【小方君よー(3)】
小方君よー。
久々に全日本最終戦の桶川で会ったな。 良きライバルに会えて嬉しかったぞ。
(注:この場合のライバルはラップされないの意)
相変わらずの好青年であった。未来のモトクロス界も明るいと思ったぞ。
そんな小方君は、80ccに出ていた。
土曜日、父ちゃんは、土手の上から80ccのレースを眺めていたんだ。
案の定、スタートで小方君は上位に出た。
これで前に出てしまえば、もうこのレースも小方君のもんだなと思った瞬間、
小方君のフロントが前者に当たり、あっという間に砂煙が舞い上がった。
薄れゆく砂煙の中で、何台かのバイクが横たわっていた。
たいていの子たちはすぐに起きあがり、エンジンをかけて走っていった。
しかし、1台だけなかなかエンジンをかけられない赤いバイクがあった。
ハンドルも三輪車のようになっていた。
それは、ゼッケン1番の小方君だった。
あれだけの転倒、そして後ろのバイクにも何台か突っ込まれたのだから、
小方君自身も怪我をしている可能性だってある。
まして、バイクは三輪車のようなハンドルだ、リタイヤするだろうと思った。
そんな中、小方君は何回かキックをし、そして走り出していった。
もちろん、スピードはいつもの時とは比べものにならないくらい遅かった。
何とか最終ジャンプまで走ってきたときには、きっと止めるだろうと思った。
しかし、小方君は走り去っていった。
父ちゃんはその姿を見て思ったぞ。
「いつもの速い小方君もかっこいいが、 傷だらけになりながらも三輪車のようなバイクで走り通している小方君も
かっこいいではないか!」
「小方君、がんばれー」父ちゃんは、土手の上から叫んでいた。
日曜日に偶然、小方君に会った。
手首には痛々しい包帯がしてあった。聞けば首もだいぶ痛いらしかった。
「リタイヤは考えなかったの?」
父ちゃんの問いに、 「どうしても最後まで走りたかったんです」とすがすがしい笑顔で答えた。
たいしたものだと思った。
父ちゃんやショウゴ(長男)なら、迷わずリタイヤしただろう。
ましてや、80ccチャンピョンなのだから、
無様な姿は見せたくないと考えても不思議ではない。
後から人づてに聞いた話では、 あのレースの時、
観客席から「あの子、レースを投げているね」
と言われたのがとても悔しかったそうだな。
もう一度言わしてもらうぞ。
「速い小方君もかっこいいけど、あの時の小方君もかっこよかったぞ!!」