園に行きたくない!

今年度、当園にも新しいお友達が65人増えました。

入って1週間ぐらいは、毎日が戦争のようですが、この頃はだいぶ落ち着いてきました。

朝、お母さんと別れる時に泣けてしまう子もいますが、 お部屋に入って先生に一回抱っこされればたいてい大丈夫のようです。

でも、お母さんにしてみれば、仕事が手に着かないくらい心配で、 「巨人の星のあきこ姉ちゃん」のように塀に隠れてそっと覗いています。

この時の泣き方にも個性があって、最初に思いっきり泣いて、 1、2日でころっと遊び出す子もいれば、

4,5日たってから泣き出す子もいます。

自分中心の世界から初めての集団生活ですから 「おかあさーん」と泣くのは当たり前の事ですよね。

そして、徐々に、まわりの様子を見ながら 「僕が泣いていたらこの人はどうするのかな」と先生を試すようになり、

やがて、(この場所もこの人も)僕の味方だと気づいてくれます。

もう一度、5月の連休明けに泣けてしまう子もいますが、 「一人で遊ぶよりみんなで遊ぶ方がたのしいや」と気づいてくれればしめたものです。

なかには、このような時期がなく、園に入るやいなやお母さんの手を振り払い 教室に飛んでいってしまう子もいますが、

あまりに親離れが良いと 「私はいったい何だったの」とお母さん自身が悩んでしまうこともありました。

「保育園(幼稚園)にいきたくない。」

この時期を過ぎて園にも十分慣れたはずなのに、

きっと、お子さんを園に通わせている親御さんなら1回や2回は 誰でもお困りになったことがあると思います。

小学生のお兄ちゃんが休みだからとか、ちょっと甘えてみたいとか、 たいていは些細な理由なのですが、

なかには気を付けたいものもあります。

「園なんかきらい・お昼寝がイヤ・給食が嫌い・友達がいじめる・先生が怖い」。

きっと子どもはいろいろな言い方で親御さんに訴えてくると思います。

もちろんその言葉通りのこともありますので、 よく子どもの話を聞いてあげてください。

しかし、今の自分の状況を上手く説明できないために 違う言葉で表現することもあります。

「お昼寝がイヤ」と言っていた子が一番最初に寝ていたり、 「給食が嫌い」と言っていた子がお代わりをよくすることもあり、

先生の方が悩んでしまうこともあります。

しかし、これらは決して嘘を言っているわけでなく、 その子なりの表現の仕方なのだと思います。

どうも朝からグズルと思っていたら、昼から熱が出てきたなんて事は良くあることです。

「今日は、どうも体がだるくて熱っぽいな、風邪でもひいたのかな」。 こんな事は5歳児でも言えません。

そして子どもはいろいろな信号を出します。

あきちゃんは、とってもおっとりとした落ち着いた子でした。

でも、年長さんになった頃からなぜかお友達とも上手く遊べなくなってしまい、 泣くことも多くなりました。

先生も最初は、環境が変わったせいかと考えていましたが、それだけではないようです。

お母さんにも相談しましたが、はっきりとした理由が分かりません。

ある日、「言葉遊び」をやりました。

これは、紙に「あ」とか「い」とかが書いてあって、 その後に「あいあい」とか「いぬ」とか書くのですが、

あきちゃんの「り」の所には「りこん」と書いてありました。

驚いた先生はそっとあきちゃんを呼んで、 「あきちゃん、りこんってどんなことか知ってる?」と聞いてみました。

急にあきちゃんは、声を押し殺して泣いたそうです。

そのあまりの子どもらしくない泣き方に、あきちゃんがどれほど苦しんでいたかと 思わず抱きしめてしまったそうです。

年長児のりょう君は、朝はいつも元気なのですが、帰りのバスで家が近づくと、 きまって寝たふりをします。

ついさっきまで、みんなと大声で歌っていたのに、自分の家が見えた途端に寝だします。

先生に起こされてもなかなか起きません。

「役者やなー」と僕は、バックミラーを見ながら感心していると、 ふらふらしながらお母さんに寄りかかっていきます。

お母さんも体調でも悪いのかと心配して抱っこをして家までつれていきます。

これを毎日やります。 お母さんもそのうちに怒ったりしましたが、絶対やめません。

でも、お母さんに抱かれていくその時の幸せそうな顔を見れば、 僕にはりょうくんの気持ちがよく分かりました。

三男のりょうくんにとって、この道路をわたって家の玄関までが、 唯一、お母さんを独占できる時間なのです。

家に着くとすくっと起きあがりお兄ちゃんたちと遊び始めるそうです。

子どものことを外に現れている部分だけ(見える行動、聞こえる言葉だけ)で 分かると思ってしまうと、大切な信号を見落としてしまいます。

子どもは、いろんな時にいろんな方法で信号を出します。

保育者も外に現れる形だけで安心しているとなかなか心の中には入っていけません。

あきちゃんのお父さんは年長さんの夏に家を出ていってしまいました。

でも、そのころからだんだんと落ち着いてきました。 家の中に、いざこざがあることがいけなかったようです。

今では、中学3年生になってお母さんより背も高くなってしまいました。

「この頃は、私の言うことなんかちっとも聞いてくれない」と嘆くお母さんですが、

「お母さんと一緒の保母さんになりたい」 と言ってくれると嬉しそうに話してくれました。

りょうくんの寝たふりも小学校になったら全くなくなってしまったそうです。

今では、学校から帰るなりすぐに友達の家に遊びに行ってしまうそうです。

「あのときは、恥ずかしくてたまらなかったけど、 私に甘えてくれた最後の時だった」とお母さんは言っていました。