【父ちゃん似!】
父ちゃん家には、3人の子どもがいる。
3人とも母ちゃんのお腹の中にいる時からレース場にいたので、子どもたちはみんな「人間はバイクに乗ってジャンプするもの」だと思っている。
だから、3人とも何にも言わなくてもバイクに乗り始めた。
長男(ショウゴ)は、もう中学1年。CR80で父ちゃんを本気で抜こうとし始めた。
こいつは、顔は子どもの頃の父ちゃんそっくりなのだが何故か性格は母ちゃん家系で神経質で几帳面ときた。
次男タカ(5年生)は、顔は母ちゃんの小さい頃にそっくりだが、性格は要領が良い上に人生をなめていて短気で飽きっぽく、
イケイケドンドン出たとこ勝負という父ちゃん系なのだ。
しかし、根性の「こ」の字もないところは母ちゃん似だ。
そして、我が家の最終兵器と言われているのが(父ちゃんが言っているのだが)長女ナホ(2年生)なのだ。
こいつは、顔も性格も父ちゃんとそっくりといわれている可愛いやつなのだ。おまけに根性もある。
そのナホがついに02年にレースデビューしたのだ。
(と言ってもまだ兄ちゃんたちが足で走っている方が速いくらいだが)
兄ちゃんたちも心配らしく、前の晩には「黄色い旗が振られていたら誰かが転んでいるんだ」とか教えている。
人生なめているくせにこの時ばかりは「うん、うん」と素直に聞いていた。
要領が良くて短気で飽きっぽくイケイケドンドン出たとこ勝負のくせに、さすがにちょっと不安げだった。
その時にナホが母ちゃんに言った。
「ねえ、母ちゃん、ナホちゃん心配なことがあるの」
父ちゃんは思わず「がんばれ、いざとなったら父ちゃんが助けてやるから」と拳を握りしめた。
ナホは続けて言った。「ナホちゃん一等賞になったらシャンパン上手く開けられるかな?」
母ちゃんは、優しく微笑みながら言った。「やっぱりナホは、父ちゃん似だよね、回りが全然見えてないところが」