9月3・4日は、全日本第8戦近畿大会があった。
中部地方には全日本をやるコースがないので、この名阪スポーツランドが父ちゃんたちにとって一番近い会場だ。
だから毎年一番燃えている大会なのだ。万が一にも予選を通れるとしたらこの大会以外には考えられない。
それもいつものようにスタートに出遅れた父ちゃんが第1コーナーに突っ込んでいくとトップ集団が大挙して転倒し
その間を父ちゃんがノタノタと抜いていくという構図だ。
そして、2,3位で第一コーナー後の2連を死ぬ気で飛び超え、後はひたすら逃げまくる。
しかし、全日本の予選を通るようなヤツらの速さはハンパじゃない!1,2周ですぐに父ちゃんに追いつくだろう。
ここでもう一度転んでもらわねばならぬ。そこに4,5台は突っ込んでもらわねばならぬ。その上、コースを塞いでもらわねばならぬ。
その間に残りの2周を死ぬ気で逃げ切る。
それでも何台かはゾンビのように襲いかかってくるだろうから数台に抜かれて6位でチェッカーフラッグを受けるのだ。
この時ばかりは転倒覚悟で片手を上げてかっこよくガッツポーズをしようと決めている。
予選ぎりぎりの6位で通過というところに父ちゃんの奥ゆかしさが表れているだろう。
こんなことを父ちゃんは、毎回スタート5秒前まで真面目に考えている。
いわゆるイメージトレーニングだ。
だから緊張して怖い顔をしている野獣たちの中で父ちゃんだけは、一人ニタニタしている。
頭がいかれているとか不気味なオヤジだとか思わないでくれ。
いわゆるイメージトレーニング中なのだ。
今回のIB2クラスは、E組でクジは25番。IBオープンは、D組の20番だった。
この年になるとこんな事では驚かない。以前一番くじを引いたあげくにどん尻でスタートしたこともある父ちゃんだ。
もうこんなクジぐらいでは父ちゃんは動揺しないのだ。もう達観しているのだ。あと少しで悟りが開けそうなのだ。
E組とD組か。縮めて“ED”か!いわゆる“勃起障害”だな!!上等じゃないか!!!
あっちもこっちも衰えていく父ちゃんに対する挑戦だな。
しかし、世の中には、“掛川の種馬”のような突然変異もいるが44歳にもなればたいていのオヤジはもう元気がないものだ。
父ちゃんも自慢じゃないがもう元気がない。あの若さはどこに飛んでいってしまったのか!あ〜年をとるって悲しい〜。
でも、E組とD組だけからこんなにいろいろなことが考えられるのも年を重ねた成果だろう。
なんかこのEDという文字が父ちゃんを応援してくれているようだ。
こんな事を考えながら次々と埋まっていくスタート場所を横目に見ながら例の楽しいイメージトレーニングをしていた。
第1コーナーをボーと眺めていると今回は何か良いことがありそうな気がしてきたぞ。
スタート直前にこんな精神状態になれるのも年のなせる技だ。もう“悟り”の入り口が見えてきたぞ。
そんな夢うつつの父ちゃんを目覚ませるように一斉にアクセルを上げる音が聞こえた。
スタート5秒前だ。隣で叫んでいるヤツがいるが気にならない。気を集中してスタートだ。
そしてスタートバーが動いた。イメージ通り出遅れたぞ!
しかしレースはこれからだ。
第1コーナーがとんでもない速度で近づいてくる。
びびってアクセルをゆるめてブレーキを掛ける父ちゃん。
そんな時でもアクセルを開け続けるいかれた野獣たち。
さあ、ここでトップ集団が転ぶはずだ。
あれ?
あれ??あれれれれれ???
いつもここで父ちゃんのイメージは壊れてしまうのであった。