いつも一緒に

父ちゃんは、昔からレースには家族全員で行っている。

だから、3人の子どもたちも母ちゃんのおなかの中でバイクの音を聞き、生後3ヶ月の頃からレース場で過ごしている。

みんながスタートに並んでいるときに、、ヘルメットとゴーグルをつけて次男のおむつを代えていたこともあった。

(母ちゃんは、泥だらけになって身動きがとれない長男を助けに行っていた)

エンデューロのときには、どこかに行ってしまった長男を捜しているうちにオープニングラップが始まってしまい、

後から「すみません、すみません」と謝りながら抜いていったこともあった。

そんな姿を見ながら、母ちゃんは聞いた。 「そんなにしてまで、一緒にいたいの?」

そうなのだ。父ちゃんは、いつも家族は一緒にいたいのだ。

子どもたちが自立していく年齢になるまでは一緒に遊びたいと願っているのだ。

そして、嬉しいことに、みんなバイクが好きになってくれた。 (なかば洗脳したようなものだが)


父ちゃんは、もともと流れ者の一匹狼だった。

豊橋港で牛や馬のように働いているときに、保育園の跡取り娘の母ちゃんに拾われて、こうして家庭を持つことが出来た。

ありがたいことだ。

でも、牛や馬だった頃も結構気に入っていた。汗を流す仕事が好きだったし、一人というのは、気楽でよかった。

いつも自分のペースでやれて楽だった。

今は、練習にいくのでさえ、4台のバイクを載せて、長女用のオマルを持って、準備だけで大変なのだ。

この前、一人で練習に言ったら、あまりに簡単にいけたのでびっくりしたぞ。

でも、なんか物足りなかった。大切なものを忘れてきてしまっているようだった。


子どもたちには、もう一生分の親孝行をしてもらったと思っている。

その上、一緒にオートバイに乗れるのだからこれ以上のしあわせはないと思っている。

しかし、中学生ぐらいになれば、だんだんと口も聞いてくれなくなるだろう。

やがて独り立ちをしなければならない、その準備だから仕方ないと思う。

いつまでも、父ちゃん母ちゃんでも困る。

しかし、バイクが好きなら、レースが好きなら、それだけでつながりが出来る。 それで十分だと思う。

後は、人様に迷惑かけないよに育ってくれて、父ちゃん母ちゃんより長生きして欲しいだけだ。


やがて、父ちゃんの屁は臭いからイヤだとか言うときが来るだろう。 (今でも言っているな、母ちゃんも含めて)

フ・フ・フ!しかし、父ちゃんを甘く見てはいけないよ。だてに屁が臭いわけではないのだよ。

子どもたちよ、よく覚えておけ。

バイクが好きになるほど、レースが好きになるほど、父ちゃんと一緒に練習をし、レースに出なくてはいけないのだ。

モトクロッサーは、車で運ばなければいけないのだよ。

この父ちゃんからは、18までは離れることが出来ないのだよ。

それまではレースをみんなで楽しみたいのだ。 それが父ちゃんのささやかな楽しみなのだ。