【IBライダーは悲しいのだ】

モトクロスは面白い。

初めてオフを走った感動は今でも覚えている。

最初はちょこっとジャンプしただけで、空まで飛んだ気分になれた。

ちょっとリアが流れただけで、むちゃくちゃ上手くなれた気がした。

そして、いつしかレースに出るようになった。

練習をして速くなれるのは気持ちよかった。 それがまた結果に表れたりすれば、自信につながった。

モトクロスは面白い。

レースでは上手くいくときもあれば失敗もある。

速い子たちが自滅してくれることもあれば、自分で自滅してしまうこともある。

結果がすべてではあるが、結果だけでは語れないものもたくさんある。

そして、いつしか憧れていたIBライダーになれた。

レースに出始めた頃は、あのブルーゼッケンを見ただけでビビったものだ。

その華麗なジャンプに驚き、豪快なコーナーに感心したものだった。

モトクロスは面白い。

そんなIBの中で、ほんの一握りの連中がIAに上がっていく。 IAというのは本当に凄いのだ。

だから、殆どのIBライダーはIBでモトクロス人生を終える。

同じブルーゼッケンなのだが、「旬」は短いのだ。

そして、少しずつ憧れていたブルーゼッケンが重くなる。

下手をすれば速いNBに追いかけ回されるようになる。 80ccの小僧に負けることもある。

そんなふうにして父ちゃんといっしょにIBに上がった子たちも だんだんとレース場で見なくなっていった。

IBライダーは悲しいのだ。

IAには、とても手が届かなくて、下からはどんどん速い子たちが上がってくる。

父ちゃんも39歳だ。 もう先はない。

しかし、父ちゃんはまだまだIBライダーを続けていくつもりだ。

だって、モトクロスは面白いからだ。

だから、みんなに言っておきたいことがある。

ブルーゼッケンだからといって速いものだとは思わないでくれ。

やさしい目で見てね、お願い。