【RM→CR】

父ちゃんは、遙か遠い昔にちょっとだけモトクロスをやっていたときも RMに乗っていた。

結婚して最初にエンデューロをやったときもRMXだった。

一時期、KX80やKDX220Rに浮気したこともあるが、 やはりRMXに戻ってきた。

もちろんモトクロスに帰ってきたときもRMだった。

父ちゃんはスズキが好きなのだ。 身も心もスズキに捧げていたのだった。

だから、父ちゃんにとっては、レース生活最後のバイクもRMだと思っていた。

長年連れ添った女房みたいなものなのだ。


ある時、そんなRMのクランクケースが割れてしまった。

モトクロッサーに乗っている人なら分かると思うが、 こんな事はどんなメーカーにも起こることだ。

父ちゃんは、直すか新しく買い換えるか、 少しくたびれかけているRMを見ながら考えた。

NB,NAと一緒に戦ってきたかわいいやつなのだ。 いろいろな苦労も喜びも共に過ごしてきたやつなのだ。

そんな簡単に手放せるはずはないではないか。 ひとりシートをナデナデしながら思い出に浸っていた。


その時、きらっと光るアルミが見えたのだ。 そうなのだ、CRのアルミフレームが頭の中を通り過ぎていったのだ。

RMが、良くできた地味な女房ならば、 CRは華やかさを持っている水商売系の女か! (ホンダさんごめんなさい)

ずっと、スズキと共に生きてきた父ちゃんだったが (本当は少し浮気をしたが)

この小悪魔のようなCRに心を奪われてしまったのだ。

ちょうど2000年モデルが出たときだった。 何たってミレニアムだぞ。

「晩年はCRと共に過ごそう。」 父ちゃんは、RMと別れる決心をした。 (スズキさんごめんなさい)


そして、プロジェクト・サイエンスさんにCRを頼んでしまった。

届いたCRは、派手な赤とアルミフレームがキラキラと自己主張していた。

嬉しそうにシートをなでる父ちゃんを見て、母ちゃんは言った。

「あんたは、そのうちに女の人を連れてきて、 若くて可愛いから、こっちにするって言いそうだね。」

しかし、誰がなんと言おうと、 このCRと共に生きていこうと決めてしまったのだからしかたがない。 もう後戻りは出来ないのだ。


そして、優しく「慣らし」をしてみた。

「あれ、サスが堅いんだな、なんかRMとは感じが違うぞ」

ふわふわサスのRMX、 成立フォークのRMと長年乗ってきた父ちゃんにとっては、 CRは外人娘のようだった。

(注:実際に外人娘とつき合ったことはありません)

CR250は、おそらく75kgぐらいの人が乗るように設計されているのだろう。

60kgの父ちゃんでは、アジャスターをいろいろ動かしてもしっくりこなかった。

いきなり、良くできた女房になってくれといっても無理だろうが、 これではアフリカ娘のようだ。

(注:アフリカ娘とつき合ったことはありません)

せめて、アメリカ娘ぐらいにはなって欲しいぜ。

(注:アメリカ娘ともつき合ったことはありません)


結局、プロジェクト・サイエンスの中村さんに頼んで、 サスをソフトにいじってもらうことにした。

そして、帰ってきたCRは、可愛い娘に変身していた。

父ちゃんは、老後はこいつと生きていく決心をした。

「もう手放さないぜ!」

そんな父ちゃんとCRを、 太い排気音で追い抜いていく青と白のバイクがあった。

YZ426Fだ!

「速そうだな、どんな乗り心地なんだろ?」

ちょっと考えてしまう父ちゃんなのだった。