【バカヤロー!】

7月の中部選に出たときの事だ。

今度こそは父ちゃんの実力を家族に見せてやろうと朝から燃えていたのだった。

(レースの日はいつもそうなのだが)

しかし、エントリーリストを見てビックリ。

IB250の出場台数は、たったの10台なのだ。

確かに中部選も後半戦に入るにつれ、出場台数は減ってくるものだが、

前回は15台はいたはずなのに・・。

それも上位4台は、全日本でもポイントを取っているヤツだし、

その他にもどうがんばってもかなわないヤツもいる。

なんか嫌な予感がする父ちゃんだったのだ。


しかし、いざレースが始まってしまえばそんな事は頭から吹っ飛んでいた。

いつものようにほとんどベリで第1コーナーを抜けた父ちゃんは、

これまたいつものように転んでいる子や転びそうになっている子を抜いて7位くらいを走っていた。

第1コーナー脇では、珍しく母ちゃんも長女(小1)を連れて応援してくれているのが見えた。

だから、第1コーナーだけは全力でかっこよく回っていたのだ。


10分ぐらい過ぎた時だった。

ちょっと調子に乗りすぎた父ちゃんは、第1コーナーの轍にフロントをとられてふらついてしまった。

その時、何周か後ろにつけていたYZがインに突っ込んできた。

抜かれまいとアクセルを開ける父ちゃんにこれがチャンスと引かないYZ。

2台は、立ち上がりでぶつかったひょうしに、YZのステップと父ちゃんのブーツが引っかかってしまった。

危ないと思った父ちゃんはアクセルを戻し、YZを先に行かした。

その時、「バカやロー!」と声がしたと思ったらYZの小僧がケリを入れてきた。

ケリは外れたのだが、父ちゃんはキレた。

未来ある青少年には、ちゃんと社会のルールを教えてやらねばならぬ。

父ちゃんはアクセルワイドオープンで追いかけた。

もともと後ろを何周かついてきたようなヤツだったのですぐに追いつく事が出来た。

「くらえ正義のケリを」と思った瞬間、父ちゃんはコケてしまった。


チェッカーフラッグを受けてスピードダウンした時、

母ちゃんと長女がとっても悲しそうな顔をして歩いているのが見えた。

父ちゃんが、目の前で若い小僧に怒鳴られたあげくにケリまで入れられたのが

よほどショックだったのだろう。

その後、黙ったまま暗い顔で片付けをしている母ちゃんに言った。

「今回は転んでしまったけど、次回には父ちゃんの必殺技ローリングスペシャルアタック

(どんな技だ?)を食らわせてやるから心配するな」

母ちゃんは暗い顔をしてつぶやいた。

「悔しいじゃない」

母ちゃんの悔しさが伝わってきた。

「俺はもともと豊橋港で半分人生を捨てたような生活をしていたのだから

バイクよりこっち系の方が得意なんだから安心しろ」

しかし、かあちゃんは首を振って言った。

「違うの父ちゃん、あんなヤツは次のレースでぶっちぎってやって!」

父ちゃんはしばらく考えてから答えた。

「あかん、そりゃ出来んわ!」