マイブーム(2004/1) 

 父ちゃん一家は、’04年のレースにむけてお正月から燃えていた。
この河原で練習している人たちもやはり新しい年に向けて燃えているらしくコースに「1月3日にゴミ拾いとコース整備やります」と看板が張ってあった。
どのくらい集まるのかと心配していたのだが、父ちゃんたちが行った時にはすでに多くの人たちが集まっていた。
みんながこの河原のコースを守っていこうという気持ちが嬉しかったぞ。
ブルでコース整備をやる人やせっせとゴミ拾いをやる人。顔見知りが多いが、中にはたまにしか見ないような人たちまでいた。子どもたちもあちこちでゴミを持って走りまくっている。
こうして’04の正月は、気持ち良く始まった。
この冬、父ちゃん一家では、ある事が流行っていた。
それは片手運転だ。
別にたいした事ではないのだが、父ちゃんがこの河原のコースで走り始める時、体を温める上でモトクロッサーを片手で走らせて何周かしていた事から子どもたちが真似るようになってしまった。
やってみると分かると思うのだが、この片手運転、結構無難しいのだ。
もちろん、クラッチは使わないのでアクセルだけでジャンプなどもクリアーしていく。

ストレートも荒れているので、膝や足首でバイクをしっかり挟まないととても走れるものではない。
暴れるバイクを手で押さえつける事が出来ないので、自ずとバイクの中心に立って体をバイクの動きに合わせてやらねばならない。
アクセル操作もラフには出来ない。
コースの下見を兼ねながら毎回こんな事をしていたら子どもたちも真似だして、
ショウゴ(長男)などはそれで勝負を挑んでくるようになってしまった。
こうなったら単純な父ちゃん一家は、すぐにレースだ。
レースは、この河原のコース5周だ。
65のナホは、遅いので両手でしかもコース一周ぶん短い。
85スモールのタカ(次男)は、片手で半周短い。父ちゃんとショウゴは、ガチンコ勝負だ。
いつもはあまりに速度差が激しいのでとても勝負など出来ないナホやタカだが、
この片手運転レースでは、ハンディこそあるものの自分なりに真剣にレースが出来るらしく結構楽しんでやっている。

そういえば、少し昔の子どもたちは、兄弟などの異年齢の子が集まって遊んでいたのでこうやって大きい子にハンディをつけては、一緒になって遊ぶ事が多かった。
遊びのルールもドンドン自分たちなりに変えていく事でいろいろなレベルの子が一緒に楽しむ術を知っていたのだった。
今の子は、同学年の子としか遊ばないし、遊び自体もテレビゲームのように自分たちで工夫するよりはやらされている遊びが増えてしまい、このような事が苦手のようだ。
しかし、同学年の子とだけ付き合ってやっていけるのは、学校の時だけだ。
社会に出れば、自分の親ぐらいの人たちともつきあっていかなくてはならない。

そんな経験が少ない現代の子どもたちは、年齢差による人間関係がとっても苦手のようだ。
せっかく入った会社を僅か一ヶ月で辞める子が増えたのもこんな事が影響しているかもしれない。
とにかく人間関係は、いろいろな人間と付き合いながら学ぶしかないのだ。
その点、モトクロスをやっていると子どもたちの縦割り(異年齢)の関係を始め
そのオヤジや母ちゃんたちとも付き合えて人間関係を学んでいると思うぞ。

レベル差が大きい父ちゃん一家だが、この片手運転レースが今年の“マイブーム”なのだ。。

それにしても片手だと何故かショウゴが速いのだ。
クラッチが使えないので、どう考えても中低速トルクがある4サイクルのCRF250の方が
低速トルクがないCR85より有利なはずなのだが、3速固定で滑らかに走る父ちゃんの横をスゴイ速度で抜いていってしまう。

ジャンプだって片手でそこそこ飛んでしまう。
どんな事でも負けると悔しい父ちゃんは、リキを入れて走るのだが、アクセルワークがラフになってギクシャクしてよけいにミスを犯してしまう。
この頃は、父ちゃんにもハンデをやると言い出すショウゴだが、オヤジとしてのプライドがそれを許さない。
それぞれの思惑を込めながら、片手運転レースは父ちゃん一家のマイブームになっているのだ。
そうそうひとつ言い忘れた。

これをやれば即、モトクロスが速くなるわけではない。
だって、ショウゴより父ちゃんの方が速いしな。まだまだ負けるのは、片手運転だけだ。
しかし、遊びとはいえ家族みんなで一緒にレースが出来るのは、とっても楽しい事なのだ。