【全日本挑戦2戦目だー】

父ちゃんの2回目の全日本挑戦はSUGOだった。

わざわざ予選を落ちに愛知県から宮城県まで行くのだから、 大馬鹿者と言われてもしかたがない。

しかし、母ちゃんは優しかったぞ。

「いいわよ、着いていく」と言ってくれたのだ。

父ちゃんは良い嫁さんをもらったと改めて思った。

(本当は豊橋港で牛や馬のように働いていたところを拾われたのだが・・)


SUGOのコースは難しかった。 とても、父ちゃんの腕で歯が立つコースではなかった。

それでも、何とかがんばって公式練習では、それなりに走れるようになった。


そして、いよいよ予選が始まった。

くじ運だけは良い父ちゃんは、 真ん中よりややアウト寄りというグットポジションを選んだ。

スタートはなかなか良かった。 しかし、砂埃がひどく父ちゃんはちょっとだけアクセルを戻した。

ビックリこいたぞ。

その瞬間、凄い数のモトクロッサーが抜いていったのだ。

「おまえたちは何を考えているのだ!」

「前が見えないのでは危ないじゃないか、もし転倒者がいたらどうするのだ。」

心で叫んでいるうちに、父ちゃんはあっという間にベリ近くになってしまった。


その後も埃がひどく、だんだんと集団から離されてしまった。

そして、逆バンクを上り、次のコーナーを回ってみたら またまたびっくりこいたぞ。

誰かが、スコップで掘ったような穴ぼこが続いているではないか。

「トライアルじゃないのだぞ、危ないじゃないか!」

おかげで、ちょっと先の小さな2連もなめてしまった。

言っておくが、練習時には目をつぶっていても飛べたんだぞ。


全日本に出てひとつ分かったことがある。

IAのアクセルの開け方は半端じゃない。 地方選手権で見るIAとはまた違うのだ。

そんな奴らが、百何十台も走るのだ。

あっという間に信じられないくらいにコースは荒れてしまうのだ。

どこを走ったらいいか分からないスネークコーナーを回って、 何とか最終ジャンプまで来たときだった。

母ちゃんと子どもたちが手を振って応援しているではないか!

ありがたいものだ。

こんな予選でベリ争いをしている父ちゃんを応援してくれるのだ。

家族とはありがたいものだ。

父ちゃんは、力を振り絞って走った。

しかし、2週目からは、母ちゃんたちを見つけられなかった。

予選といったって、最終ジャンプのあたりは人だらけなのだ。


ふらふらになりながら予選を終えた父ちゃんは、 帰り道で母ちゃんたちを見つけた。

父ちゃんは、予選の間中応援してくれたであろう母ちゃんたちに お礼を言おうと思った。

「かあちゃーん」 父ちゃんが声をかけたときだった。

「もう、恥ずかしいんだから」 母ちゃんは振り向きながら言った。

「1周目は、ベリ争いをしている父ちゃんに応援したんだぞ」 長男が言った。

「みんなの応援が終わった頃、応援するのはメチャクチャ恥ずかしかったわ」 母ちゃんの言葉に、次男と長女が頷いていた。

どうやら、先頭集団、真ん中の集団とやってきて、 少ししてからのベリ集団に応援しているのは、母ちゃんたちだけだったようだ。

どお りですぐに見つけられたはずだ。

「2周目からは、恥ずかしくてやめたわ」

そうだったのか! 父ちゃんは走りながら一生懸命に探したんだぞ。

車のところに帰ってきたら、母ちゃんが言った。 「でも、良かったわね、こうやってSUGOまで来て」

「やはり家族はありがたい」と父ちゃんは思ったぞ。

「来る道も分かったし、コースも覚えたしね、 この子たちがもし、全日本を転戦しても困らないわね、

まあ父ちゃんは捨て石みたいなものね!!」 母ちゃんが続けていった。

う〜ん、やはり家族はありがたいものなのだ。