A級になろう!
父ちゃんは、20歳の時にハスラー50に乗り、バイクが好きになった。
23,24と2年間モトクロスに人生を捧げたが、結婚を機に止めてしまった。
しかし、母ちゃんが長男を出産しているときに我慢できなくなり、ナナハンを売り初代RMXを買ってレースに帰ってきた。
それからは、エンデューロ、一筋だった。
36歳の頃は、子どもと出られる大会と言うことで、多度チャンピョンシップに出ていた。
そんなとき、KX60に乗っていいる長男(ショウゴ)が父ちゃんの目をジッと見つめて言った。
「父ちゃん一緒にA級になろう!」
父ちゃんはびっくりしたぞ。
父ちゃんのレース人生はもう終わっていると思っていた。
遊びで子どもたちと一緒にレースに出ていられるだけでいいと思っていた。
この年になって15,6の子たちとモトクロスで勝負しようなんて考えてもいなかった。
だけど、この言葉を聞いたとき、なんかジーンときてしまい
「よし一緒にA級になろう!!」って言ってしまったんだ。
そのころ父ちゃんは、レーサーオープンとマスターズにRMXで出ていた。
当時のプログラムを見ると、選手紹介の写真の下にみんなの目標が書いてあった。
キッズの子たちは、「世界チャンピョンになる」とか、
「マクグラスを抜く」とか、ほほえましいことが書いてあった。
レーサーオープンの少年たちは、「国際A級になりたい」とか、
「アメリカにモトクロス留学がしたい」とか、それなりのことが書いてあった。
マスターズ(その時は30歳以上)のおっさんたちは、
「少しでも長くバイクに乗っていたい」とか「怪我をしないように走る」とか
「楽しく乗りたい」とかほとんど老後のモトクロスって感じだった。
そんな中で、父ちゃんだけは、「国際A級になる」って書いてあった。
はっきり言って恥ずかしかったぞ。
その後、約束通りにモトクロッサーを買って、モトクロスの世界に帰ってきた。
母ちゃんは「何で今更モトクロスなの、エンデューロの方が勝てたのに」といぶかしがっていた。
例の「ジーンとした話」をしたら、「そんなこと本気にしてたの、言った本人も忘れているよ」と笑いながら言った。
父ちゃんは、横に座っているショウゴを見た。
ボケーと口を開けて、テレビを見ながら笑っていた。
「本当だ、忘れている!!」
しかし、いいのだ、父ちゃんの心の中には、あのときの表情が、あのときの声が残っているのだ。
「一緒にA級になろう!」って。
順境にIBまで上がった父ちゃんは、ついに4月の全日本に出場したぞ。素晴らしかった。
IAの選手がいっぱいいて、ワークスの子たちもウロウロしてたぞ。
パドックでは隣の姫路の人たちと友達になって、おにぎりを3個も貰って、再会を約束したぞ。
いい雰囲気だった。
父ちゃんは、全日本が好きだ。 また、出たいと思っている。
だが、結果のことは聞かないでくれ。
そうだ、ショウゴにひとつ言っておきたいことがある。
「あの約束、ずっと忘れていてくれな」