【スコップオヤジ】

 父ちゃん一家のホームコースは、車で15分ほどの河原だ。
このコースはみんなで協力しながら何とか維持している。
1年に2.3回、チーム関係者の人がブルを入れてくれるのだが、
河川敷ということもありすぐにコースは荒れてきてしまう。
そこで、ここで走っている人たちは、たいていスコップを常備していて、時間を見ては整地しているのだ。
もちろん父ちゃんも、スコップとクワみたいなヤツを車に積んでいる。

そして、ここには父ちゃんたちが密かに「スコップオヤジ」と呼んでいる人がいる。
もう50をとうに超えているような人だが、
たま〜に現れるとバイクに乗る時間よりも遙かに遙かに長くスコップを持ってコース整地をしているのだ。
父ちゃんの観察によると、5分バイクに乗ったと思ったら1時間はスコップでコースを整地している感じなのだ。
大変素晴らしいオヤジなのだが、一つ困ることがあるのだ。
このオヤジ、自分が走りやすいようにと、どんどんジャンプやフープスを削ってしまうのだ。
父ちゃんだって、エグレたジャンプや危険な削れ方をしたフープスなどは整地することもある。
しかし、全日本を知っている身としては、やはりある程度は荒れているコースの練習も必要だと思うのだ。
もちろん、いろいろなレベルの人が走るみんなのコースのなので、その人なりの考えで整地しても良いと思う。
しかし、このスコップオヤジは、ちょっとやりすぎではないかと思っているのだ。
せっせとジャンプやフープスを削るオヤジを見ながら
「削るよりももう少しバイクに乗って練習した方が良いのではないか?」と思うこともあるのだが、
このオヤジには、このオヤジなりの考えがあるのだろうと納得しているのだ。

そういう父ちゃんもこの頃ではずいぶんスコップを持つ時間が長くなってきた。
2連ジャンプの助走区間などは、振られると怖いのでついつい綺麗に整地してしまうのだ。
長男のショウゴには、「レースだっらこのぐらいは荒れていても飛ぶぞ!」と言われてしまうのだが
「バカ者、これはお前のためにやっているんだ!」とか反論している。
本当は、自分が怖いのだが、そんなことを認めるほど父ちゃんは悟りを開いていないのだ。
しかし、先日ついにショウゴに言われてしまった。

「父ちゃんは、あのスコップオヤジと一緒だ、バイクに乗るよりスコップばっかり持っているじゃないか!」
父ちゃんはガーンとハンマーで頭を殴られた気がした。
そうだったのか、父ちゃんはスコップオヤジ二世だったのか!
そう思いたければ思うがいい。
あれはあれでやり出すとなかなか面白いのだ。
自分が整地したジャンプを眺めていると「フ〜、いい汗かいたぜ!」と空を見上げてしまうのだ。
そんなふうに開き直ってきた父ちゃんの後を追うように、
どでかいフープスを直線に掘りまくるオヤジやら
やたらとジャンプを高くしたがるブラジル人など、
スコップの魔力に引き込まれたオヤジたちが出没している河原であった。