[お山に帰る・・]('15/7.20)
 
 6月の27・28日に行われた「なみあい2days」というイベントに行ってきた。
場所は、長野県に新しくできた「スターライトフォレストなみあい」というコース。

このコースは、一般的なモトクロスコースではなく、
ちょっとしたエンデューロとちょっとしたエンデューロクロス、
そして、開拓が進む広大なお山系のコースって感じ。
元々、キャンプ場らしく、コテージなんかもあり、
トイレもモトクロス場とは違って(笑)立派なものだった。
(でも、こういうところがホントは大切なんだな!)

父ちゃんたちにとって、こんなコースを走るのは、初めてだった。
だって、モトクロスやそのテクニックが生きるエンデューロ・エンデューロクロスと違って、
明らかにトライアル方面でしょ?

だいたい、お山の中に分け入って、自然と対話してみたり、
G-NETやCGC(Chubu Gero Cup)に代表されるようなハードエンデューロ系やゲロゲロ系は、
父ちゃんの求めているものとは違う。
やっぱり、父ちゃんには、「よーいドン!」でスタートして、
抜いたり抜かれたりしながら「勝った!負けた!」と大騒ぎするのが合っている。

だから、ショウゴに「リョウスケが行くって言うから付いて行く、じぃさんはどうする?」
と誘われてもあまり乗り気がしなかった。
ただ、直前になってタカが「日曜だけなら行けるわ!」と連絡が入ったので、
急遽、参加することになったんだな。

ショウゴは、土曜日からの参加なので、
一人で金曜日の夜にバイクを三台積んで出て行った。
土曜日に仕事が入っていた父ちゃんは、タカが帰ってくるのを待つ。

土曜日の午後、携帯を見れば、ショウゴから着信があった模様。
電話を掛ければ「じぃさん、チャンバーを潰してしまったから、新しいのを1本持ってきて!」。
「何をやったんだ?」と」聞けば、
爺ヶ岳や鈴蘭が可愛く見えるようなところばっかりだ、
じぃさんやタカなら行けないところもたくさんあった!
」と言う。

そんな話をタカにすれば
ショウゴは根性もない上にテクニックもないからな〜」とまるで人ごと。
それもそうだな!」と納得して土曜の夜に長野に向かう。

途中で寝たので、コースに着いたのは、朝。
土曜日に降っていた雨も止み、今日の方が走りやすそうだった。
いつまでも寝ているショウゴをたたき起こして、チャンバーの交換。
「どこで潰したんだ?」と聞けば、
「石がゴロゴロある沢(さわ)のステアケースみたいな石の壁を登ろうとしてぶつかってしまった!」。
「とにかく、何回も挑戦しなければ登れない急坂や石ゴロゴロの沢が難しかった!」とのこと。
今日もクラス別に分かれるからタカは中級で、じぃさんは初級ぐらいの方が良いじゃない?
「お前は?」と問えば「俺は今日も上級クラスだ!」と応える。

普段なら「この俺を誰だと思っている!」と言いたいところだが、
なにせ「はじめてのお山系」。
はじめてのおつかい!」の子どもたちのように不安がよぎる・・
もともと積極的に来た訳でもないし・・。

といっても父ちゃんの相棒は、可愛いフリラちゃん。
一瞬、中級にしようかな?と悩んだが、聞けば中上級クラスもある模様。
父ちゃんのプライドがムクムクと盛り上がり、
まぁ、様子見で中上級クラスかな?」と余裕で応える。

その一部始終を見ていたタカが「じゃ、俺はショウゴと一緒の上級だな!
「へ?」クラッチがどこか忘れかけているようなお前が?
「お前、この前バイクに乗ったのはいつだ?」と聞けば、
広島以来だから2ヶ月ぶりかな?

こりゃ、あかん!
悪いことは言わん。俺と一緒に来れば助けてやるぞ!」と父ちゃん。
みんなの迷惑になるから止めた方がいいぞ!」とショウゴ。
そんな二人の貴重な忠告を無視して、「いや〜、何とかなると思う!」とタカ。
いったい、その根拠のない自信はどこから湧いてくるのだ?
(やっぱり、父ちゃんの子ね!by母ちゃん)

朝のミーティングでこの日のインストラクターが紹介される。
上級コースは、DIRT SPORTS でも連載を持っているロッシ高橋氏を始めとした講師陣だ。
お〜、初めて生ロッシ氏を見てしまった。

ここで姫丸さんにも遭遇。
オフロード系のブログで名前だけは知っていた姫丸さん。
「父ちゃんのひとりごと」も見てくれていたそうで
この親子、どこに行こうとしているのか?って思っているのよ」と話してくれた。
生ロッシ氏といい、生姫丸さんといい、同じオフロードでも違うシチュエーションに行くと
いろいろなオフロードの楽しみ方をする人たちに出会う。
う〜ん、楽しいぞ!

