[こんな気持ちって?]('07/10)

’07年第1戦天竜川。
IB2でまさかの予選落ちをした父ちゃんは、力が有り余っていた。
午前中なんかのんびりしちゃっていつものセカセカした生活が嘘のようだった。
まして、この日の午前中は予選ばっかりで、IB2とIBオープン決勝も午後にあった。
やっと午後一のIB2クラス決勝が終わると、力がみなぎってくるのが分かった。

いよいよショウゴと本気で戦う時が来た。
今までだってNBやNAのショウゴと多度や美杉の草レースで走ったことはある。
しかし、やはりあれは草レース。
タイヤだってズルズルだし、何より楽しさ第一でやっている。
中部戦とは、本気度が違うのだ。
こういうと「え!中部戦も楽しさ第一ではなかったんですか?」とすぐに突っ込むヤツがいると思うが、
これはこれなりに少しは頑張っているのだ。残念ながらそれが走りに反映されないだけなのだよ。

確かに、NB時代のショウゴにすら、草レースではすでに負けている父ちゃんだ。
しかし、先ほどのIB2のレースを見れば、スタートでショウゴの前に出ることは可能と見た。
あいつは、まだガチガチの当たり合いのIBのスタートに慣れていない。
NBやNA時代のようにスタートで出られるような楽なレースはもう出来ないのだよ。

そして、いよいよIBオープンの決勝。
予選順にスタート位置を決めるので、予選7位のショウゴは、まあまあの位置だ。
予選13位の父ちゃんは、もうろくな所は残っていない。
でも、そこは、IBを9年もやっている父ちゃんだ。ちゃんと秘策があるのだよ。
実は、ここ天竜川は、第1コーナーがきつい。
イン側でガチガチ当たって転ぶヤツが出る確率が高い、転ばなくても詰まってしまう場合も多い。
そこをアウトからまくり上げるのだ。

一番アウトにスタート位置を取った父ちゃんは、7,8台向こうのショウゴを見た。
160cmちょっとしかない小さなショウゴが、いつもより小さく見えた。
やっぱり百戦錬磨のIBクラスのヤツは、見ただけで速そうだ。
そんな中でショウゴは、捨てられた子犬のようだった。

ショウゴよ、がんばれ〜〜〜〜!
スタートでショウゴの前に出て、2,3周は押さえて、それだけで死ぬほど威張ってやろうという考えはどっかに飛んでいた。
ショウゴは、そこそこのスタートが切れるだろうか?
また、隣のヤツにぶつけられてヘロヘロとよたっているんじゃないか?
第1コーナーで一人だけ転けてみんなに轢かれるんじゃないか?

スタートでは、いつも冷静沈着な父ちゃんがどうしたことか、ショウゴのことばかり気になってしまう。
いかん、いかん、このレースは、スタートだけはショウゴの前に出て父親の偉大さを見せつけるレースではなかったか。
24歳の初レースでのスタートより緊張している自分に驚いた。

そんなドキドキのままスタートバーが降りた。
あっという間にみんなに置いていかれる父ちゃん。
案の定、第1コーナーは、修羅場のようになっていた。
あちこちでぶつかり合いながらそれでも転倒者もなく第1コーナーををみんながクリアーしていく。

さすがはIBだ。
やはり、一番に第1コーナーを抜けていくのは、ヨッシーだった。
さすがに全日本でダブルチャンピョンを狙っているだけのことはある。
その後をショウゴのライバル達が駆け抜けていく。
そして、その後に続いている集団の中にショウゴの姿が見えた。IB2よりは、良いスタートが切れたようだった。
そんな修羅場のような第1コーナーでもショウゴを探し出す父ちゃんもさすがだぞ。
しかし、ただでさえ悪いスタートにこんな事をしているのでほとんどベリだった。

レースも中盤を過ぎると段々とトップグループの姿が見えてくる。
コースの一番奥の折り返し地点では、凄い勢いで父ちゃんをラップしようとするトップグループが近づいてくるのが分かる。
IB2の終盤、フロントブレーキのトラブルに見舞われて優勝を逃がしたヨッシーが凄まじい走りをしている。
ラップタイムだけならIAクラスの予選ですら簡単に突破するであろうその走りは、素晴らしいぞ。
その後ろ姿をリョウスケやテッペイが必死に追い掛けている。
お前らも速くなったな〜。

でも、中盤のグループにもショウゴの姿がない。
スタートは、10番手ぐらいのはずなのでこのぐらいにはいるはずだ。
もう自分のレースどころではなくなっていた。
いつもならこんな一人旅をしていれば人生を考えている頃だ。
しかし、今回は、ひたすらすれ違っていくライダーの姿を追っていた。
ひょっとして転んだのか?
しかし、今までの転倒者の中には、ショウゴの姿はなかったはずだ。
どうしたショウゴ?
どこにいるショウゴ?


もう終盤にさしかかった時、木々の間からやっとショウゴのヘルメットが見えた。
順位からすると14,5位か。
やはりIBオープンもダメだったか。
父ちゃんも転倒者を抜けばほとんどベリだ。
ショウゴよ、親子でもう一度やり直そう!

ヘロヘロになってパドックに帰れば、すでにショウゴがヘルメットを取っていた。
しかし、その目は負け犬ではなかった。
聞けば、そこそこのスタートを切れたのだが、その後ぶつけられてエンストしている間にだいぶ遅れてしまったようだった。
ほとんどベリになったが、そこからだいぶ頑張ったようだった。
と言うことは、父ちゃんのちょっと前にいたって事か!
「IBの速さとペースが分かった!」というショウゴは、それなりに手応えを掴んだと言っていた。

そうか、ショウゴよ、何かを掴むことが出来たか。
よし、この父ちゃんともう一度、一緒に頑張ろうぞ。
そして、一緒にリベンジだ!


父ちゃんの目がメラメラと燃えた。
それに気づいたショウゴは言った。

「アキ(父ちゃん)は、ケガせんようにさえ走ればいいからな」
行き場所をなくした父ちゃんの炎は、急速に萎えていくのであった・・・。