つまらん!(2005/5)  

 父ちゃんが怪我をしてからちょうど一週間が経った日曜日の朝、
父ちゃんとショウゴ(長男)は、いつものように河川敷に練習に来た。
(タカは、中間試験が月曜日からなのでお休み、ナホは、家で母ちゃんとゴロゴロしていた。)
もちろん、父ちゃんは、やっとお尻が拭けるようになったくらいなので単なる付き添いだ。
本当は、土曜日も練習したかったのだが、高校に入ってからやけに部活に燃えているショウゴは、
「土日は部活を休んでモトクロスの練習」という約束を簡単に破るようになってしまった。
「父ちゃんが、たまに休める土曜日ぐらい練習せんでどうする?」と思うこともあるのだが、
「まぁ、部活で体力つけていると思えばいいか!」とあきらめている。
今こそ、練習すればするほど上手くなる時なのになぁ〜とちょっと残念な父ちゃんだった。

この頃、晴天が続いていたので河川敷は、いつものように砂漠のようになっていた。
人が歩くだけでも砂煙が凄い。
そんな中をショウゴは、ひとりでバイクをおろし、ひとりで練習していた。
父ちゃんは、やることがないので新聞を読んでいた。
「父ちゃん、ちょっとタイムを計ってくれ!」
暇そうなオヤジを見てショウゴが言ってきた。
そういえば、ずっとそんなことをしていなかったなと思い、計ってやることにした。
半年ほど前に計った時には、父ちゃんで1分8〜10秒だった気がする。
ショウゴなんて、まだ85だったものだから1分15秒ぐらいだった!
「それじゃ5周計ってみるか」と言うことになりタイムを見れば、1分6〜7秒で悠然と周回しているではないか。
(CRFに乗り始めた時には、3周で限界!と言っていたのに)
コースやジャンプもほとんど変わっていないし、このフカフカ砂漠を考えれば、結構良いタイムが出ている気がする。
でも、ジャンプの着地のアクセルの開け方だけ見ても直すところが多い。
(トルクの立ち上がりを使っていないので、回転が落ちていた)
5周走り終えて帰ってきたショウゴに言った。
「ジャンプの着地で回転数が落ちている、サスが縮んで一番グリップしているのだから(だから回転数も落ちる)
もっと、力がある回転数になるようにしたら?」
「分かった」というと何回かジャンプの練習をしながらアクセルの開け方を考えていた。
だいたいは、アクセルを開けるタイミングが遅い。
だからトルクが立ち上がる前に着地してしまい失速している。
「お前がアクセルを開けてから実際にタイヤが回るまでには、タイムラグがあるんだ」と言えば、
今度はやたらに速くアクセルを開けて回転を上げすぎてしまい、着地後の伸びがない。
まだまだ4サイクルの力の出方というものが分かっていないのがよく分かったぞ。
しかし、そこは長男。意外と真面目に、そして几帳面に練習していて、何とか良い感じになってきた。
これが次男なら初めから父ちゃんなんかにアドバイスは受けない!(笑)
自分で結構考えてやってしまう。(間違えていても関係ない!)
「父ちゃん、もう一回計ってくれ!」と言うのでタイムを計ってやれば、1分4〜5秒で周回している。
最終コーナーに帰ってくるたびに左手で5とか4とか指でタイムを出してやると、嬉しそうに「うん」と頷いて走っていく。
いつも自分のことで一生懸命な父ちゃんにとって、こんな時を過ごしたのは、本当に久しぶりだった。
回りにいるオヤジたちの気持ちが分かった気がした。
自分のアドバイスで子どもが速くなっていく。
自分のサインに子どもが頷く。
こんな年頃(高校生)になってもこんな関係を持てる親子はそうはいないだろなぁ〜。
だから、オヤジたちは、あんなに一生懸命に子どもに教えているのか?
生き生きと目の前を走り去っていくショウゴを見ながら考えた。
「そろそろ、オレも自分のことばかり考えないで少しは、子どものために手助けする時期が来たか?」
しかし、砂にまみれて立っているうちにムクムクとある感情が湧き上がってきた。
「あ〜オレも速くバイクに乗りて〜!」
タイムでは負けるかもしれないが、アクセルの開け方はオレの方が上手い!!
見ているだけって「つまらん!」。
絶対に父ちゃんは、まだまだ進化出来ると心に強く誓った日曜日の朝だった。