[祝:完走!]('10/5.28)
シーズンオフの11月8日。
何故か、父ちゃんと母ちゃんは、「みなとシティマラソン」の会場にたたずんでいた。
話は、一月前にさかのぼる。
児童クラブ(学童)の石川先生が、フルマラソンに挑戦したときのことを話していて、
「今度、みなとシティマラソンというのがあるんで一緒に出ませんか?」と言う。
「俺には、よう出来んわ」という父ちゃんに「私はヒザが壊れちゃうわ」という母ちゃん(主任先生)。
「これはフルマラソンじゃなくて10kmと5kmなんですよ、ちょっと練習すればいけますよ!」と石川先生。
しかし、あまり乗り気でない二人・・。
石川先生が追い打ちを掛ける。
「園長先生は、エンデューロを一人で3時間走ってブイブイ言わせていたんでしょ?みなこ先生もダイエットになりますよ!」
この言葉に反応する二人。
ということで「みなとシティマラソン」に勢いでエントリーしてしまったのだ。
(父ちゃんは10kmクラスで母ちゃんは5kmクラス)
根が真面目な母ちゃんは、次の日から朝6時前には起きて走り出した。
その横で口を開けて寝ている父ちゃん。
そして、口を開けているうちに二週間も経ってしまったぞ。
「父ちゃん、少しは練習したら?10kmをなめていたら松村邦洋みたいに心臓止まるわよ!」と母ちゃんが脅す。
父ちゃんは、自慢じゃないが生まれつき足が速い。
消防団大運動会では、伝説の4人抜きをやったぐらいだ。(もう15年前の話だが・・)
ご飯を食べるのもウンコをするのもバイクだって何をやるにしても速いのが父ちゃんなのだ。
(バイクは遅いぞ←ショウゴとタカの声)
(あっちも早かったわ←母ちゃんの声)
49歳になった今だって二週間に一度くらいは、ちょっこっとバイクの練習をしている現役IBライダーなんだ。
父ちゃんをバカにしてはいかん!
しかし、母ちゃんが朝早くからうるさいので渋々一緒にランニングに出かけた。
「この二週間で母ちゃんがどれだけ走れるようになったのか見てやろう!」と母ちゃんを先に行かせた。
後ろで走っていると大きなおしりを揺らしながらそれなりのペースで走っている。
「母ちゃん、やるじゃないか!」と笑顔で声を掛ける。
「川の向こうまで行って帰ってくるとちょうど4km、まだ半分も来てないけどね」と母ちゃんも笑顔で返す。
お〜、なんか良い感じだぞ。仲良し夫婦って感じだぞ〜〜。
こんな仲良し夫婦に差が開いてきた。
「母ちゃん、疲れないか?」とヒィ〜フゥ〜言いながら聞く父ちゃん。
「あたし、先に行くから」とズイズイと離れていく母ちゃん。
母ちゃん、待ってくれ〜〜〜、仲良し夫婦はどこにいったんだ〜!!!
ヒィヒィ言いながらなんとか家に帰ってくると母ちゃんはもうストレッチをやっていた。
「父ちゃん、4kmで30分以上かかってんだから、10kmで1時間切るのは無理ね!」
「どうしたんだ?俺の黄金の足は、どこにいったんだ〜〜」と途方に暮れる父ちゃん。
と言うことでやっと父ちゃんも二週間前になって真面目に練習を始めた!つもりだった。
しかし、自慢じゃないが、父ちゃんは、毎日毎日コツコツやることが出来ない。
父ちゃんに地道な努力なんて言葉はないのだ!自慢じゃないが、一か八かの人生である。
そして、次の日も口を開けて寝ていた。
すでにジョギングウェアに着替えてベッドの横で床をギシギシいわせながらとストレッチを終えた母ちゃんは、
「父ちゃん、1時間切ったらご褒美をあげるわ」と大きなおっぱいを顔に押しつける。
ワォ〜〜!と飛び起きる父ちゃん。
結局、この日から二日も続けて走ってしまったぞ。
でも、母ちゃんのお色気作戦も三日目には効かず、またまた口を開けて寝てしまった。
一週間前になって「園長先生、走っていますか?」と石川先生が声を掛けてきた。
「いや〜、まだ二回4kmを走っただけだ」と胸を張って答える父ちゃん。
「今度出る大会って、結構大きい大会らしいですよ、新聞社も後援に付いているし・・」
そう言えば、卒園児や保護者の中にも出場するって人がいたぞ。
急に母ちゃんのご褒美が蘇る。
「石川先生、10kmを1時間ペースってどのくらい?」
「こんなもんですよ」と言って走って見せてくれる。
およ?いつも走っているペースよりも結構速い。
こりゃいかん!練習せねば・・。
ということで次の日から真面目に母ちゃんと走ったのだが、「疲れを残してはいかん!」と三日前からはお休み。
ということで本番までに走ったのは、4kmを5回だけ。
当日、会場に着くとすでに多くの人でごった返していた。
地面にシートを引いてストレッチしている人や円陣を組んでいる高校陸上部。
一般人もやけにちゃんとした格好をしている。
やべ〜、みんなマジじゃん!
