必要です。

コツコツとやることが苦手なひーくんには、 興味のある「忍者もの」、 それも武器を修得する過程ならば出来るのではと考えました。

ひーくんは、みんなより早めに登園します。

僕は考えました。

「その時間に二人でヌンチャクを練習する。 きっと、ひーくんも喜んでやってくれるに違いない、

そして、努力を続けた結果、うまく出来るようになる。

お客さんも盛大に拍手をしてくれるだろう (うちのお遊戯会は、みなさんで盛り上げてくれます、ありがたい限りです)」

舞台上で、ヌンチャクを自在に操るひーくんに割れんばかりの拍手、 そして、ひーくんの得意げな顔が思い浮かんできました。

これぞ自己実現!!

「完璧じゃん!!」僕も得意げでした。

暴れん坊5人組に、まずは「サスケ」の音楽を聴かせました。

みんなの目が輝いています。なんてたって大好きな「忍者もの」です。

「みんなが踊るときには、武器もあるぞ」

この一言でひーくんの目がキラリと光りました。

作戦通りに事が運んでいます。

「好きな武器を選んで良いが、ひーくんはヌンチャクが良いぞ、かっこいいし」

それぞれの武器を持って遊戯室中を走り回る野獣たちを見ながら僕は頷いていまし た。

そして、めちゃくちゃにヌンチャクを振り回しているひーくんに ヌンチャクの正しいやり方を教えました。

すると、あのひーくんが一生懸命にやっているのです。

「今は出来なくても良いんだ、明日から練習だ!」僕は心の中で叫んでいました。

その時、 「俺、ヌンチャクいいわ、やっちゃん変えて」と言うと、今度は剣を振り回していま した。

結局、もともと根気があるやっちゃんとヌンチャクの練習をすることになりました。

しかし、本番ではみんなとっても楽しそうに踊っていたので、それでいいですわ。

そして、卒園。

お別れ会の最後では(子どもたちや先生と握手をしてお別れをします)

ゆーくんは、とっても愛くるしい笑顔で年中さんや年少さんの頭をなでていました。

ゆーくんの笑顔はとっても素敵です。

回りのみんなを幸せにしてくれます。僕も思わず微笑んで握手をしました。

ひーくんのところに来ました。

明るく「サスケかっこよかったぞ!」と言おうとしたら 浅黒いでかい顔の小さな目から涙がぽたぽた落ちているではありませんか。

あまりの不意打ちに、「グッ!」となってしまいひーくんの顔がぼやけて見えませ ん。

なんとか「サスケ・・」と言って握手をするとゆーくんは黙って頷きました。

その時にまた一粒の涙がこぼれて、僕の手に当たりました。

その瞬間にひーくんが2歳児でお母さんに手を引きずられながら入園してきたとき、

毎朝、鞄を投げ捨てお母さんを困らせていたとき、 そして立派にサスケを踊っていた姿が甦りました。


今では二人とも立派な1年生です。

ゆーくんに先日あったので「学校は楽しい?」と聞くと 「みんなが遊んでくれて楽しいよ」とニコニコしながら答えてくれました。

この前のフリーマーケットにも来てくれて、買ったおもちゃの説明をしてくれまし た。


ひーくんには5月の小学校の運動会で会いました。

(当市では、なぜか小学校は5月に運動会をやります)

特に1年生は4月に入学してすぐに運動会です。 競技などもまとまりがないのは当たり前です。

4クラスもありますから、まだ知らない子もいるようです。

そんな1年生の競技が終わり、退場門のところに帰ってきた時です。

一人の見知らぬ子が前の子にぶつかり転びました。

先生も全体のことに気を取られているので気づきません。

泣いているようだったのですが、周りの子も誰も気にとめていません。

鼻血が出ているように見えたので、近づいていこうとしたら、

一人の浅黒いでかい顔の目の小さな子がその子を覗き込んで 一言二言掛けると先生のところに連れていってあげていました。

そーです、ひーくんだったのです。

この話を4年間ひーくんの担任をした先生に話したら、

「保育園にいるときには、 自分がお友達にパンチを食らわして鼻血を出させていたのに、

そんな違う園から来た子を連れてってあげるなんて・・」 と目を真っ赤にして笑っていました。