【Xデイ】

 父ちゃんは常々中島家のエースは自分だと公言している。
回りのオヤジたちにも「子どもに負けるようになったら引退ですわ」と言いふらしている。
もういい歳の父ちゃんなので、さすがに子どもに負けだしたら現役を引退して
MFJにライセンスを返して遊びでバイクに乗っていこうと思っているのだ。
そう言うと「エッ、中島さん今まで本気で乗っていたんですか!」
と驚くような失礼なヤツもいるので困るのだが、
とにかく今は真剣に全日本とか中部戦に出ているのだ。
まぁ、その時が来たらブルーゼッケンの重圧から離れ、
白ゼッケンで素人の若い子をいじめるのも良いじゃないかと考えているのだ。

そんな父ちゃんが子どもに負けて引退する日を回りのオヤジは“Xデイ”と呼んではしゃいでいる。
あまりに不甲斐ない走りしかできなくて「チクショー、悔し〜!」って言ったら、
あるオヤジに「その年で負けて悔しいって思えるだけでスゴイですよ」って褒められてしまったぞ。
父ちゃんは何か複雑な気持ちだった。

雨の中部戦の練習走行で転んでいたら
「お前の父ちゃん、第1コーナーで泥と戯れていたぞ、もう引退かな?」
とわざわざショウゴに言って喜ばせているオヤジもいた。


そんな真剣にバイクに乗っている(大きな声では言えないが・・)そんな父ちゃんをついにショウゴが追い越そうとしている。
ショウゴの85に対して父ちゃんは450なので、コース全体で見ればなんとか勝てるのだが、
フープスやコーナーではあきらかにショウゴの方がキレがある。
先日もコーナーのインをズバッとつかれて抜かれた時には
「ついにオレの時代が来た〜!」とはしゃぐショウゴを横目で見ながら
「あ〜、オレの時代も終わったか!」と思ってしまったのだ。


父ちゃんは男だ。
自分の言ったことには責任を持つ。
確かに父ちゃんは「子どもに負けるようになったら引退ですわ」と言いふらしてきた。
男に二言はないのだ。
今一度言おう。
父ちゃんは、子どもに負けるようになったら引退しよう!
しかし、ひとつだけ付け加えておく。
子どもというのはショウゴだけではない。父ちゃんには、3人の子どもがいるのだ。
一番下のナホも入るのだ。
「ナホに負けるようになったら引退しよう!」
とトコトコと走っているナホを見ながら心に決めた父ちゃんなのだった。