主催者の挨拶を聞けば、総エントリー数は2,100人を超えているとか。
受付では、RCチップを渡されシューズの紐に付けてくれと言う。
お〜、全日本のトランスポンダーみたいなものだな。こういうのなら慣れているぜ、なにせ現役IBライダーだからな!
右足でも左足でも良いのか?全日本はうるさいぞ。
まずは、10時30分に「男子高校生以上39歳まで」270人がスタート。
モトクロスのスタートも迫力があるが、こちらもなかなか凄いぞ。
石川先生も中盤のちょっと上ぐらいを走っている。がんばれ〜石川先生!
5分後には、残りすべての10kmクラス416人が一斉にスタートする。
前の方は、高校陸上部や実業団のいかにも速い!って感じのヤツらが占拠している。
父ちゃんのようなジャージクラスは、気迫に負けて後ろに集まっている。
これではいかん!
仮にも現役IBライダーで、全日本で戦っている父ちゃんが、こんな地方選でビビッてどうする!
父ちゃんは、ジリジリと前に出ていった。
それにしても凄い人混みだ。とてもこれ以上は前にも行けない。
しかし、その昔エンデューロでブイブイ言わせた(と本人は思い込んでいる)父ちゃんだ。
エンデューロの一周目だって結構大変だ。
ましてやモトクロスの第1コーナーの修羅場に比べたらなんてことはない。
この経験だけは豊富な父ちゃんをなめたらいかんぜよ!
「あと1分です」と言う声が拡声器から聞こえる。
どこか前に行けるところはないか?とみんなが神経を集中する中、ひとりキョロキョロする父ちゃん。
「あと30秒です」
人混みの中に少し空間がある!
スタートラインで大会役員がテープを持って誘導してるところが狙い目だ。
急いで人混みからいったん抜けてそこに潜り込む。
お〜、コース脇だが先頭集団は目の前だ。
「15秒前です」
「先輩、がんばっていきまっしょおぉぉぉぉ!」という黄色い声と共に女子高生が先輩のコートを持って走って出ていく。
お〜、こんなギリギリまで体を冷やさないようにしていたのか!本気じゃん!!
モトクロスのスタートなら「5秒前」のボードと共にエンジン音が上がる。
あの瞬間が気持ちいいんだよな〜!
みんながジリジリと前のめりになって人混みが凝縮されるのが分かる。
「バン!」という音と共にスタート。
“ロケットスタートの中島”と恐れられた?父ちゃんだ。スタートなら負けないぜ、なにせIB現役ライダーだからな。
この直線だけでもがんばらないと!
ウリャリャリャ〜と突っ込む父ちゃん。母ちゃん見てるか〜〜!
人の流れとは違う方向から入っていくので弾き飛ばされる父ちゃん。
ウヒョ〜ヒョ〜〜とよろけながらも何とか持ちこたえる。
モトクロスの当たり合いに比べれば屁でもないぜ!
しかし、凄いペースだ!トップ集団ってホントにこんなペースで10km走るの?