聞けば、上級コースの上にも「妖怪クラス」があるそうで、
ここまでくると「変態?」の」領域に入るそう??
とにかく、分からないことばかりの新しいジャンルに足を踏み込んでしまった。
「はじめてのおつかい」の子どもたちの気持ちがよ〜く分かるぞ!

父ちゃんの中上級コースの講師陣は、「そうさい」と呼ばれる人。
父ちゃん以外の参加者を見ても若い女の子と普通の人々。
言っちゃ悪いが、とても速そうな人や上手そうな人がいない。
はい、父ちゃんは、顔を見ただけでその人の実力が分かりますよ。
やっぱり、上級コースの方が良かったかな?

「こりゃ、下手に後ろに付くとスタックされて待ってばかりになりそう!
と思った父ちゃんだが、普段の奥ゆかしさが出て、みんなの後ろに付いて行くことに。

山に向かう途中にロッシ氏に出会う。
バイクを見れば、父ちゃんが最後まで迷ったYZ250FXだ。
あちこちに手が加えられているのがここからでも分かる。
ヘルメットもトライアルライダーがかぶるようなジェットヘルに
アクリルで作ったようなチンガードが付いている。
ハッキリ言って、あまり格好良くない・・。
やっぱり、モトクロスのヘルメットにゴーグルの方が良いな〜
お山系の人は、何かが違う・・。

しかし、JNCCでは、あまり見ないFREERIDE250(通称フリラちゃん)が
父ちゃんが見ただけでも5台もいる。
4サイクルのFREERIDE350も1台いたから計6台もいるではないか!
普段では、あまり出会うことがないのに、
こんなお山の中にフリラちゃんのお姉ちゃんやお兄ちゃんがいたんだな!!
FREERIDE250・・、
うすうす気づいてはいたが、JNCCよりもやっぱりお山系だったんだ!!!

そんな感激に浸っている父ちゃんの横を上級クラスの参加者たちが山の方に走り去っていく。
後ろの方にショウゴ、一番最後にタカがいた。
小さなショウゴは、それなりに・・、タカもそれ以上に小さく見える。
♪ドナドナドナ・ド〜ナ〜♪
売られていく子牛のように見える我が息子たち。
無事に帰ってこれるかな?

ただ、この上級クラスの人たちを見てもとても速そうに見えない。
いったい、お山系の人たちはどんな人たちなのか?

中上級クラスの人たちが“そうさい”の後に続き、
山の木々の間をあちこちと走り回りながら山奥に向かう。
明らかにJNCCのコースとは違う。

しかし、こういうところは結構得意な父ちゃん&フリラちゃん。
止まっている人やラインを変えながら付いて行けば、
気づけば“そうさい”の真後ろに追いついてしまった。
このメンバーなら、まぁ、妥当なところでしょう!
やっぱり、上級クラスに行けば良かったかも?

段々と山奥に分け入っていくと木の根っこがゴロゴロ出ているところや
滑りやすい登りなど明らかに難しくなってきた。
そこを“そうさい”は、スイスイと登っていく。
父ちゃんも何とか付いて行くが、ギリギリで登っている感じだ。
すでに半分くらいの人は、あちこちでスタックしているようだった。

ただ、父ちゃんだってギリギリで行っているようなところを
半分くらいのライダーは、ニコニコしながら普通に付いてくる。
イチかバチかで行かなければ登れないような難しい急坂をクリアーして、
さすがにここは、誰も登れないでしょう〜!と後ろを振り返れば、
小さな若いお姉ちゃんが125ccのバイクに跨がって笑っている。
どこか迂回路があるの?
お姉ちゃんだけではなく、次々とクリアーしていく人たち。
あなたたちは、何者?
バイクも人間もちっとも速そうに見えないけれど、お山の中では光かがやくあなたたちって何者?

そして、ついに沢の中から続く急な登りで転倒。
バイクを立てて、アクセルを回すが、リアタイヤは空転するばかり。
ライン上に穴ばかり掘ってしまい、後に続く人に迷惑を掛けてしまった。
そんな、のたうち回る父ちゃんの横を何事もないように登り切るお山系の人々。
いったい、あなたたちは何者?
あの小さな女の子も少し苦労したが登り切る。

ここで、少し休憩。
必死で走っていたので気づかなかったが、お山の中は、気持ちが良い・・。
切り株に腰を下ろすと木々の間から青空が見える。
思わず深呼吸をしたくなる。
バイクの音が消えると、聞こえるのは、風の音のみ。
たまに、どこかで鳴いている小鳥のさえずりが聞こえる。

あれ?
急に遠い昔がよみがえる。
34年ほど昔に初めて買ったバイク(ハスラー50)で奥多摩に走りに行ったことを思い出した。

大学受験に落ちて、それでも東京に行きたくて深夜スーパーに就職。
毎日、午後3時から夜中の2時まで働いた。
一年ほど経ったときに、小さなバイク屋で中古のオフロードバイクを偶然見つける。
それまで、バイクに興味もなかったが、何故か気になってしまい、
気づけば一年間一生懸命に貯めた7万円でバイクを購入。

