【消防署だー!】 (2001/8)

先日、年長さんが消防署の見学に行ってきました。

消防署のお姉さんによる一通りの説明の後、映画を見て、

いよいよメインの体験ルームになりました。

これは火事を体験できる部屋です。

その部屋のテレビで火事の怖さをさんざん見せられていると

突然テレビがザーザーになり部屋の電気が消え、煙まで吹き出すのです。

その上、出口の通路にはたくさんのドアが繋がっていて迷路にまでなっているという

ナイスな部屋なのです。


この部屋に入る前には、毎年お姉さんがこっそり聞いてきます。

「今年は煙の量をどうしましょうか?」

これまた毎年、僕は胸を張って答えます。「思いっきり出してやってください」


これから起こる悲劇を夢にも思わない健気な子どもたちは

ワクワクドキドキしながら待っています。

お姉さんが説明をします。

「お・か・し・も、を忘れないでね。」

「お」は「押さない」

「か」は「駆けない」

「し」は「しゃべらない」

「も」は「戻らない」です。

「煙が出てきたら、ハンカチや服で口を押さえて低い姿勢で逃げてください」

追い打ちをかけるように僕が続けます。

「出口は迷路になっている、毎年何人かは脱出できないんだ」

だんだん子どもたちから笑顔が消えていきます。


いよいよ体験ルームです。

恐がりの子は先生のお膝で見ています。

突然、テレビがザーザーとなり恐がりの子を先頭にドアから脱出です。

「煙が出てきました、姿勢を低くして逃げてください、

お・か・し・も、ですよ」お姉さんの声だけが暗い部屋に響きます。

こんな時、子どもたちは大変なお利口さんに変身します。

おしゃべりもせずにドアに消えていきます。


しかし、なんという事でしょう!

せっかく通路が迷路になっているのに、

先生と恐がりの子を先頭に一直線に出口に向かっていくではありませんか!

「こっちのドアに行っても良いんだぞ」

「こっちが出口かもしれない」

僕の言葉に素直な子どもたちはどんどんバラバラになって奥へ奥へと入っていきます。


こうなるといつまでもお利口さんではいられません。

「あっちだ」

「こっちはダメだ」

「こわいよー」

子どもたちの声が飛び交い始めました。

「やはり体験ルームはこうでなくっちゃ」と一人暗闇でニヤニヤしていると

だんだんとパニックになってくる子も出始めました。


「そろそろかな」と思い声をかけました。

「みんな、オレについてこい!」

きっと子どもたちには天の声に聞こえたのでしょう。

迷える子羊のようについてきます。

その時です、出口の方から高須先生の声が聞こえました。

「みんな、こっちよ」

一斉に子どもたちは僕を置いてその声の方に駆けていきました。

「みんなが遅いから心配しちゃった、恐くなかった?」

明るく輝く出口が見えると子どもたちが高須先生に抱きしめられていました。

「全然恐くなかったよ」

「あ、隊長がベリだ」

さっきまでの事をすっかり忘れて笑っています。


その後は消防自動車や救急車に乗せてもらったり、

はしご車で記念写真を撮ったりして楽しい一日が過ぎました。


帰りのバスの中で興奮さめやらぬ子どもたちに訊いてみました。

「みんな、面白かったか?」

「面白かった」

「あの部屋は恐かっただろう?」

「全然恐くなかった」

「お・か・し・も、は覚えているか?」

「当たり前じゃん!」

得意げに子どもたちは答えていきます。

「お」は「怒らない」

「か」は「考えない、片づけない」

「し」は「しっこを漏らさない」

「も」は「お菓子を”も”っていかない」


もう一度迷路の部屋に入れなければいけない子どもたちでした。


明日は、お泊まり保育です。

これまた楽しいのです。

楽しみ、楽しみ。