直線部分だけでもがんばろうと思ったのに、どんどん抜かれる父ちゃん。
全日本の予選で間違ってスタートで飛び出したときと同じじゃん!
(あれって怖いんだよな〜)
一番端っこを走っているので観客が手を振るのがよく見える。
母ちゃんと事務所組のゆき先生、マリちゃんが手を振っているのも見えたぞ。
ウリャリャリャ〜とがんばっているうちに外の道路に出た。
こんなペースでは、無理なのは分かっている。
ここでペースを乱されていてはいかん。
レース経験だけは豊富な父ちゃんは、観客もいなくなったので、いつものペースに戻した。
まだ2kmも走っていないのに凄い数の人に抜かれる。
でも後ろを振り返れば、前方よりよほど多い。この時点なら200位より上だろう。
このクラスは、いろいろなクラスが入り交じって走っているので、抜いていく人も実に多彩だ。
女子高生から絶対に60歳は超えているよな〜というようなジジ・ババまでいる。
4kmぐらいを超えてくるとだいぶ集団も落ち着いてきた。
その時、60どころか70歳近くなのではないか?というじじさまが抜いていく。
「あの人は、名物じいさんですよ、いつも50分くらいで走っていますよ」と隣で走っている人が解説してくれる。
この頃になると同じメンバーで走っているので、なんか和気あいあいとした雰囲気も漂ってくる。
今度は、ばあさまが抜いていく。
「あの人も50分ペースです」
伝説の4人抜きの父ちゃんが、こんなジジ・ババにスポーツで負けることなんか想定していなかったぞ。
なんとかこのじいさまとばあさまに付いていこうとするのだが、少しずつ離されてしまう。
こんな事では母ちゃんのご褒美の1時間だって切れそうにない。
そんな時、若いねぇちゃんが髪をなびかせながら横に並んできた。
このおねぇちゃんには無様な姿を見せるわけにはいかん。
ちょっと抜き返す父ちゃん。
すかさず横に並ぶおねえちゃん。
さっそく父ちゃんは、このおねえちゃんを「はるなちゃん1号」と命名したぞ。
よし、これからは、はるなちゃん1号と一緒にがんばろ〜。
しかし、このはるなちゃん1号が思ったより速い!
お〜、全日本のIBクラスの予選で一緒に走ったときのはるなちゃんと一緒だぞ。
ハ〜ハ〜と息を切らせながらストーカーのように一生懸命に付いていった頃を思い出した。
あの頃のはるなちゃんは、IBクラスに初めて挑戦していた。
その後、メキメキと速くなっていき今では、レディースの全日本チャンピョンだ!
父ちゃんと言えば、その後メキメキと遅くなっていき、今では「走る障害物」だ!
この差は何なんだ〜。
この黄金の足に鞭を打ち、必死に付いていこうとするが、どんどん離される。
「はるなちゃん1号〜、待ってくれ〜」
バイクでもマラソンでもダメなのか?ふと気弱になる父ちゃん。
その時、父ちゃんに奇跡が起こった。
急に足が軽くなった。
お〜神様がこの黄金の足に降りてきたぞ〜!
これがランナーズハイ!ってやつか?
お〜脳内麻薬が出まくるぜ〜、はるなちゃん1号、待ってくれ〜。
急にペースが上がる父ちゃん。
ごぼう抜きだぜ〜。
しかし、5分もすると今度は急に疲れてきて足が重くなる。
みんなにごぼう抜きにされる父ちゃん。
淡々とペースを守って走っている集団で一人ペースを乱しまくる。
そうこうしているうちにはるなちゃん1号も見えなくなってしまった。急に力が抜ける。
残り2kmという標識が見える。
その時に長い髪を束ねたおねえちゃんの後ろ姿が見えた。
お〜神様は、残り2kmではるなちゃん2号を用意してくれた!
