[愛だな〜]('08/1)


 子どもというものは不思議なもので、何かのきっかけで急に変わることがある。
今回は、ショウゴと同年代だがずいぶん前にIBに昇格した子の話だ。

もちろんジュニアの頃からショウゴよりもずっと速かったものだからズンズンと特別昇格してIBになった。
しかし、IBになってからは、そう目立たなくなってしまっていた。
同年代でも後から上がってきた子が先にIAにもなっていった。
いつしかIBがその子の定位置になっていた。

そして、’07シーズンが近づいてきた頃だ。
ショウゴもIBに上がり、珍しく燃えていたので寒風吹きすさぶ美杉に練習に来た。
美杉の冬は厳しい。
バイクなんぞを洗車していたら、濡れたフェンダーが端から凍っていくぐらいだ。
大げさではなく、ホントに洗ったバイクが氷で白くなっていく。
それほど美杉の冬は厳しいのだ。

でも、こんな時でもちゃんと練習に来ているヤツらもいる。
そこにジュニア以来、久々に同じクラスで走ることになったIBの子もいた。
(ショウゴを待っていてくれたのか?)
その子は、どちらかと言えば才能で走るタイプで、そんなにしゃかりきになって練習をしない。
黙々と練習をして速くなるというタイプではなかった。

しかし、この日はどうだ。
この寒風吹きすさぶ美杉のコースをクラス分けの時間をめいっぱい使って走り込んでいた。
IBやNA・NBだけでも十数台いたが、間違いなく一番練習していたと思う。
ショウゴやタカなんぞは、「手がかじかんでもうダメだ」「しびれてクラッチが握れない!」などと言って
すぐに帰ってきてしまう有様だった。

小さな子達が走るクラスの時間は、我が家は、車の中で家族で丸くなってバカな話で盛り上がっていた。
その時、ふと外を見れば、その子が寒風吹きすさぶ外で誰かとずっと話し込んでいた。
次のクラス分けの時間でもそうだった。
馬鹿話で盛り上がる父ちゃん一家。
その車の近くで半分凍っている川を眺めながら楽しそうに話をする二人。

もうお気づきの方もいるだろう。
その子の相手は、可愛い女の子だった。
そう言えば、この女の子は、その子のクラスでは、必ずじっとコースを見ていた。

「愛だな〜」
愛こそが若者を燃え上がらせる。(父ちゃんにも覚えがあるぞ!)
この寒風吹きすさぶ美杉のコースにもホットに燃えている一角があったのだった。
愛こそがついにその子のモトクロス魂に火を付けたのだった。
「今シーズンは、絶対に速くなるな!」と父ちゃんは、予感した。

案の定、その子の’07シーズンは、それまでのIB時代とは、成績も内容も違っていた。
やっぱり若者には、“愛”が必要だと感じた一日だったのだ。
しかし、ショウゴにも彼女がいるが、モトクロスにも勉強にも私生活にも役立っていない。
どうしてだろう?

PS

しかし、この愛というものはやっかいなもので、時には、色気づいたあげくにモトクロスよりも愛に走ってしまい
止めてしまうヤツもいるくらいだ。
せっかく速くなってきた時に女に走ってしまい、IAを逃したヤツを何人も知っている。
あのナリタくんだって高校生の時に色気づいてしまいヤマハを首になったくらいだしな。(笑)