【踏み板】
父ちゃんは、今でこそヘボタレIBだが、 その昔はRMXでブイブイ言わしていたのだ。
多度チャンピョンシップにRMXで出ていた頃(96年の頃だと思う)は、並み居るモトクロッサーを相手にホールショットを連発し、
年間チャンピョンまで取ったことがあるのだ。
(ちょっと前のモトクロスランド多度の広告には、ホールショットで第1コーナーに突っ込むゼッケン1番のRMXが写っていたのだ)
そのころ一緒に走っていた子の中には、今ではIAになっている子もいる。
そして、全日本などでその子が走っていると、
ついつい「父ちゃんは、あの子よりも速かったのだ」と自慢をしてしまうのだった。
今ではIBで上位を走っているような子が「あのころは中島さんにいじめられちゃって」と言ってくれることもある。
「こっちはバリバリのモトクロッサーで、結構自信もあったのに、
エンデューロのRMXの、それまたおじさんに負けたから親父にこっぴどく怒られたんですよ」
そんな話をしていると、子どもたちも何となく父ちゃんを尊敬のまなざしで見ているようだった。
「いやー、でも今ではかなわないからな。まあ、俺を『踏み板』にしてがんばってくれ」
父ちゃんは爽やかに切り返すと昔の栄光にしばし浸っていた。
その時、隣で黙って聞いていた母ちゃんが言った。
「でも、踏み板にもなっていないんじゃない、良くて『ドブ板』ってとこね!」
「アハハハハ・・」みんな、笑った。
その子も納得しているように笑っていた。
子どもたちも「そうだよなー」って顔で笑っていた。
母ちゃんは、自分の言葉に酔って笑っていた。
そして、父ちゃんも少し顔をひきつらせながら笑っていた。