[ここじゃない病]('12/10.11)
天竜川のレース(中部選第3戦)から帰ってきた父ちゃんとタカは、
レース話に花を咲かせながら、母ちゃんとナホと晩ごはんを食べていた。
まだ、ショウゴは、帰ってきていない。
メールでは、8時頃には着く!ということだった。
「ショウゴは、一人で大丈夫だったかね?」と母ちゃん。
「自分で選んだ道だからいろいろな事を経験すればいい」と父ちゃん。
その時、テレビでは就職してもすぐに辞めてしまう若者たちの話をやっていた。
そう言えば、大学を出て就職しても三年以内に職場を辞める割合は三割以上!ってことは知っていた。
「この頃の子は、“ここじゃない病”なのよね」と母ちゃん。
「ちょっと自分に合わないとすぐに自分探しの旅に出ちゃうのよね」
「もう少し頑張れば見えてくることもあるのにね」
「そして、新しい居場所に移ってもまた“ここじゃない!”ってなっちゃうのよね」
この言葉が父ちゃんに火をつけた。
「ショウゴだって同じだ!もうちょっと我慢すれば全日本の予選だって通れるのに!
あいつも“ここじゃない病だ”!」
この言葉が今度は母ちゃんに火をつけた。
「なに言ってんのよ!父ちゃんこそ“元祖ここじゃない病”でしょう。」
緑色のバイクが良いと言ったと思えば、今度は黄色、いや赤いバイクだって」
「小さいバイクがいい!と言ったと思えば、やっぱり450ccだと言ったり・・」
「あんたが続いているのは、私とうだつの上がらないバイクだけよ!!」
「あんたの座右の銘は、人生中途半端!!でしょう!!!」
父ちゃんが塩を掛けられたナメクジのようになっている時にショウゴがいそいそと帰ってきた。
「ショウゴ、レースはどうだった?」と母ちゃん。
「レースは6位だったけど面白かったぞ」とショウゴ。
「オレが丸太を二本いっぺんに飛ぶと拍手してくれたぞ、
でも、給油するたびにラジエター液も空っぽになっていて、
その度に水を入れていたら、タンクの水もなくなって、トイレまで走って水をくみに行って、
そんなことを毎回やっていたら、近くにいた人がバイクを持っていてくれたり、給油を手伝ってくれたんだ」
そう楽しそうに話すショウゴを見て、ちょっと安心した父ちゃんだった。
その時、テレビでコメンテーターが
「今の若者は、石の上にも三年!って言葉も知らないんですよ!」と言っていた。
この言葉がまたまた父ちゃんに火を付けた。
「ショウゴにも言ってやれ・・・」と言い終わらないうちに母ちゃんがゴジラのような目でこちらを睨む。
急にナメクジになる父ちゃん。
そんなナメクジ父ちゃんに「オレのモトクロス歴は、三年どころか15・6年になるもんね」とショウゴ。
夕食を食べ終わるとさっさと自分の部屋に行くナホ。
ソファーで寝そべって漫画を読みながら笑っているタカ。
ナメクジのようにうなだれている父ちゃん。
勝ち誇ったように満足げな母ちゃん。
こうやって今日も父ちゃん一家の楽しげな夕食が過ぎていくのであった・・。
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