[3位になりそこねた男!]('09/4)
 

 今回は、21位?の第1戦の後、第2戦のイナベの話しだ。

この日は、明け方まで降った雨でコースはグチャグチャだった。
レインタイヤがない父ちゃん達は、ミディアムタイヤ(それも中古)だ。
案の定、朝の練習では、前に進むのがやっとという有様だった。
だが、天気が良いのでIB2のレースの頃には、ライン上が段々と乾いてきている状態だった。
しめしめ・・みんなレインを履いているが、この状態ならミディアムがベストでしょう・・。
「やはり日頃の行いが良いと神様も見ているんだな〜」と一人ほくそ笑む父ちゃん。

前回の疑惑の21位を挽回するためにも、今回はなんとしても20位以内に入って結果を残したい。
ポイントを取らないとMFJ中部のポイント表に名前さえ載らない悲しさだ。
今回もIB2クラスだけのエントリーなので、父ちゃんの気合いは最高潮に達していた。

コースをじっと見ているショウゴに忠告した。
「いいか、こういう日は、速いヤツらもでも絶対に転ぶ、ラインを外さずに、辛抱我慢で安全運転だ!
頷くショウゴ。
我ながら的確な指示だった。

このイナベのスタートはコンクリートスタートだ。
そのあげくに第1コーナーまでは、グチャグチャドロドロだ。
こんな時は、アクセルを開けるだけでは前に進まない。
ショウゴには、無理だろうが父ちゃんにならこの微妙なアクセル操作が出来る。

案の定、速いヤツらは、イン側をとっていく。(ショウゴもイン側をとった、バカモノが・・)
前に出られればいいが、少しでも出遅れたら泥の餌食だぞ。
ゴーグルに泥が付いて前が見えなくなったらどうしようもないぞ。
お前ら、まだまだ青いな〜、いいのか〜、本当にいいのか〜。

父ちゃんは、スタートで前に出る自信はないので、みんなと離れたアウト側にした。
そして,スタート。
なかなか良いスタートが切れたぞ。イン側のライダー達がすごい勢いで第1コーナーになだれ込んでいく。
泥が空中に吹き飛んで、後ろのライダーが泥人形のようになっていくのが見えるぞ。
イン側のグチャグチャドロドロの中をガチガチと当たりあっている。ほ〜ら、もう何台かが絡んでこけている。
若いって素晴らしいな〜、父ちゃんには、よう出来んわい、わっはっは〜。

そんな競り合いを横目にアウトを悠々とまわる父ちゃん。
第1コーナーを抜けて第2コーナーに掛かる頃には、なんと3位だ!
すごいじゃん!ますます気持ちよくなる父ちゃん。

しかし、ここでいい気になってはダメだ。
すぐに速いライダーが抜いていくだろう。こんな日は冷静にラップを重ねることが大切だ。
ドロドロのコースに出来たラインを慎重にトレースする父ちゃん。
5台ほどのライダーが無理に抜いていくが気にしない気にしない。

ほ〜ら、さっき抜いていったライダーが泥の中でうごめいている。おつかれ〜

10分ほど経ったであろうか?
1位は、ゼッケン11のリョウスケだな。その後を13番のリュウジが必死に食らいつく。3位は、イナベの守護神、加藤くんか?
このイナベのコースは、折り返しが多いのでレースの流れもよく分かる。

父ちゃんの20m程前を4,5位が走っている。離れると思っていたが、むしろ近づいている。
ひょっとして今日の父ちゃんは速い?
マイペースで走っていると、さっきからずっと後ろに着いていた74番がインを差してきた。
ここでムキになって押さえ込んで転倒でもしたら目も当てられない。
まぁ、いいよ。6位のポジションは君にあげるよ。
7位でも上等ではないか。今日こそは大きな花火が打ち上がる時だ!

