【テン】

父ちゃんの家には猫が二匹いる。(犬は4匹もいるのだ)

一匹は、かあちゃんの誕生日に拾ったミーで もう一匹は、天竜川で拾ったテンだ。

子猫で拾ったミーは今では6,5kgもあるデブ猫に、

レース場で人の車に勝手に入ってきた小さな白い猫(テン)は、 父ちゃんが鼻を触りすぎて禿げたかわいい猫になった。


父ちゃんのMFJ、NBクラスの第一戦は、6月10日の天竜川だった。

そうだ、恐ろしいことが起きるはずの第一戦だったのだ。

この日のために父ちゃんは河原を何回も走り込んでKXに慣れてきた。

RMXとは比べものにならないくらの軽さとしっかりしたサス、 中低速で走るRMXと、高回転で走るKX。

あきらかに速くなっている自信があった。 恐ろしいことが起きる準備は整っていたのだ。


そして、レースは始まった。

まず、車検で、ドレンボルトとオイルキャップにワイヤリングがしてないと言われてしまった。

「おいおい、ロードレースじゃないだぜ、いつからそんなことが決まったんだ!

父ちゃんがモトクロスから離れている13,4年の間に勝手にルールを変えてもらっちゃ困るな」

父ちゃんは少しイライラした。


何とか車検を通して、いよいよ予選だ。

まあ、肩慣らしにはちょうど良いと安心して出かけたのだった。

予選といっても23台中15位まで通るのだ。

「一回ぐらい転けてもいけるだろう」父ちゃんは、自信に満ちていた。。

スタートはあまり良くなかったが、軽く4位で通過だった。

しかし、少し気になっていたことがあった。トップ2台が全然見えなかったのだ。

あいつらショートカットでもしているのか?


そして、決勝。

今度のスタートは、まずまず。第一コーナーでは、3番ぐらいに付けた。

「さあ、ここからだぜ!恐ろしいことが起きるぜ」

父ちゃんはすっかりその気になっていた。

2番手の子が大きくリヤを滑らしてる間に2位になった。

「もう2位になっちゃったよ、ちょっと様子を見ようかな」って思っていたら

いきなりインとアウトから凄い勢いで2台に抜かれた。

「へ!IBの子が混じってんの?」

その抜き方は間違いなくIBだった。 父ちゃんはついに本気になった。

「この俺を怒らせてしまったようだね」

練習よりもだいぶペースをあげた。 しかし、トップグループにはどんどん離されてしまった。

後でかあちゃんに聞いた話では、トップ3台が行ってだいぶ経ってから父ちゃんたちの第2グループが来たそうだ。

「もう全然レベルが違っていて、まるで二つのレースを見ているようだったわ」

かあちゃんは、詳しく説明してくれた。

トップグループのゼッケンが01.02.03のいわゆるキッズ上がりの子たちだということ。

トランスポーターも凄いこと、洗車機まで持っていること。

中には、Tカー?まで持っているヤツもいる。

そのころの父ちゃんは、洗車機なんてガソリンスタンドにだけとあると思っていた。

とにかく、キッズのレベルの高さにビックリしたデビューレースだった。

そして、結果は6位。 10ポイントを取ったのみだった。

気落ちしている父ちゃんの横でかあちゃんは猫を抱きながら

「この猫の名前はテンにしよう、天竜川のテンと、6月10日と、10ポイントのテンをかけて・・」

と自分のひらめきに酔っていた。