【勝負は・・】
レースをやるようになって、いろいろなお父さんたちと出会うことが出来た。
その人たちの話は、父ちゃんの心の財産になっている。
ある時、知り合いのお父さんが言った。
「勝負はIAからやで、その前に勝負したらあかん」
このお父さんの子どもはIAで、しかも125では2位を取ったこともある。
「子どもには、IBまでは楽しく乗せたらいいねん」
「しゃかりきになってIAになった子は、せっかくIAに上がっても予選も通れんよ」
「本当の勝負はIAからやで、その前に勝負したらあかん」
そして
「レース場でもよく親父が子どもを怒鳴っている姿を見るが、俺は嫌いや」
「自分がやってみいや、口では言うのは簡単やで」
「親があつくなりすぎやで、自分の夢を子どもに託しすぎてんとちゃうの?」
このお父さんの子どもは、IAで活躍し始めた頃、怪我をしてしまった。
「あの時は本当にかわいそうなことをさせたと思っている」
「俺が替わりに怪我をしてやれれば・・」
「今でも、救急車の音を聞くとドキッとするのや」
その後、昔のように走れなくなったのか予選落ちの日々が続いて、若くして引退してしまった。
「根性がないんや」
そして、
「でも、20過ぎまで親子で全日本を転戦できたのは楽しかったなー」
「中学になったら話もせんようになると言う人もいるがうちは楽しかったなー。
初めて予選が通ったとき、2位を走っていて転ぶな転ぶなと祈っていたとき、みんな良い思い出やで」
お父さんは遠くを見つめながら言った。