[人生まで・・]('09/1)

 ここ数年の父ちゃんの不幸はどうしたことであろうか?
PTA会長になるわ、髄膜炎になって死にそうになるわ、タカに突っ込んでひどい肉離れになるわ、
鎖骨を折って1年間も引っ付かないわ、眼瞼下垂症で目に注射を打たれるわ、保育協会会長になってしまうわ・・。
そんな数々の不幸にもめげず、けなげに明るく楽しく生きている父ちゃん。
そんな父ちゃんに、またまた不幸が降ってきたのだ〜。

忘れもしない11月下旬。
父ちゃんは、近づいてきた作品展のために年長さんが作る木工作品の下準備を早朝からやっていた。
例年ならもっと前に木片をいろいろな形に切って準備しておくのだが、
保育園以外の仕事が多くなってしまい、てんてこ舞いの毎日を送っているので、すべてがギリギリだ。
この日も年長さんの作品づくりの日なのに木の準備も出来ていなかった。

電ノコで次から次へと板を三角や四角に切っていく。
10年ほど前までは、ノコギリでひとつひとつ切っていたのだが、年を取ると楽なことを覚える。
いつもなら万が一のことを考えて革手袋でやっていたのだが、この日に限って見つからない。
時間もないので「どうせ薄い板ばかりだ!」と意に介さず、一人駐車場で板を電ノコで切っていた。

子どもたちが釘で打って作るので柔らかい木を探しながら切っていく。
節が多い木は、出来るだけ避けておく。
ウィ〜ン!ウィ〜ン!
と板が次々に切れていくのは気持ちが良い。
寒い朝だったが、汗もにじんできた。
ウィ〜ン!ウィ〜ン!これなら間に合うぞ!
ウィ〜ン!ウィ〜ン!俺って何やっても器用!

と思ったその時、電ノコが何かに当たって飛び跳ねた。
次の瞬間、左手の指先と右手の中指に衝撃が走った。
あっ!と思って電ノコを離せば、ノコギリが回転しながら右膝の上に落ちていく。
ズボンをスパッと切ったあと、コンクリの地面に落ちて火花が散った。

父ちゃんには、何が起こったのかすぐに分かった。長年レースをやってきただけのことはある。
左手を見れば中指と薬指の指先から第一関節当たりまでパックリと開いて血がドクドクと流れ出ていた。
ちょうど爪の下をあじの開きにしたようだった。
右手を見れば、中指の甲側がこれまたパックリと開いて皮がビロビロしていた。
右膝も切れていたが、ズボンでよく見えないし、動くから心配はないだろう。

幸い、この惨状を目撃した人もいない。
父ちゃんは、血だらけの手を押さえながら水道まで走った。
傷口を洗うとやはりとてつもなく深い。
恐る恐る左指をひとつずつ動かしてみる。動くぞ!
右の中指も動かしてみる。動くぞ!これなら筋も骨も大丈夫だ。やった、俺には運がある!

2階の職員室に行って「ゆき先生、タオルを持ってきて」と声を掛ければ、「アワワワワワワ・・」とくるくる回るばかり。
タオルでくるんで大量の保冷剤で冷やせば、血もだいぶ止まってきた。
(保育園は、けがをした時の準備は整っている!ゆき先生、ありがとう!!)
出勤してきたよね先生もこの惨状を見て「アワワワワワワ・・」となったが、すぐに車で市民病院に連れてってくれるという。
落ち着きを取り戻したゆき先生は、すでに市民病院と電話で話しをしていた。

年長組のまさと先生がやってきて膝の傷口を見て「アワワワワワワ・・、園長先生、骨が見えています」。
手にばかりに気を取られていたが、やはり膝も深かったか!
でも、ちゃんと動くしそんなに痛みもない。

市民病院に着いて、受付に行けば「あと30分もすれば、先生も来ますから救急に行くより形成外科で待っていてください」という。
冷やしているせいか血もだいぶ止まってきたし、痛みもそんなにない。どちらかというと痺れている感じだった。
椅子に座って待っていると母ちゃんが走ってきた。
「母ちゃん、病院は走ってはダメだぞ」と言うと「あんたはもう何をやっとるだん!」と怒る。
「ちょっと失敗をしてしまった、しかし、指は動くし、俺には運がある!
「もお、あんたは、いつもいい加減に生きているから、こんな事になるのよ!

うちの母ちゃんは、保育園では立派な主任先生で「みなこ先生のおかげで保育園が持っている!」と言われている。
先生達や保護者にする話しも感心するほど上手い。
つい先日も先生達に「子どもたちを叱る時には、絶対に人格や性格を否定するような言葉は使ってはダメ、
悪かった行為だけを叱ってください。そして、その後もフォローも忘れずにね」と言っていた。

そんなりっぱなみなこ先生だが、父ちゃんには、「いい加減に生きているからこんな事になるのよ!」
人格や性格を否定するどころか、人生まで否定しているもんな〜。

PS1

診察室に入って先生を見れば、またあの若い女医さんだった。(フランケンだ〜!http://www.tcp-ip.or.jp/~meisyou/to/tou120.htm)
相変わらず目もでかいし、化粧もギャル風だ。
「あ!」と言う女医さんと「その節はどうも〜」と愛想笑いの父ちゃんだった。

PS2

この事件の二日後は、保育園の親子遠足だった。
保護者の方を前に、包帯だらけの両手を胸の前でクロスにして「手を切ってしまったウィッシュ!」とDAIGOの真似をして笑いを取る父ちゃん。
結構、ウケたので気をよくしてしまったぞ。
「もうちょっとノコギリの角度が違ったら指が飛んでいましたよ、私には、運があるんですよ〜」といい気になっていると
先生達の冷たい視線が・・。

その後も年長さんや学童(うちは、学童もやっているのだ)の悪ガキどもを集めては、
「この傷口を触ってみろ、スゴイだろ〜」とやっていた。
「この膝だけでも17針も縫ってあるんだぞ、スゴイだろ〜〜」と言いながら触らせて
「う〜おしっこチビリそう〜〜」とか「チンチンがムズムズする〜〜〜」と子どもたちをビビらせている園長なのだった。