赤木平周辺Figure8ツアー

2000年5月3日

TAJ年報に掲載したものなので、会員の人にはnewではなくて失礼。でもとてもいいところです。 


 薬師岳から黒部五郎岳にかけての一帯はスキーツアーに適した地形をもったエリアだが、アプローチの長さから、もっぱら立山から槍ヶ岳に至る「日本のオートルート」の通過地域として利用されてきた。ところが近年、スーパー林道の飛越トンネルの開通とともに、車を使えば北ノ俣岳を経由して太郎平まで一日で入山することが可能になり、五月連休期間中に太郎平小屋が食事付きで営業されていることとあわせて、より気軽にこのエリアを楽しむことが可能になった。「岳人」誌でも、2000年の2月号、5月号と、このエリアのツアースキーが特集されるなど、人々の注目も集まっている。長い連休がとれたので、太郎平小屋に長期滞在して周辺を滑ってみた。ここでは、太郎平小屋から日帰りで赤木平周辺を滑った記録を紹介する。

 上で紹介した雑誌記事などを参考に、まとまった滑降ができる場所を探してみると、赤木沢と赤木平北端の2カ所が目に付いた。一日で両方をなるべく楽しく滑れるコースはないかと、小屋のコタツでごろごろしながらあれこれ考えた結果、赤木平を中心とした8の字形をしたコースを思いついた(右図参照)。


雪に埋まった太郎平小屋

 北ノ俣岳までは、オートルートをたどる人たちと前後しながら稜線をたどる。ときおり振り返って薬師岳の美しい姿を楽しんだり、雷鳥さんにあいさつしたりしながらゆっくり登る。山頂に近づく頃にはガスにまかれてしまった。ここから赤木平にはまさに木一本ない雪原がゆるやかに広がっている。晴れていれば迷うこともないが、ガスっていると思わぬ方向に降りていってしまいそうで、辛抱強くガスの晴れ間を待って方向を見定める。ほとんどの人は稜線をたどって黒部五郎の方に向かうので、赤木平をさまよっているのは僕たちぐらいと思ったら、他にもうひと組み二人パーティーがいた。


対岸から見たところ。Aが赤木沢、Bが滑ったところ。
赤木沢の沢身におりたつ

 赤木沢をストレートに下ることも考えたが、雑誌記事を誤解して赤木沢左岸の斜面はどこでも滑れるような気がしていたので、左岸上部をトラバースして、2万5千図「三俣蓮華岳」の赤木平という字のすぐ下あたりまで行ってしまった。行く手はどうみても樹林が濃そうなので、そのあたりから赤木沢に流れ込む支沢右手の一枚バーンを降りることにする。結構斜度と高度感があり、楽しめた。夏の沢登りを思い返しながら赤木沢を下るのも面白かっただろう。沢は完全に雪で埋まっている。今年は大変雪の量が多いので安心して沢筋を歩ける。小屋で作ってもらった握り飯を食べていると、先ほどの二人組が沢筋を下ってきた。テント泊のテレマーカーだ。今夜は黒部源流の五郎沢出合いぐらいでキャンプかな、とか。若いテレマーカーたちがユニークな遊びをしているのは頼もしい。


中俣乗越付近から見た赤木平

 陽ざしでベトベトになった雪をかき分けながら、標高2100mあたりから右岸の尾根を登る。樹林はまばらで登りやすい。対岸に自分たちのシュプールが眺められて楽しい。上部はまたガスの中だったが、地形は単純で迷うこともなく中俣乗越に到着。ガスの晴れ間に見える赤木平が真っ白なクジラのようで雄大だ。ここからまた赤木平に向かってトラバースする。北田さんいわくの「日本一の斜滑降」の逆行だ。一面に真っ白な世界で去来するガスにつつまれ、ときおり射す日差しをあびながら歩くのもまた「日本一」の気分だった。


翌日、北の俣岳北方から見た赤木平の北端。
左手の白いところを滑った。右手遠くに黒部五郎岳。

 赤木平では今朝の自分たちのシュプールと再会。この広い雪原に今日は二組、4人分のシュプールしかないので、すぐ見つかる。何となく楽しい。そのまま高度をおとさないようにトラバースを続けて赤木平北端にでる。結構長いので、いっそのこと少し登って赤木平の頂上部をたどったほうが気分的には良かったかも知れない。最初は樹林の中だが、すぐに雪原の滑りになる。一見緩斜面だが、結構斜度があり楽しめる。午後の日差しの中で水分をたっぷりふくんだ重い重い雪を、水上スキーのような感じでジャーッと音を立てながら滑る。こういうときには無理な操作は禁物で、両方のスキーをきっちり平行にして上半身だけ「ターンをしたふり」をして待っているとスキーがだんだんついてきてターンができる。(「したふりターン」と命名)


 下りついた薬師沢源流も完全に雪で埋まっている。太郎平に直接登り返す手もありそうだが、結構急斜面なのでリスクを避け、薬師沢を忠実につめて薬師峠に出た。今日は誰も通っておらずトレースがない。一日の最後にラッセルの登りはたいへんつらかった。

おおよそのコースタイム
08:00 太郎平小屋出発 2340m(標高)
10:00 北ノ俣岳 2561m
11:00 赤木沢におりたつ 2100m
13:00 中俣乗越 2550m
14:00 赤木平 2430m
15:00 薬師沢におりたつ 2020m
16:30 薬師峠 2294m
16:45 太郎平小屋帰着 2340m

 結局、太郎平小屋には5泊も滞在して、山上のリゾート暮らしを楽しんだ。連休前半は天候が安定しなかったので、天候回復を待ちながらコタツで読書を楽しみ、晴れ間をみつけては、軽いザックでスキー散歩を楽しんだ。富山からヘリコプターであがってきた人たち(一人3万5千円とか)で多少込み合ったときもあったが、昨今の双六小屋の喧噪よりはずっとましだ。小屋の人たちも気持ちよく、毎回趣向をこらした食事は5泊してもあきなかった。地形図を見ていただければわかるように、北アルプスの他の地域と違ってテレマーク向きの中斜面が豊富で樹林もあまり密ではないので、滑ったり登ったりを繰り返すのに適している。是非多くのテレマーカーの皆さんに試していただきたいと思う。
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