多摩川の河川敷で草むらの中を走り、ちょっとしたコブでジャンプ出来たのが嬉しかった。
奥多摩の林道を走り、山の中にちょっと分け入っていくのが楽しかった。
地方から出てきて、友達もいなくて、高校時代に初めて出来た彼女にも
あっという間に振られ、それでも一生懸命に働いていた。
好きで東京に出てきて、好きで働いているのだからと強がってはいたが、体は正直だった。
胃が尋常でなく痛み下血。十二指腸潰瘍で倒れてしまった。

休日の月曜日にハスラー50に乗ることだけが楽しみだった。
山の中や河川敷を走り回って、疲れたらボ〜と空を見ていた。
俺ってホントは何がやりたいんだろう?何が出来るんだろう?

あれから34年。
豊橋港で牛や馬のように働いているところを保育園の跡取り娘の母ちゃんに拾われ、
三人の子どもたちにも恵まれ、気づけば54歳・・。

どこからか沢のせせらぎが聞こえる。
木々が語りかけてくるようだった。

山には、不思議な力がある。
360度、自然に囲まれていると不思議な感覚になる。
こうやってお山系の人たちが出来上がっていくのか?
勝った!負けた!で一喜一憂している父ちゃんたちとは違う人たちが・・

あっという間にお昼。
“そうさい”が「そろそろ、帰りましょう!」と言ってパドックに向かう。

パドックに戻れば、すでにショウゴとタカが弁当を食べていた。
タカ、よく生きて帰ってきたな!」と言えば、
「最初は手こずったが、もう慣れたぜ!」と応える。
ショウゴも昨日よりは、走れたようだった。

午後は、エンデューロクロスのコースを使ってチーム対抗リレー。
こういうシチュエーションなら得意だぞ。
楽しく走った後に、またお山に行くことに・・。

今回は、クラスを代えても良いというので、迷わず上級クラスに合流。
ロッシ氏を始めとした講師陣の中に同じFREERIDE250に乗る「アニキ」と呼ばれる人がいた。
ロッシ氏は当たり前だが、この人もまた上手かった。
お山には、ホント、いろいろな人がいる。
世界って広いな〜!

ショウゴやタカと一緒に、難所の沢登りに挑戦する。
ゴロゴロ石が転がる沢をとにかく登りに登る。
途中、何カ所も「こりゃ、無理でしょ〜!」というところもあったが、
バイクを押したり引いたりしながら進んでいく。
バイクって、こんなにスゴイ所も走れるんだ〜!」と感心し、
フリラちゃんってこんなに走破力があったんだ〜!」と驚嘆した。

沢の最後には、急な登りとステアケースのような石の壁があった。
ここまでで、すっかり自信をなくしたショウゴは、ここでリタイヤ。
しかし、父ちゃんには行ける気がした!
父ちゃんの中には、お山系の血も入っていたのか!!

他の人とは違うラインで挑戦。
勢いだけで突撃する父ちゃん。
クリアー出来るか?ってところで失速して谷底に転げ落ちる。

ガチャ〜ン!とフリラちゃんが岩が当たる。
「大丈夫ですか?」とみんなが駆け寄る。
ビチョビチョになりながら「大丈夫ですよ!」
フリラちゃんを見れば、ハンドルが当たってくれたようで大丈夫そうだ。

行ける!と思ったが、最後にビビってしまった。
もう一度挑戦。
あとちょっとのところでバイクは止まったが、最後は、力で引き上げる。
「お〜!」
みんなが拍手をしてくれた。

その後も数台がクリアー。
気がつけば、タカも何とかこの場所にたどり着いたようだった。
「タカ、無理するな!」という父ちゃんを無視して、バイクを進める。
タカ、そこから加速して勢いで行けるところまで登れ!

その時、それまで黙って横で見ていたロッシ氏が
まず、ここにフロントタイヤを乗せて、次は、ここ!」と指さす。
タカは、父ちゃんの貴重なアドバイスを無視してロッシ氏に従う。

そんなに面倒なことをしなくても、そこまでなら勢いで行けるぜ!」って思ったが、
ロッシ氏の森の住人のような雰囲気に押されて何も言えない父ちゃん。

タカは、ロッシ氏の言うとおりにバイクを進める。
ここまで来たら、アクセルを開けすぎないようにしていけば、登れる!」とロッシ氏。
モトクロスライダーは、アクセル開けてなんぼじゃ!」と心の中でツッコミを入れる父ちゃん。

結局、タカは、ロッシ氏の言うとおりにして登り切ってしまった。
満足げなタカ。
森の住人ロッシ氏の頬が緩む。

自然の中では、人間性が出る。
あんなに時間を掛けなくても、勢いで行けるのに!」とつぶやく父ちゃんと
俺も行けたけど、バイクが壊れるとイヤなので止めただけだ!」と言い張るショウゴ。

綺麗な自然も人の心までは、キレイすることが出来ませんでしたとさ。
めでたし、めでたし?