夕食時に母ちゃんになんと報告しようかな〜。母ちゃんの喜ぶ顔が浮かぶ。
出遅れたショウゴは遙か彼方を走っているようだな。
あ〜あ、ショウゴが悔しがる顔も目に浮かぶぞ。
フフフフッフッフ〜、走りながらも思わず笑みがこぼれてしまう。

安全運転、安全運転。辛抱我慢・辛抱我慢。
名阪の経験(132:お〜神様!)が又ひとつ父ちゃんを成長させた。
安全運転、安全運転。辛抱我慢・辛抱我慢。

しかし、さっき抜いていった74番が、前でフラフラしている。
早く行けよ!と思っていたが、そうこうしているうちに4,5位のライダーも近づいてくる。
ここでちょっと欲が出た。あいつらを抜いたら4位?
あと10分くらいあるし、抜いちゃおうかな〜と考えた。
74番は、意外と簡単に抜けた。

その時に、後ろから速いライダーが来た。ヒャ〜ヒャ〜とコーナーごとに叫んでいる。
「うるさいやつだな〜、速く抜いていけよ!」と思うが、ベストラインを通っている父ちゃんをなかなか抜けない。
父ちゃんだって、このラインを外せば泥の海だ。
ラップされる時ならいざ知らず、簡単に譲るわけにはいかないのだよ。

ヒャ〜ヒャ〜と相変わらずうるさい声が聞こえる。
「うるせ〜な〜!」ちょっとイライラしてきたぞ。
フープスを見ればライン上が乾いてきている。先ほどからこのフープスは気持ちよく走れていた。
ちょっと父ちゃんの速さを見せてやるか。父ちゃんは、アクセルを開けた。みんながなめているフープスが、2・3・3と気持ちよくいけた。
ほ〜ら、離れた。
ヒャ〜ヒャ〜君よ、父ちゃんを抜くのはあきらめなさい。
君も7位でいいじゃないか。無理すると泥の海でゾンビのようになるぞ。

少し走っているとまたまたヒャ〜ヒャ〜と近づいてきた。
「うるせ〜ハエだな〜!」
インから差してきたら、かぶせてゾンビにしてやるぜ。

父ちゃんはすっかり戦闘モードになっていた。
こんなコンディションでも面白いようにアクセルが開けられる。
怒りが父ちゃんをスーパーサイヤ人に変身させていた。

そのスーパーサイヤ人の前にプープスが見えた。
もう父ちゃんを止められるものは誰もいなかった。

アクセル全開でプープスに突っ込む父ちゃん。
ヒャッホ〜!!!!気持ちいい〜〜〜。風になったようだった!
プープスをすごい勢いでクリアーしたら目の前に泥の海が迫ってきた。
あれ?あれれれれれれ?????

ロックしているフロントタイヤがスローモーションで泥の中に埋まっていく。
そのまま泥の海に突っ込む父ちゃん。
スーパーサイヤ人がすっかり泥まみれのゾンビになってしまった。

何とかバイクを立てたが、泥で滑ってキックが上手くできない。
次々とライダーが抜いていく。
15台ほど後にショウゴが慎重にプープスをクリアーしていく。

結局、エンジンが掛からずレース終了。
マーシャルライダーの谷くんが「おじさんも大変ですね〜」といった感じでエンジンを掛けてくれた。ありがとう〜。

すっかり気落ちしてしまったスーパーサイヤ人改めゾンビじぃさんは、トボトボとパドックに帰っていった。

レース結果を見れば、1位がリョウスケで2位がリュウジ。3位がなんと74番だった!
聞けば、父ちゃんがリタイヤした後にも上位が何台も転倒したようだった。
あ〜もったいない!
あのまま走っていれば3位だったじゃん!!

あんなに後ろを走っていたショウゴは、11位。
ヒョロヒョロと安全運転で走りやがって、お前は本当に19才の若者か!
この47才のオヤジがスーパーサイヤ人になったというのに・・。
あ〜、情けない。今の若いもんは、冒険というものをしない。


その日の夕食。
3位になりそこねた話しを何回もする父ちゃん。
そのたびに「スタートで出ただけじゃんか!」
「俺だってフープス3つ飛べたけど無理せんかっただけだ」
「今日は、転ばないことが大切だったんだ!」といちいちショウゴが反論してくる。

レースのように熱くなる二人。
タカとナホは、テレビを見て笑っている。
母ちゃんは、得意の聞こえないフリだ。

こうして今日も父ちゃん一家の夕食は、和気あいあいと進んでいくのだった。
そうそう、これからコースであったら「3位になりそこねた男!」と呼んでいいからな。