しかも今度のはるなちゃん2号は、明らかに疲れてきている。急に力が入る父ちゃん。
残り1kmでは、すぐ後ろに着いたぞ。
母ちゃんの大きなおしりも良いが、引き締まったはるなちゃん2号のおしりもなかなか良いぞ。
目の前のコーナーを左に曲がればゴールの会場が見える。
はるなちゃん2号も最後の力を振り絞ってペースを上げた。
ハ〜ハ〜と息を切らしながらも「はるなちゃん2号待ってくれ〜!」と必死になって付いていく父ちゃん。
コーナーを左に回ったとき、はるなちゃん2号が束ねていた髪留めを取った。
風になびく長い髪。お〜シャンプーのCMのようだぞ。
その時、とっても良い匂いが漂ってきた!
向かい風になったんだ!
グォ〜!!またまた脳内麻薬が出まくる。
ストーカーから必死に逃げるようにがんばるはるなちゃん2号。
ハァハァとかわいい吐息も聞こえる。ひぃ〜ひぃ〜と追う父ちゃん。
いよいよゴールの会場だ。
スタート地点では、11時30分発の5kmの部が並んでいる。
母ちゃんが手を振っているのが見える。
その時、スタートの号砲が鳴った。母ちゃん、がんばれ〜。
ゴールまでは、もう300mもない。
あと5分以内にゴールしないと1時間を切れない。
必死で逃げるはるなちゃん2号。
「ご褒美!ひぃ〜ひぃ〜、ご褒美!ひぃ〜ひぃ〜」と凄い形相で追う父ちゃん。
最後のストレートで事務所組のゆき先生とマリちゃんが手を振っているのが見える。
もう50mもない。
「園長先生、がんばって〜」
お〜、お〜、お〜、消える間際のろうそくのように最後の力を振り絞る。
残り20m、ついにはるなちゃん2号を抜いた。
やった、やったぞ〜、俺はついにはるなちゃん2号を抜いたぞ〜〜。
「あ、園長先生!」
抜き際にはるなちゃん2号が声を掛けてきた。
よく見ればそれは園児のお母さんだった。
「いや〜、こんにちは〜!」
ずいぶんと若作りをしたお母さんを見て、すっかり保育園モードになってしまったぞ。
そして、ゴール。
RCチップをテントに持っていくとすぐにタイム付きの完走証を印刷してくれる。お〜ハイテク!
しかし、人でごった返しているし、ゴールしたばかりなのでみんなヨタヨタしている。
その時、やけに気合いの入ったランニングウェアにサングラスのオヤジと肩が触れた。
「すみませ・・」と父ちゃんが言いかけたとき、オヤジが「チェッ!」と舌打ちをして睨みつけてきた。
「なに?」俄然、戦闘モードに入る父ちゃん。
しかし、足はフラフラ、頼みの脳内麻薬も枯れ果てていた。
そのままオヤジは、人混みの中に消えていってしまった。
あんな速そうな格好をしていても今頃完走証をもらいに来ているようでは、父ちゃんよりちょっと前にゴールした部類だろ。
来年を覚えとけよ、背番号も顔も覚えたからな〜。こうみえても父ちゃんは、執念深いのだ。
すっかり次回の標的を見つけた父ちゃんは、体はヘロヘロでも気迫に満ちていた。
その後、卒園児たちの応援をしたり、保護者の方と話していて
「来年は、先生たちや保護者の方でチーム保育園を作りましょう!」と盛り上がってしまったぞ。
ということで父ちゃんは、10kmを56分27秒で男子40〜59歳クラス218人中186位。
「べりだったらどうしよ?」と心配していた母ちゃんも5kmを33分26秒で女子高校生以上クラス105人中80位だった。
何とか無事に走りきったが、男子60歳以上のクラスのトップタイムは、38分台なので恐ろしいじじぃもいるもんだ。
まぁ、今回のことで如何に日々の地道な練習が成果に結びつくのかが分かったのだが、
その後も口を開けて寝てしまっている父ちゃんなのだった。
あげくにあの睨みつけてきたオヤジの背番号と顔も忘れてしまい、母ちゃんのご褒美ももらえなかった。
職員会議で「来年のシティマラソンは、みんなで出るぜ!」と宣言したものの先生たちの反応は今ひとつ・・。
ひとり、夕焼けを眺めている父ちゃんだったのだ。
トホホ・・・。
|