2歳児の様子(2月)


2月末に行うおゆうぎ会は、

保育者にとって一人ひとりの一年間の成長を見つめられる機会となっています。

不安そうに新しい環境に入った4月から、

保育者との信頼を得、共に笑い合える友だちを得、次々と新たなことに夢中になり、

思うようにできた喜びを保育者と分かち合うことで、

徐々に認められる喜びをも味わえるまでに育ってきたこの時期。

2歳児なりのイメージでお遊戯やリズムにのめり込むおもしろさに加え、

みんなの前で演じることをとても楽しみにしているようです。


そんな中で、純くんと陽介くんのこと。

純くんは2歳児で陽くんはひとつ上の3歳児ですが、

2人とも2歳児の4月に入ってきた頃、少し気になるところがありました。


純くんはとにかくこだわりが強く、

新しい環境になかなかなじめない頃は、周りの子のざわめきに怯えるようにし、

保育者の言葉かけや保育者がそばに近づこうとするだけでパニックを起こしていました。

それでも少しずつ特定の保育者にだけ、

「イヤー、イヤー」とつぶやきつつもくっついているようになったり、

青いカラー積み木にこだわり、周りの子が楽しそうに遊んでいても、

純くんは積み木に乗って窓から外を何十分も眺めていたりする日々が続きました。


一方、陽介くんは入園当初からお母さんがお迎えに来るとパニック状態になり、

お迎えを待ちわびる他児とは大きな違いが見られました。

お母さんともやりとりを重ね、徐々にお母さんが来てもパニックにならなくなったものの、

今度は周りの子との間で思う様にならないと、

「ちがうの、ちがうの」とパニックを起こすようになりました。


そんな二人の共通点は、どちらのお母さんも自分の子に対して、

「この子はこういう子なんです。」と、戸惑うふうでもなく、あっさりしているところ。

それとなく母子関係を探りつつも、

とにかく園生活の中でそれぞれの心のよりどころになるものは何かを見つけようと、

様子を見たり試したりしてみました。


そのうち純くんは、生活の中で何か新しいことに強い抵抗を示すこと、

自分のすることを拒否されると激しいパニックを起こすことが分かり、

純くんがこだわっている特定の保育者を中心に、禁止の言葉を使わず、

次の方向へ導く言葉がけを工夫しました。


純くんなりに自分をまるごと受け止めてもらっていると実感できたのか、

少しずつ周りを気にするようになり、保育者だけでなく特定の子にも関わろうとしたり、

嫌がっていたこともみんなと一緒だと受け入れるようになりました。


一年をかけていろいろな事をみんなでなら楽しめるようになった純くんは、

おゆうぎ会という大きな行事の雰囲気に初めは戸惑いましたが、

保育者の言葉にも耳を傾けることができ、

本番も普段通り楽しそうに自分を出せていたようで一年の心の成長を感じました。


陽介くんの場合は、保育者に対しても一方的にしゃべりまくったりして、

自分の思いが通じないとパニックを起こす状態は3歳児になっても続き、

心の通い合いがうまくできないようでした。


ある時、降園後、陽介くん自身が園で種まきをしたプランターをお母さんと見に来たら、

土の上をだんご虫がはっているのを見つけ、

芽が出る様にか一生懸命だんご虫をどかそうとしていました。

するとお母さんはあっさり「手が汚れるからダメ」。

案の定陽介くんは大パニックを起こし、

プランターをけ飛ばし土をひっくり返してしまいました。


「この子はこういう子なんです」。

同じ言葉でも、ありのままを受けとめようとしている純くんのお母さんと、

その言葉によって突き放してみようとしている陽介くんのお母さんの接し方には

大きな差を感じました。


陽介くんは、今年のおゆうぎ会に向けてもあまり意欲的に取り組めない様子でした。

楽しんでいるみんなから何となくおいてかれた様な顔をしている陽くんに、

「先生、陽くんがやってるの、ず〜っと見てるからね、がんばって」

思わず声をかけると、保育者をじっと見つめて頷く姿がとても印象的でした。

【3月の様子】

「先生、一緒に踊ろう!」2月におゆうぎ会を経験し、

子どもたちは自分たちの曲だけでなく、年上の子の遊戯の曲にも興味を持ち、

次々と見よう見まねで踊りを楽しんでいます。


 そんな中で、みんなと一緒に踊ろうとせず、保育者のそばでじっと友だちの様子を見ているひでくん、

盛り上がっているみんなに背を向けて、絵本を見ているのりちゃんがいました。

ゆうぎ会ではみんなに交じって踊っていたけど、あまり気が向かなかったかな、と思っていたところ…。


 ひとしきり踊って満足した子たちが、次のあそびに移っていったため、曲をかけるのをやめたら、

いままで絵本を見ていたのりちゃんが、さっと保育者のところに来て、「お歌をもう一回」と催促したのです。

そこで再びさっきの曲をかけると、のりちゃんは満足そうに、また、絵本に向かい始めました。

そしてひでちゃんもまた、保育者のそばでみんなの様子を見て楽しんでいるようでした。

保育者や友だちと曲に合わせて踊ることが、子どもたちの楽しんでいるかどうかの評価だと、

ともすると思っていた私たちは、2人の姿から、楽しみ方はいろいろなんだということを学びました。

とにかく体を動かす子、じっと見てから動き出す子、見た目には関心がなさそうな子。

表面的な態度や目標を一律なところに定めるのでなく、

体験してほしいことをひとつの「きっかけ」として子どもたちにさしだすことで、

そしてそこでの一人ひとりの思いや楽しみ方を保育者が受けとめることで、

大きな意味で、“みんなで一緒にする楽しさ”を体験できるのだと感じました。


 一年を通して自分のことが少しずつでき、身の回りのもののしくみに興味を持つようになった2歳児。

0〜1歳児の時に、家庭や園でいろいろな関わりをしてもらう中で、

様々な刺激を取りこみ、それを土台に発信を始めた2歳児。

2歳児は自分なりの表現が始まる時期であることを、

一人ひとりの個性豊かな言動に日々触れていると、思わずにいられません。


 冬の寒い日に、排便をすませ、あわてて保育者に「先生、うんちが燃えてる!」と、

湯気の立つ便を見せようとするよっちゃん。

なかなかキャベツを食べてくれないウサギに「おいしいよ、食べてごらん」と言いながら、

自分でも食べようとしてしまうさよちゃん。

前後ろ反対に着たトレーナーは、首を抜かなくても腕だけ抜いて、

ぐるっと回せばいいと気づき、それをズボンでも実行しようとして、

片足を入れたまま四苦八苦しているりょうくん。

テレビでディズニーランドの映像を見た次の日から、

毎日のように「きのうディズニーランドへいったよ」と、嬉しそうなあきちゃん。

どれも、うそだと捉えてはいけない、2歳児の純粋な思いです。


 まだ、自他の区別がつききらない、「未分化」だからこその、すごい吸収力を感じます。

それは、分化してしまったら、逆に衰えてしまうかもしれない、成長の原点とも思えます。

 そんな豊かな感性を発信し始めた2歳児と日々生活する上で、

保育者は子どもの表面的なものだけを捉えず、一人ひとりが見つめているもの、

イメージ、表現の仕方を受け入れ、同時に保育者自身が、

子どもにとって感性豊かな存在になることの大切さを改めて感じました。


 2歳児と関わることのできたこの一年は、保育者として、2歳児から学ぶことの多い一年でもありました。