初めての全日本
今回は、父ちゃんの初めての全日本参戦記だ。全日本は、素晴らしいところだった。
しかし、レースに関しては、恐ろしいところだ、何たって全日本だぞ。
トランスポーターだって、バカでかいのがいるし、ナンバーだって熊本だったり、新潟だったりするのだ。
そんな遠くは行ったこともないぞ。そしてモトクロスに人生をかけているような若者がゴロゴロいるんだぞ。
だから、父ちゃんはエントリーから気合いが入っていた。エントリー用紙には、いつもよりきれいな字で書いた。
そして、1週間前の土曜日には、名阪スポーツランドに初めて練習しに行ったんだ。
嵐だった、なんて事だ!
やはり全日本は恐ろしいとこだ。
雨風が吹き荒れる中、震えながら練習してきた。全日本のために改修されたコースはすごかった。
長いテーブルトップも飛べなかった。2連ジャンプも飛べなかった。
パドック側の、登りの階段状2連も飛べなかった。
「晴れていれば飛べるさ」
あまりの寒さに、お昼前には帰ってきてしまった父ちゃんは、そう自分に言い聞かせた。
全日本IBクラスは、今年から選択制になった。125か250のどちらかにしか出られなくなったのだ。
単純に考えても速い子が半分になる。 これはチャンスだと思った。
よくやったぞ、MFJ!(注:2000年からは、元に戻る、なんてこった!)
ズバリ父ちゃんの今回の目標は、ラストチャンスに残ることである。
250は、ABCDと4クラスの予選があって、22台中7位までが決勝進出で、8位から14位までがラストチャンスに出られる。
何とか14位以内になりたいと考えたのだ。
しかし、1週間前の土曜日になっても参加受理賞が送られてこないではないか。
なんて事だ!恐るべし、全日本。
父ちゃんは、目標を変えた。今回は参加受理書が来るだけでいいや。
どのチームにも所属してない父ちゃんにとっては、全日本の事なんて知らないことだらけなのだ。
しかし、練習から帰ったら、ちゃんと参加受理書が届いているではないか。
良かった、第一目標は突破したぞ。
しかし、まだ全日本は父ちゃんの前に立ちはだかっていた。
車検だ!
中部選手権の車検でさえ、スポークが緩んでいるとか、ワイヤリングの仕方が悪いとか言われている父ちゃんなのだ。
聞いた話では、全日本の車検は、もっと細かいところまで見るということだった。
この一言は父ちゃんをビビらすのに十分だった。
一生懸命に国内競技規則を読んだ。 そしてびっくりした。
ナンバープレートの項では、数字の高さ・ストローク幅・数字の幅・数字間のスペースが細かく書いてあったのだ。
恐るべし、全日本!
146番の父ちゃんにとって、3桁のゼッケンを貼るのでさえ大変なのに、
数字間のスペースを15mmとるなんてどう考えても不可能だった。
なんて恐ろしいところだ、全日本は!
でも、父ちゃんには、ひとすじの光があった。モトクロスをやっているやつに、そんな細かなことまで気にするやつはいない。
はっきり言えば、いい加減なやつが多い。
人生をまじめに考えていたのでは、あの第1コーナーや2連ジャンプなんか出来ないのだ。
どこか抜けていて、神経が1,2本切れていて、人生も「出たとこ勝負!」
ってやつが多いのだ。(ちょっと言いすぎか)
まあ、38にもなって、始めて全日本に出ようという父ちゃんこそ、イカれているといわれても仕方がないが。
そして、金曜日の車検がやってきた。
受付では、隣であの成田亮が青森弁で訳の分からないことを言っている。
なんて恐ろしい所なんだ全日本は!
そして、何とか車検を通った父ちゃんは、第2目標までもクリアーしてしまった。すごいぞ。
コースの下見をしていると、カイル・ルイスも下見をしているではないか!
なんて恐ろしい所なんだ全日本は!
正面の2連ジャンプの飛び方を考えていた父ちゃんは、何とかラインを見つけた。
テーブルトップからアウトをめいっぱい回ってフル加速すれば、飛べるはずだ。
「ビビってはダメだ」父ちゃんは、何度何度も2連ジャンプを行ったり来たりしながらつぶやいた。
その時、見たこともない3人の若者がやってきた。
「真ん中からなら楽勝だな」
「バカ、インからでも飛べるぞ」 そう言うと、次の最終ジャンプに向かっていった。
何者なんだ、おまえたちは!
きっとA級の速い子たちだと思い直し、パドックに帰ってから、隣のB級の子に聞いてみた。
「2連?かんたんっすよ」
何者なんだ、おまえたちは!
しかし、父ちゃんはここまでにいくつもの高いハードルを越えてきたのだ。
何とか気を取り直し、いよいよコースに向かった。
スタートラインの抽選では6番を引き当てた。たいしたものだ。中央アウトよりのベストボジションを選んだ。
5秒前のボードが出たときは、嬉しかった。
自分が全日本のコースでRMに跨っている。それだけでしあわせだった。
エンジン音が一段と高まり、バーが降りた。
まずまずのスタートだった。
第1コーナーが迫ってきた。ぎりぎりまで我慢して、ブレーキをかけた。
だが、回りはまだアクセルを開け続けているではないか!
何者なんだ、おまえたちは!
しかし、アウト側を走っている父ちゃんは、この後の登りで有利なはずだ。
めいっぱいにアクセルを開けて登っていった。「よし、いける!」と思った瞬間、
アウト側からすごい勢いで2台が絡みながら父ちゃんの方に向かってきた。
「何者なんだー、おまえたちは!!!」
そして、父ちゃんの全日本は終わったのだった。