タレパイ号対御局号(2005/8)  

“ワカパイ号”改め“タレパイ号”と頑張ろうと誓った日から一月後、今度は天竜川で中部戦があった。

そして、この日は6月というのに死ぬほど暑かった。

あまりに暑かったので“タレパイ号”もご機嫌ナナメだ。エンジンの調子も良くない。

明らかにセッティングがずれている。春先から変えてないのできっとキャブが濃いのだろう。

練習走行でもコーナーの立ち上がりも悪いし伸びもない。

練習走行とはいえ、右から左からみんなに抜かれまくるのは良い気持ちではない。

その時、古い黄色い2サイクルのマシンがストレートで砂をかけまくって抜いていった。

「種馬?」

その後ろ姿には、見覚えがあった。間違いない。「掛川の種馬だ!」

“掛川の種馬”は、子どもが5人もいるが、その子どもの名前さえもあやふや?というイカレたオヤジライダーだ。

父ちゃんと一緒にIBに上がった昔のライバルなのだ。

“昔”と書いたのは、ここ数年は中部戦にもほとんど出ていないからだ。

さすがに子育てに勤しんでいるのか?と思っていたのだが、ゾンビのように蘇ってきたか。

散々な練習走行を終えてパドックをウロウロしていると

脂ぎって黒光りしていて精力抜群そうで筋肉ムキムキなオヤジが嬉しそうに寄ってきた。

「中島さん、お久しぶり!」と言う種馬も相変わらず元気そうだ。

久々の再会を喜んだが、種馬のことだからきっとこの間に隠し子の2,3人も作っていたのであろう。

「練習走行で抜いていったでしょ?思いっきり砂を掛けられましたよ」と言えば、

嬉しそうに「この99年型のRM125で中島さんの最新式CRFを抜くために来たんですよ、フェフェフェ!!!」

と気色悪い笑い声と共に去っていった。


「現れたな妖怪子作りジジイ!」と思ったが、この“ワカパイ号”いや“タレパイ号”に

挑戦状をたたきつけられたのでは逃げるわけにはいかない。

その年季の入りまくった99年型RM125は、どう見ても意地悪な大奥の御局(おつぼね)様だ。

よし、この勝負受けた!“タレパイ号”対“御局(おつぼね)号”だ。

いいじゃないか、なんか“キングギドラ対ゴジラ”みたいじゃないか。


種馬がせっせとあちこちで子作りに励んでいる間、父ちゃんは、血のにじむような努力をしていたんだ。

全日本に出ては予選落ちして、中部戦に出ては下位を走り、そのあげくに転倒して怪我までしていたんだぞ。

年でも負けて、筋肉でも勝てそうにない、色白の父ちゃんは、どんなに頑張ってもあんなに黒光りもしない。

子どもを三人作るのが精一杯の父ちゃんでは、もちろん“あっち”でも相手にもならないだろう。

そうなればこそ、この勝負は負けるわけにはいかないのだ!!


よ〜し、この天竜川で「どちらが速いか?」を決めようじゃないか。

父ちゃんは、愛しの“タレパイ号”に向かって走っていた。

IB2のレースまで、そう時間はない。今のセッティングでは、練習走行の二の舞だ。

急いでメインジェットを10番下げてみた。どんな感じか走ってみたかったが仕方がない。

その時、IB2クラスには、予選があったのを思い出した。

こんな中盤戦でもIB2クラスで予選があるというのは初めてだ。

その反面、IB1クラスは寂しい限りだが・・。(来年度の中部戦では、IB1クラスはなくなるそうだ)


気合いを入れて予選に臨んだが、くじは相変わらずのベリの方。アウト側しか残っていなかった。

少し落ち込んでいたら美杉の愉快な三兄弟の三男(
shiba3)さんがやってきて

「中島さん、ここは以外と穴場ですよ、うちのチーム員も先ほどフォールショットを取りましたよ」

と嬉しいことを言ってくれた。

こんな一言で、自分もフォールショットをとれる気がしてしまうのだから父ちゃんは偉いものだ。

ワクワクしながらスタートバーが落ちるのを待ってクラッチを繋いだ。

「やった!ひょっとしてフォールショット?」と思うくらいに出足は良かった。

しかし、すぐに何台かが並んできたが、第1コーナーは、目の前だ。


父ちゃんはアウト寄りなので一番奥のバンクを使おうと決めた。

その時、インからとても曲がりきれない速度で突っ込んできたヤツがいた。

どうもIBには、こういうヤツが多いので困る。


案の定、そいつは、無理矢理父ちゃんが使おうと思っていたバンクに当たって失速した。

そこに父ちゃんが突っ込んで転んでしまった。

みんなにイヤと言うほど砂を掛けられまくってやっと起きあがれば、そこには静まりかえった第一コーナーが・・。

この気持ちは、経験したものでないと分からないと思うぞ。

「種馬と勝負する前に予選落ちではシャレにならない!」


幸いエンジンはすぐに掛かったので、必死になって追いかけた。

1周くらいしたらようやく最後尾が見えてきた。とにかく15位以内に入らなければ!

