赤ちゃんセラピー?(2004/11) 

 赤ちゃんって不思議な力がありますよね。

本園には、10年ほど前から近くの中学3年生全員が家庭科の授業で何日かに分かれてやってきます。

その時の出来事です。


赤組さん(0,1歳児)のクラスに入った男の子が突然泣き出してしまったことがありました。

あまりに急なことで先生たちも何が起こったのか理解出来ないようでした。


その男の子がポツリポツリと理由を話してくれました。

「僕は、こんなにジッと人に見られたことがない・・」

そういえば、この子が入ってくるなりまーちゃんを始め何人かの子がじ〜と見ていました。

「僕のことを見てくれる人なんて誰もいないと思っていた・・」


「こんな僕のことを真っ正面から見てくれたのは初めて・・」

赤ちゃんたちのつぶらな瞳は、どうやら中学生の心を動かしたようでした。

「だけど、それだけじゃない・・」男の子は続けます。「この部屋に入ったらみんな優しかった、先生も赤ちゃんも・・」


「先生たちは、いつも赤ちゃんたちを褒めている、歩いただけで、積み木が積めただけで、笑っただけでも・・、

だけど僕の先生たちはいつも怒っている」


学校にも居場所がなく、どうやら友達関係にも行き詰まっているようでした。

「泣きたい時には泣けばいいのよ、そして笑いたい時には、笑えばいいのよ」と先生。

「この子たちはいつもそうよ、でも大人になると段々と出来なくなることだけどね」

「私もこの子たちには、教えられることが多いわよ」他の先生が続けました。

男の子は真剣に聞いていました。

いつの間にかその子の膝には、まーちゃんが入っています。

その後は、この子も笑顔になって赤ちゃんたちと遊び始めました。

そして、帰り際に小さな声で一言「また来ていいですか?」。

「当たり前じゃない、いつでも待っていますよ」そう言う先生の隣でまーちゃんがバイバイをしています。

男の子は、少し恥ずかしそうに、でもしっかりとまーちゃんの目を見ながら小さく手を振りました。


事務所から中学生たちが帰って行く姿が見えました。

その子が集団から少し離れたところをトボトボ歩く姿が見えました。

「君は自分で気付かないだけでいっぱい良いところがあるんだよ!」

僕の心の叫びが届いたのか、こちらを向いてニコッと笑う姿が見えました。