5,6台抜いたところでショウゴが手を広げて「5」と叫んでいた。

きっと15位のことかと思って最後の一周でも2人抜いて安心していたら、

ゴール手前のフープスで無理にインを差して並んできた大馬鹿者がいた。


「ここで転んだら二人とも予選落ちだぞ、13位と14で良いじゃないか!頭わるいじゃないの?」

急いでアクセルをもどして通り過ぎる姿を見たら驚いた。

種馬ではないか!一緒のクラスだったのか。

やっぱり子作りのことしか頭にないヤツは何を考えているのか理解出来ん。


追い上げることに精一杯だったので抜いたことも分からなかったが、抜かれた種馬は必死だったようだ。

父ちゃんは、渋い大人だ。まぁ、お互い予選が通ったので“よし”としようじゃないか。


そして、いよいよIB2クラスのレースだ。

スタートを待っている種馬には、先ほどの行いに対してしっかりとイヤミを言ってやった。

父ちゃんは渋い大人だが、こういうお茶目な一面もある。


スタートはまあまあだったが、ここでもぶつけられて転んでしまった。

でも、今回は、第一コーナーを回ったフープスで2,3台の子が待っていてくれて嬉しかったぞ。

IBクラスは、20分もある。そんなに急ぐ必要はない。


始めに頑張りすぎては、もちろん最後まで持たない。

そこそこのペースで追いかけていくと見慣れたボロボロRMが見えた。

「御局(おつぼね)号だ!」間違いない。ついにこの時が来た!!


この時のために力を残しておいたのだよ、御局号よ。

本調子ではないとはいえ父ちゃんの“タレパイ号”は、‘05CRFなのだよ。負けるわけにはいかないのだよ。


コーナーで“御局号”に並んだ“タレパイ号”は、次に続くストレートで“御局号”を抜き去った。

ついついアクセルを握る右手にもいつも以上に力が入って御局号に砂をまき散らしてやった。


「さよなら〜御局、さよなら〜種馬!フェフェフェ・・!!」。

暫く走っているとこれまた見覚えがある後ろ姿が。長野のオヤジだ。

この“長野の怪人”も父ちゃんのライバルだ。

そういえば、予選は5位で通過していたと威張っていたな。


その上この怪人、種馬よりは明らかに速い。付いていくのがやっとだ。

しかし、天はやはり“タレパイ号”の味方だ。

怪人が前のライダーを抜き掛けた時、前の子が転んで引っかかってしまった。

「さよなら〜長野、さよなら〜怪人!」

労せず2台を抜いたところでゴールだった。

結果は18位。種馬と怪人には勝ったが、今一歩だ。

練習走行より少しはマシになってはいたが、やはり“タレパイ号”の調子も悪い。

そして、午後最後のIBオープン。

この暑さでは、みんなもヘロヘロだ。

ヘロヘロ父ちゃんも種馬や怪人に勝って喜んでいる場合ではない。まずは、第1コーナーを無事に通り抜けたいものだ。

少し慎重にスタートすれば、あっという間にベリの方。しかし、転ばなかっただけでも“よし”としよう。

ヨタヨタとなんとか中盤を走っている時に、後ろから2サイクルの音がした気がした。

まさか?振り返るが黄色いバイクはない。

少しすると又2サイクルの音が・・。振り返るがいない。種馬の霊か?

イヤ、今度は、はっきりと聞こえるぞ!とジャンプで横を見れば、

そこには泥だらけになったゾンビのような種馬と“御局号”がいた。

ゾッとしたぞ。しかし、その走りは、鬼気迫るものがあった。

だてにそこら中に子どもを作りまくっているだけではないな。その筋肉や黒光りもダテではないな。

それにこの暑さの中では、勝負は見えていた。すぐに離されてしまい、

その後には、“長野の怪人”にも抜かれて何とか14位でフィニッシュした。

“長野の怪人”は13位、“掛川の種馬”に至っては11位だった。

とっても悔しかったが、久々にしたライバルのオヤジたちとのバトルは面白かったのだ。

でも、よく考えるとこんな年寄りになってもレースに出てくるオヤジって

やっぱり“普通じゃないな!”とつくづく思うぞ。

母ちゃんに言わせると“父ちゃんも立派な仲間”だそうだが・・。